第25話 嘘吐きは因縁決着の始まり
「でやあああああっ! 【精霊湖の煌剣】!」
剣士の青年ラタン・ローライドは聖剣アーロンを携え、全身全霊の奥義を放つ。
ラタンと対峙していたのは魔王軍四天王ラスパール。
ラタンの一撃がラスパールを斬り伏せようとしていた。
「フンッ! 私にその攻撃が効くものか! 貴様とてすでに分かっているだろうに!」
だが、ラタンの奥義をラスパールは難なくいなす。
「くうっ! またしても、俺の剣は奴に届かないのか……!」
「クハハハハハッ! 絶望したか人間! 何度立ち向かっても無駄だということが何故分からぬ!」
剣を杖替わりにして地面に膝を突いたラタンをラスパールは嘲笑う。
「待ちなさいラスパール! まだ私たちも残っているわ!」
しかし、ラタンの背後にいた魔法使いの少女は満身創痍の状態になりながらも立ち上がってそう言った。
「へへっ、俺もまだまだこれからだ。タンクとして最後に倒れるなんてあってはならないからな……」
「私もまだいけます。最後の一瞬まで皆さんを癒します」
倒れていたラタンの仲間たちが次々と立ち上がる。
全員が瀕死で武器を構えることすらも一苦労の様子だったが、まだ心は折れていなかった。
「街の外から来てくれている冒険者の彼らですらここまで奮戦してくれているのに私たちが情けない姿を見せる訳にはいきませんね」
「その通りっす! 例え強大な相手だろうと、諦めないのが冒険者っすからね!」
コムラとビブロも四人を援護しようと戦線に復帰する。
「アンタら……どうして……」
他の冒険者たちはラタンたちを見て彼らが持つ不屈の精神に驚いていた。
「そんなもの、いつか来てくれる俺様たちの勇者様に楽をさせてやりてえからだよ!」
ガンナバルクが冒険者たちに対して言い放つ。
「勇者、勇者、勇者か! 貴様らはまだそんな希望にすがっているのか! だが、貴様らの言う勇者・近衛銀太郎はどうしてここにいない? 知っているぞ、近衛銀太郎が先日こっそりとこの街から出ていったとな。それは奴が貴様らを見捨てて逃げたということではないのか?」
「そ、そんなはずはない! 銀太郎さんは真の勇者なんだ!」
ラタンがラスパールに言い返すが、ラタンの心は揺さぶられていた。
「クハハハハハハハッ! 哀れな人間共よ! ならば、偽物の勇者を恨んだままここで果てるが良い!」
「誰が偽物だ! 俺は逃げていないぞ!」
そこへ銀太郎が叫びながら現れる。
リッキーとナルタロも彼の背後について来ていた。
「なッ! 近衛銀太郎!? 貴様、戻って来たのか!?」
ラスパールは銀太郎の姿を見て震え上がる。
データを至上とするラスパールは未だに銀太郎のステータスが偽物であると気づいてはいなかった。
「ぐぬぬ、ここは一旦撤退を……」
「そうはさせない!」
踵を返すラスパールだったが、そこへラタンが聖剣を構えて突っ込んでくる。
「今度こそ、喰らえ! 【精霊湖の煌剣】!」
収束された光の斬撃がラスパールを背中に直撃する。
「今更そんなもの――うぐああああああっ!?」
ラスパールが自らの身体を貫く激痛に呻き声を上げる。
「なんだ今の攻撃は!? 虫の息である冒険者の攻撃が何故私に効く!?」
「行くぜええええっ! 【大地の激昂】!」
続けてガンナバルクの攻撃もラスパールを怯ませる。
「貴様か、銀太郎! 貴様が冒険者たちに何かをしたな!?」
ラスパールが銀太郎を睨む。
「(……いや、僕は何もしていないんだけど)」
だが、銀太郎はただ立っているだけで味方を強化するスキルや魔法は一切使っていなかった。
「銀太郎様だ! 俺たちは勝てるぞ! 希望を捨てるな!」
「ここで死んでたまるかああああっ!」
銀太郎は何もしていない――が、銀太郎の到着によって、冒険者たちの士気は一気に向上していた。
「(まさかとは思うが、ネストの奴、僕が戦場に立つことで僕自身が置物でも周囲が奮起するということを狙って街に呼び戻そうとしていたのではないよな?)」
近衛銀太郎は今や冒険者たちのシンボルともなっている存在であり、本人に力はなくとも、カリスマだけで周囲に影響を与える程になっていた。
「ここは俺様たちに任せろ! こんな雑魚、俺様たちがすぐに片づけてやる! 魔王軍の狙いはエルファリシア城だ!」
「調子に乗るな人間! 勇者が来た程度で戦況が変わるはずないだろう!」
冒険者たちに圧倒されながらラスパールは叫ぶ。
けれども、銀太郎の登場により、冒険者たちの士気が向上した上、ラスパールは一瞬でも委縮してしまった。
これによって生じた冒険者側優勢の勢いは留まることがなくなった。
「四天王ラスパール、どうやら、お前を倒すのは俺ではなく、お前が馬鹿にしていた烏合の冒険者たちのようだな。悪いが俺は先に進ませてもらうぞ」
銀太郎はラスパールの脇を通り抜け、リッキー、ナルタロと共にエルファリシア城へ向かうのだった。
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