第18話 王様もテイムするんですか?※しません

俺たちは普段そこそこのクエストを受けたり残ってる大量のレッドキャップを素材を少しずつ売ったりしながら日銭を稼ぎ、アイムさんからオススメされた宿で暮らしている。

居心地はそこそこで風呂は無いので共同浴場に行くか俺の創った【浄化】クリーンの魔法で服の汚れ諸共綺麗にしたりしている。


しかし俺たちの宿にしている【オリーブ亭】の一番の売りは一階の食堂である。ここの女将さんはあの大妖怪ウシオも太鼓判を押すほどの腕なのだ。特にグリーンホーンと呼ばれる森牛の煮込みは絶品だ。

今回の遠征でもあの味が忘れられずに六日分も弁当をお願いしてしまっている・・・まあそれもうちの女性陣の料理に一切期待できないということもあるが。

一度アリスが『母から教わった料理を披露します!!』と出ていったかと思えば、野生のイノブタの腹にキノコをこれでもかと詰めしこみ塩だけ振って丸焼きにしたものを出されたことがある・・・アラクネにとってはご馳走らしい。結論から言えばその時に俺は初めて回復魔法まで創れることに女神様シルバーへ感謝した。


なんでそんな話をしたって、ようやくたどり着いた王都クロノスでは現在流通が滞っているとかでマトモな料理屋は軒並み閉店していたからだ。

旅の醍醐味は食に有りなんて言葉もある、だから期待してたのにそれがロクにないなんて・・・。


「妾がドライグのヤツに呼ばれたのもそこら辺の事情なのじゃ。なんでも隣国との貿易が途絶えておるらしくてな、それが人災かもしれぬので騒ぎになる前に鎮めて欲しいそうじゃ。」

「で、これから向かうのは?」

「依頼人の元に話を聞きに行くのよ。」


そう、大通りを通って今向かっているのは王城だ。

ウシオは普段の姿から170はある俺よりも背の高い美女の姿となってパーティの先頭を歩いていた。

どこから調達したのか、胸元は二つの山脈を強調して押し上げスリットは大胆に腰の辺りまで開いた真っ黒な中に美しい刺繍の入ったチャイナドレスを着込んでいた。首からは美しい毛並みのファーショール・・・じゃないな、自分の尻尾の数本を肩からかけてるだけだアレ。

その堂々した振る舞いは妖艶の一言、傾国の美女なんて肩書きも伊達ではないのだろう。

ホント、普段の姿を知らなきゃの話だが。


「貴女はバランギルドの【白面びゃくめん】のウシオ様!」

「あくまで此度の訪問はあくまでお忍び、く王の元へ案内あないせよ。」

「「ハッ!!」」


と、門番達が駆け出すとすぐに側近だと名乗る初老の騎士を連れて戻ってくる。


「お久しぶりですウシオ殿。ささ、ご案内致します・・・して其方そちらは?」

「妾の護衛を務めてきた者達だ。同格の扱いをせよ。」

「そればかりは・・・いえ、畏まりました。」と踵を返した騎士は先導して歩いていく。


「今何かしたのか?」

「目敏いではないか。幾分頭が硬かったので少しばかり従順になるようにな。」


そう言って指で狐を作ってみせるウシオ、ニマァと微笑む姿は普段の幼気いたいけな姿がダブって見えた。


通されたのは荘厳な謁見の間、ではなく王の寝所だった。それでも一個人のものとしては規格外の広さ、普通の家一軒くらいは余裕で収納出来そうだ。


「おお、来てくれたか【白面】の。久しいな・・・ゴホッゴホッ。すまんな、ベッドからも立ち上がれんで。」

「おぬしが悪竜の瘴気にやられたと聞いてな、妾に教えを乞うていた頃からなに一つ変わっていないではないか!!」

「はは、耳に堪えますな・・・ところで後ろの者たちは?」

「うむ、妾の護衛を任せた新進気鋭の冒険者である。悠介よ、

「当然だ。」


病床へ寄ると俺は右手をかざし【浄化】と【治療】トリートメントを並列起動する。

これがアリスの料理を食った時に苦し紛れに創造し命を取り留めた魔法だ、あの時ばかりはこの世界に来てから本気で【死】に震えた。

【治療】は身体から疾病や猛毒すら排斥し、健康な状態に無理矢理回復させる魔法である、故に体力はすぐには回復しない為あまり戦いには向かないのである。


魔法の光が収まる頃には先程までの青白く痩せ細った姿から活気溢れる活き活きとしたナイスミドルに変わる王。


「ここまでとはな・・・妾の術では出来ぬ所業よ。」

「な、なんと・・・死を待つばかりと思っていたが師匠以外にこんなことが出来る者がいるとは・・・まさか彼もだとでも言うおつもりで?」

「うむ。しかしお主はいつまで名乗りすらせぬ気だ?病弱な泣き虫小僧が随分偉くなったようじゃな?」

「!!、これは失念していた。」


立ち上がるとベッドの横の上着を羽織り俺たちに跪き右手を胸に添える。


「自己紹介が遅れ申し訳ない。余はクロノス国王、破竜王ドライグ・リチャード・クロノス十三世である。【白面】のウシオ殿並びに【異邦人】ドリフターユウスケ殿にこれ以上無い感謝をここに述べます。」


堂にいったそれは心からの敬意を表す姿勢だった。

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