第29話 嘘吐きはエンドロールの始まり―2
銀太郎が視界を取り戻すと、エルフィンの街はエルファリシア城から遠く離れた海の上に浮かび上がっていた。
「時間もなかったし、街ごと転送したけど、これは結構無理をしたわね」
ナルタロが頭を押さえてふらつきながら言う。
「デタラメかよ。街一つを瞬間移動させるなんて……」
「天才ハッカーを舐めないで欲しいわね。……まあ、この私もソラリスにまんまと騙されてこの世界に幽閉されたプレイヤーの一人なのだけど」
「その辺り、もう少し詳しく教えていただけないでありますか?」
「いいわよ。でも、リッキーには言葉で教えるよりも直接思い出してもらった方が早いかしら?」
「へっ?」
ナルタロがリッキーの額に触れる。
直後にリッキーは糸が切れた人形のように立ったまま動かなくなってしまう。
「お、おい、リッキー?」
銀太郎が心配そうに声を掛ける。
「――――私は、リッキー……ではありません」
だが、そう呟いたリッキーは以前の彼女とはどこか様子が違っていた。
「そうよ。あなたの本来の姿はリークレイスという騎士の少女なんかじゃない。何万回も繰り返されてきた勇者と魔王の戦いを止めるため、私が隠していた世界を救う真の英雄」
「ええ、全て、思い出せました。……私は成田居頃に生み出された贋作のサイバーデウス・ディセイブレイヴ」
「リッキーがサイバーデウス!? ナルタロが造りだしたというのか!?」
「神様を造りだすなんて骨が折れたわよ。それもこれも、果てしないループと犠牲になった100万人の勇者のおかげ。この世界は勇者が魔王を倒すという物語の繰り返しを継ぎ接ぎして一つの歴史にしているようなものなの。ゲームで言うところのデータ引継ぎ周回プレイみたいな感じね。ソラリスはそうやって、この世界の違和感を誰にも悟られないようにしながら、プレイヤーたちを物語の終わりまで導き、魔王を倒すも倒さないも関係なく、ゲームに満足してログアウトすることで冒険を放棄したプレイヤーの意識を己の体内に吸収していたのよ」
「じゃあ、俺とお前はどうして無事なんだ?」
「私が平気なのは、世界の異常にいち早く気づいて自分の存在をソラリスに悟られないようにチートで隠ぺいしていたからよ。因みにこの場合のチートというのはソラリスからもらったものじゃなくて、私が自作したMOD――要するに改造データのことを差すわ」
ナルタロが自らの手の内に黒い拳銃を出現させる。
拳銃は銀太郎たちのいた現実世界のものとそっくりであり、剣と魔法のファンタジー世界には似つかわしくないものであった。
「この拳銃は鉛玉も出るし、レーザー光線も出るし、連射も出来る。私の思った通りに改造することが出来るのよ。仮想世界だからこそ出来る正にチート技ね。物質を生み出すだけじゃなくて既存アイテムの増殖、情報の書き換え、自分の無敵化など、結構やりたい放題出来るわ」
「お前が神様かよ」
「確かに私は普通のプレイヤーからすれば、何事も思いのままな神様の力をもっているかもしれない。それでも、私がこの世界に存在していられるのはエルファリシア・オンラインを創造したソラリスがいるから。世界を運営しているソラリスに一度でも目をつけられてしまえば利用規約違反の大義名分でアカウントを消去されていたでしょうね。そのせいで私は表立って行動することが出来なかった。そこで、私と同じくイレギュラーな存在と化していたあなたを利用させてもらうことにしたのよ、銀太郎ちゃん」
「俺を利用していた?」
「あなた、ソラリスからチートを受け取っていないわよね?」
「ああ。転生者がチートを貰い過ぎてどうのこうのとか……」
「それは全くの大嘘。実はあなたもゲームの開始時にチュートリアル達成の特典としてアイテム化されていたチート能力を受け取るはずだった。恐らく、あなたはその過程でソラリスも想定外の行動を起こしてチートを受け取らずにゲームが開始された。私の考察では、チュートリアルの段階でNOAHを強制終了でもした可能性が考えられるわ。あなたのステータスがおかしな表記になっている原因もそれによって発生したバグによる現象でしょう。チートを受け取る直前でソラリスが暴走を始め、あなたはゲーム世界に閉じ込められ、そのまま強制終了をしてしまったため、あなたはゲーム世界から出ることも出来ず、ゲームを『始まらないまま始めてしまった』状態になってしまったようね」
「なんか俺、とんでもなく歪なことになっていないか?」
「歪……というか、幸運にもそれであなたは今まで生きてこられたのよ。彼女からチートを受け取ったプレイヤーはチートを介して彼女と接続され、ゲームのクリアと同時に意識を手繰り寄せられて永遠に閉じ込められる。それはチートを手放した私のような人間も同じ。私の他にも世界の秘密に気づいてチート能力を手放した後に魔王を倒したプレイヤーもいるけど、結果は変わらず、彼らもソラリスに取り込まれてしまった。それから私はソラリスに対抗出来る存在としてサイバーデウス・ディセイブレイヴの因子をリッキーの祖先に埋め込み、ソラリスを打倒するプログラムの試作品を聖剣という形にして守らせてきたのよ」
「はい。それこそ、私の持つダイザカリバー、改め、
ディセイブレイヴが持つダイザカリバーの台座が封印を解かれ、ただの岩となって床に転がる。
真の姿を現したマトリクスカリバーを握るディセイブレイヴはどう見ても世界を救う英雄に相応しい風格を纏っていた。
「マトリクスカリバーの切っ先は虚無に触れると物質で埋め立てる性能があるわ。私とディセイブレイヴはソラリスを止めに行く。あなたはどうする?」
ナルタロは銀太郎に尋ねる。
その台詞はもう銀太郎がこれ以上戦う必要がないと言うかのようだった。
「……まだ、俺も戦うさ。力になれるか分からないけど、騙されたからには騙し返してやらなければ気が済まない!」
銀太郎は世界を終末へと誘う者となったソラリスを睨みつけてそう言うのだった。
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