第26話 オセロメー・・・ってなんですか?

海上都市アングィラは長年の間漁業と貿易で発展してきた獣王国きっての港街である。

丁度街があるのは周りを山に囲まれた大きな入江になっており、その大部分が海上に桟橋を張り巡らされた上に建築されているために海上都市。その増築に増築を重ねた街並みが縦横無尽な様子を“タライに入れた大量の鰻のよう”だと揶揄した貴族の言葉から漁師たちは違ぇねえといつしか自らウナギアングィラと名乗るようになったという粋な街である。


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「そう聞くと余計にウナギとか食いたくなるよなぁ・・・。」

「そこら辺が日本人だよねぇー、水族館に行って食欲に直結するとかさ。」


ラタトスクを出た俺たちがまっすぐ向かったのはギルド長から直々に依頼されたアングィラの調査であった。

なんでもクラーケンという巨大イカが我が物顔で海を荒らしているため現在海上貿易も滞り、漁師も海に出れないためどんどん人が離れているらしい。


「そんなことよりほれ、街が見えてきたぞ?」

「ホントだ、でもなんか向かってくる馬車がさっきから多くないか?」


これもクラーケン被害の影響なんだろうか、こちらの馬車とすれ違っていく馬車がやたら多い。


「街を離れると言うよりこれは逃げ出して来ておるな、タラスクよ急げ!向かってくる馬車は避けよ!!」


呑気に構えてたら街は既に臨戦態勢だったようだ、俺はぶつからないように舵を取りながら城門のような立派な門から街に入っていくと・・・そこに見えたのはまさに上陸してくる勢いで蠢く巨大な烏賊だった。


「アリアドネ参戦します!はああっ!!」


一番槍とばかりに馬車から飛び出したアリスはいつの間にか例の八刀流スタイルになっており、向かってくる触腕を斬り捨てていく。まるで踊っているように、ってそれどころじゃない!馬車にもイカは迫ってくるのだ。


「【水切ウォーターカッター】!」


それを右手五本の指それぞれの先から同時に発動して薙ぎ払うともう巨大イカは輪切りとなって崩れ落ちる・・・焼いたら美味そうかも。


「なんだ呆気ない。」

「悠介、一体じゃないよ!海みて海!!」


かえでが指さした先に見えたのは更に数匹のクラーケンが港に上がってくるところだった。

何匹いるんだこいつら!


「助けてー!!」という悲鳴に振り返るとそこには金髪に黒い耳の生えた獣人がイカの触手に絡め取られぐるぐる巻きの状態で空中で拘束されているところだった・・・誰?


「ウシオ、クロ頼む!纏めてやっつけたら後でご褒美だ!ブレスは禁止!!」

「よっしゃー!!」

「人使いが荒いのう!!」


たちどころに魔力を噴き出し巨大化したクロはクロムドラゴンの姿となって群れを弾き飛ばしていく。そしてウシオは舞うようにクロの取りこぼしをライフルのような銃で撃ち抜いていく。

俺は捕まっている獣人の子に向かって走り出すと【鉄塊アイアンクラスター】で作りだした弾丸を拳銃の先から直接撃ち放ち触手の本体の一際巨大な烏賊の化け物を蜂の巣にして女の子を救出するのだった。

あんまり触手プレイは見てて気持ちいいものじゃない。


「大丈夫かあんた・・・うっ。」


駆け寄った俺は思わず上着を脱ぐと彼女の扇情的過ぎた体に掛けてそっぽを向いた。

最初から何も着ていなかったんじゃないか?という程の鎧か服のようなものは千切れて一部が何とか身体に残っている程度だったのだ。

あれだけの触手に巻き取られたのだから無傷では済まないだろうと【治療トリートメント】を使って回復させる。

・・・流石に装備までは直らないよな。


「祐介さん無事ですか!」と駆け寄ってくる女神。

「ああ、みんなは?」

「クラーケンはこれ以上いないようです、既に危機は去っています。ん?その女性は?」

「最初にしとめた奴より更にでかいやつに捕まってたんだよ。」

「・・・ホントに悠介さんは女性の危機を救う機会が多いですね、三人目では?」


「王様だって助けたろうよ。」とシルバーと話していたら寝ていた彼女が起きたようで上体を起こしてこちらを見ているのに気づいた。


「あれ、ウチ化け物イカに捕まったと思うたらなんでこないなとこに・・・?」


そう、起き上がったので俺の上着で隠しておいた素っ裸の上半身が丸見えになった。

もちろん俺はそうなると思ったので手で目隠し済である。


「見えてますから隠してください・・・。」


「えっ、ひゃあ!!!///アハハハハ、ゴメンなぁウチの裸見たって嬉しゅうないもんなぁ。」と、一瞬糸目を見開いて驚き、真っ赤になりながらまた目を潜める彼女。

そういやうちの女性陣は羞恥心をどっかに売り飛ばしてきたような連中ばっかりだからこういうリアクションは新鮮だな・・・。


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そうして事態は沈静化し、俺の【探査エクスプレーション】でも周りに敵対する反応が無いのを見てようやく落ち着いたのだった。


「助けてくれておおきにな、ユウスケはん?ウチはこの街で冒険者やっとるオセロメーのライラっちゅうんや。」

「オセロメー?」

「詰まるとこジャガーの戦士ってやつやね。」


【オセロメー】ジャガーの戦士

一族の大体の者が尻尾と手足の先と首元の一部は黄色い体毛に覆われ他は露出した美しい褐色肌を持つ、獰猛な大型のネコ科から派生した獣人種である。そのしなやかな身体はバネのような俊敏さを生み出し、高い機動力を誇る。

体毛部分には特徴的な丸い斑点が浮かび羽飾りを好んで身につける傾向にあるようだ。

森林地帯を主な生息地としており、あまり都市部には近寄らない一族だがたまにこうして向上心や好奇心旺盛な者は冒険者となる。

武器は黒曜石を砕いて木に打ち付けたような原始的な歪な剣を愛用するのだがその質は高く、見た目を遥かに超えた切れ味を誇るのだ。欠けてしまっても代わりの石を使うことでその攻撃力の高さは衰えることは無いという。

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