第27話 嘘吐きは最終決戦の始まり
「初めまして。私は君を導く女神のソラリス。――エルファリシア・オンラインへようこそ。君は100万人の仲間と共に魔王を倒す勇者となるのです」
一面の白い世界。
青年の前には美しい女神が立っていた。
「これから始まるのはチュートリアルイベント。あなたにはキャラクターメイキングをしてもらい、エルファリシアへと降りてもらいます。チュートリアルを終えた暁には女神特製の強力なアイテムが手に入るスペシャルガチャが回せますよ。因みに現在は仮登録の段階ですが、ユーザーデータをNOAHと紐づけしています。チュートリアルの途中でゲームを強制的に終了してしまうとゲーム進行に関わる重大な不具合が起こってしまう可能性がありますのでご注意ください」
青年の手元にホログラム映像のようなウィンドウが表示される。
「そちらのメニュー画面からキャラクターメイキングを行います。初期ステータスの割り振りなども出来ますからご活用くださいね」
青年は悩みながらも全ての項目の設定を終える。
「はい。お名前は『近衛銀太郎』様ですか。NOAHに登録されている本名とは異なりますが、こちらをプレイヤーネームとして使用するということでお間違いないですね? あっ、ボイス設定をたった今反映しましたので、もう声を出すことも出来ますよ」
「あ、ああ……本当だ。声が出るな」
青年こと近衛銀太郎はゲームの中で発声が出来るようになり、普段とは違う自分の声に戸惑っていた。
「焦らなくともすぐに慣れますよ。それでは、キャラクターメイキングも終わったことですし、早速ガチャを行いましょう。なんと、このガチャではSSR装備が今なら確定で一つ手に入るんです!」
「勇者とか女神とかいかにも中世ファンタジーみたいな世界観なのにいきなりガチャって……色々世界観が台無しだな」
「細かいことを気にしてはいけません。この世界はゲームなんですから。ガチャを行う際はメニュー画面からガチャのボタンをタップしてくださいね」
銀太郎は苦笑しながらメニュー画面をタップする。
しかし、銀太郎が何度タップしてもメニュー画面は切り替わらなかった。
「ば、ばば……ビぼ……」
バチバチと耳障りな音がして銀太郎は顔を上げる。
彼の目の前でソラリスは表示がおかしくなっていた。
「お、おい、大丈夫か?」
「近衛……銀太郎様……今すぐ……ゲームを終了してください……」
「へ? いや、不具合起きるかもだから強制終了するなって言ったのはそっちじゃ――」
銀太郎はソラリスの肩に触れる。
「うわっ! なんだコレ!」
銀太郎がソラリスに触れた手はボロボロに崩れ始めた。
「……もう、大丈夫。ありがとう。心配をかけたわね」
気づくとソラリスの表示は元に戻っており、銀太郎の手も再生していた。
「改めて、初めまして、近衛銀太郎君。ようこそ、『異世界』エルファリシアへ。君はこれから仲間たちと冒険の旅に出るのよ」
ソラリスは冒頭の台詞を繰り返すが、その様子がどこかおかしいことに銀太郎は気づく。
「……いや、俺はこのゲームをやらない」
「それは何故かしら?」
銀太郎は怖くなり、ゲームからログアウトを試みるが、ソラリスが彼に迫ってくる。
銀太郎はメニュー画面からログアウトを選ぼうとするが、メニュー画面はエラーが出て一切の操作が出来なくなっていた。
「だったら、NOAH自体のシャットダウン機能で……」
NOAHのメニュー画面は問題なく動作しており、銀太郎がダウンロード中の表示になっているエルファリシア・オンラインのキャッシュを消去しようとする。
「もしや、君はシャットダウンを……止めなさい! そんなことをすれば君は――!」
銀太郎のしていることを察したソラリスは慌てて彼を止めようとする。
しかし、ソラリスの警告は一足遅かった。
シャットダウンが起こった瞬間、銀太郎の意識はプツリと途切れた。
〇 〇 〇
「真の姿を見せたということはここが貴様の墓場ということだ!」
エルファリシア城、大広間。
メキメキと音を立てながら変貌していく魔王と銀太郎たち三人は向かい合う。
やがて、魔王はラスパールの上半身、フォルガスタの六本足、ストレグラスの頭と尾を持つ巨大な魔物となった。
「魔王……というよりはキメラだな」
「シェイプシフターとは余の異名。どのような姿にも自らを変えられる余は長年に渡り、この国を裏から支配してきた。今まで表舞台に出てこられなかったのはストレグラスを恐れていたからだが、ストレグラスはもういない。つい先日、悪竜の洞窟へ赴いた余が致命傷を負わせたのだからな」
「じゃあ、俺がヒシウたちと悪竜討伐のクエストをしていた時、ストレグラスはもう……」
「あの時にはすでに戦いは終わっていた。念のため、ストレグラスが息絶えているか確認しようとヒシウと共に訪れたのだが、まだ生きていたようだったので、後にグリオンダムを送り込み、今度こそ息の根を止めたという訳だ」
「部下が相討ちになってでもストレグラスを始末したかったという訳か」
「おかげで余はようやく、エルファリシアを滅ぼす準備が整った。残るは転生勇者である貴様を八つ裂きにしてくれるだけだ」
「なるほど、つまり、これが最終決戦という訳だな」
「その通りよ、銀太郎。ここが最後の正念場。ラスボス戦なのだから、気を引き締めなさい」
次の瞬間、天から光が降り注ぎ、大広間に女神ソラリスが舞い降りて来た。
「女神様! ずっと連絡が取れないからどこに行っていたのかと……」
「馬鹿ね。私はこの時のために秘密兵器を作っていたのよ。これを受け取りなさい」
ソラリスがそう言って、一本の剣を銀太郎の目の前に召喚する。
「この剣は一体……」
「それは魔王を倒すためのとっておき。使えば魔王と互角に戦う力を得られるわ」
「ふむ。女神か。貴様も余の邪魔をすると言うのだな?」
魔王がソラリスの出現に苦々しげな声を出す。
「勘違いしないで頂戴。私は勇者に最終決戦用のアイテムを授けに来ただけよ」
「……ならば、よかろう。貴様の送り込んだ勇者が惨たらしく嬲り殺される様をそこで見ているがいい」
「随分と余裕な感じだな」
「魔王たるもの、いかなる窮地にも狼狽えてはならないのだ。勇者とその仲間たちよ、最初の一撃くらいは受けてやってもいい。その秘密兵器とやらで余に傷を負わせられるか試してみろ。無理だと思うのならば早々にこの街から逃げることだ。それくらいの時間は与えてやる」
「言ってくれるじゃないか。だったら、お言葉に甘えて俺がこの剣で――」
銀太郎はソラリスから渡された剣の柄に触れようとする。
「先手は貰ったわ! リッキー! やってしまいなさい!」
「は、はいっ! やあああああああっ!」
しかし、その直後、リッキーがナルタロの指示で魔王に詰め寄り、ダイザカリバーを振りかぶった。
「何っ!? この女はどこから――」
魔王は不意打ちのように現れたリッキーに反応して防御の構えを取るが、リッキーの剣は魔王に直撃する。
そして、ダイザカリバーが魔王の身体に亀裂を入れると、魔王は断末魔を上げることなく塵と化した。
銀太郎とソラリスはその光景を見て思わず言葉を失う。
「さて、次はあなたの番よ! 捕らえさせてもらうわ!」
ナルタロがソラリスに向かって手をかざす。
すると、光で造られた鉄格子の檻が虚空から出現して、ソラリスを檻の中へと閉じ込めた。
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