三章 エルフの里

第36話 そんなに虫が嫌いですか?はい、アリス以外は

「よォ、冒険者のみなさんようこそ【商業の里】ライブラへ!」

「あんちゃんめんこい子ばっか連れて羨ましいなぁ、ほれ眼福サービスにまんじゅう持ってけ!!」

「今日はチョコレートが安いよ!」

「滅多にお目にかかれない貴重なアダマン装備が発掘されたよ!お姉さんみてってよー!!」


エルフ森林国ツーパ最初の街(エルフ達は何故かどんな規模の街であろうと【里】と呼ぶ)の雰囲気に到着早々俺とかえでは言葉を失っていたのだった。

見た目は若く美男美女揃いのエルフ達、その口を開いて飛び出してきたのが冒頭のセリフだったからだ。


「どうかなさいましたか?」

「いやいやエルフってこう、森の守り手とか人間嫌いの社交性が無くて隔絶された森に住む一族とかじゃないの?」

「お二人のイメージは分かりませんけどエルフ達は大体あのような感じですよ?みな明るく積極的に他種族とも交流を持つのが彼らです、そして農耕に通じていてとても美味しい野菜を貿易の主戦力としてるんですよ。えーと他の特徴としましては・・・そうだ、半人半精霊の種族ですのでエルフ特有の魔術や弓に秀でていて千年以上生きる者もいるとかですか?」と、最近よくこの世界の世情や文化を学んでいるらしい新米女神のシルバーが答えてくれた。


「そうなのか!?いや、かえでに教えてもらってたエルフのイメージと随分違うなって。」

「そうだね、私の知ってるのはあとは菜食主義者ベジタリアンで生臭いものが食べれないとか、森を神聖視してるとか。」


「今日は久々に獣王国から活きのいい海鮮が入ってきてるよ!どうだいそこの若奥さん!!」

「やぁねぇもう!おばあちゃんよアタシは、今日はアサリを頂こうかね。」

「ちげえねぇ!はっはっはっは!!」


・・・どうやらヴィーガンの心配をする必要はなくなったようだ。


エルフの里はイメージ通りとは行かなかったものの、巨大なツリーハウスや切り株を利用した建物などまさにファンタジー色に溢れた建物ばかりなのは少し安心した。

またエルフの国だからといっても樹木ばかりではなく、普通の建築物に混じって大木が生えている感じだ。

ちなみに里の中はとても広く、タラスク馬車に乗ったまま入れるほど街道は整地されておりその両端に様々な商店が展開している。

さて、ダンジョンはやはり巨大な世界樹とかだったりするのかな?


「妾はエルフの国に立ち入ったことはさすがになかったのう、奴らの作る野菜は絶品という話は聞いとるが。」


ひょこっと御者台に頭を出すキツネ耳の可愛いのはウシオ。

幼女のようななりではあるが彼女もまた数千年を生きる大妖怪九尾の狐であり俺たちのいた日本からやって来ていた【漂流者ドリフター】でもある。漂流者ってのは異世界転移者のことで百年単位で現れたりするらしい。

幼い少女からグラマラスな妙齢の女性まで自在にその姿を変えることができ、商業都市バランのギルドマスターでもあるが俺たちと旅ばっかりしてていいんだろうか?


「獣王国では珍しいダイコンやコメを使うた料理もあるらしな?ウチも新しいレシピ仕入れなユウスケちゃんに飽きられてまうしな。」

「ライラはごはんがうまいんだぞ!ぜったいあきないからな!」


それぞれニコニコしながら答えるのはオセロメージャガーの戦士のライラと鋼鉄毒竜クロムドラゴンのクロだ。クロはクロノス王国で、ライラは直前までいた獣王国フェンリルで仲間となり、魔物使いテイマーのかえでにテイムされて仲間となったのだ。・・・実質俺を好ましく思っているかららしいが。


「アリス、ダンジョンがあるのはここの街・・・里じゃないのか?」

「いえ、この街を通り進んだ先にある迷宮の里サジタリウスがそうですユウスケ様。」


アラクネの侍アリアドネ、最初にこの世界で仲間になった子だ。

最初はレッドキャップに不意をつかれて攫われかけていたが、テイム後はかえでの能力によってステータスや成長速度も倍加。元よりの素質もあってA級冒険者程度では彼女に適う者はいないだろう。


「ボクも幼い頃に母さん達に連れられて行っただけですが、あの迷宮はサジタリウス城と呼ばれる上へ上へと昇っていく塔のようなダンジョンです。もちろん高層となればなるほど強力な魔物も跋扈していますし、ボス級モンスターもいるとのこと。」


結局ライブラには立寄ることも無く通過した俺たち、それはもちろん・・・。


「街中でこんなことできないもんなぁ。」

「悠介ー、お肉焼けたよー!」

「おーにくー!」


魔法の熟練度を上げた俺の【亜空間アナザー】にはかなりの大きさのものが収められるようになっていた。

今回入れてみたのはヘイムダルでカグヤさんに貰った

実はこの世界に来てから一番気になってたのは野営の際の虫だ。魔物や夜盗なら【探査エクスプレーション】で分かるが焚き火にただ引き寄せられるだけの虫どもまではわからない。


俺もかえでもわかる通りインドア派、キャンプなんてそれこそハブられまくっていた林間学校の思い出しかないのでほぼ記憶に残っていない。そんな奴らが初めての野宿なんてしてみろ、虫にたかられて悲鳴をあげるのは必至である。主に俺があげた。

あのレッドキャップを壊滅させた晩にアリスの頭を這っていた見たこともないほどでっかいゲジゲジのような虫がもし寝床に入ってきたらと思うだけで意識を手放せる。本人は軽く摘んで投げ捨てていたのはさすが血の気が引いた。


それから馬車で野営する時は【亜空間】で作った空間の中で寝ていたりしたのだがアレはダメだ。あの中は文字通り時が止まっているためちょっと寝すぎたかと思って外に出ても「おや、ユウスケ様なにか忘れ物で?」などと外にいた者にとっては入ってすぐ出てきたとしか映らなかったのである。

なのでヘイムダルの事件の時の恩賞で貰った邸宅をこうして【亜空間】に収納しておき、ここで出したのだ。


・・・魔法で防虫すればいいだろって?やってみろ、俺は寝てる間は魔法が使えない・・・今のところはな。

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