第24話 嘘吐きは無敵突貫の始まり


「(どうするどうするどうする! 僕たちの攻撃が何一つ通じないなんてどうやって攻略すればいいんだ!)」


 銀太郎は四天王フォルガスタが持つユニークスキルの凶悪さに頭を抱える。


「一つだけ突破する方法ならあるわよ」

「何っ!?」


 驚く銀太郎にナルタロが真顔で頷く。


「フォルガスタには攻撃が通じない。つまり、攻撃だと思わせなければいいのよ」

「けれど、奴のバリアは自動で展開されているものなんだろう? 一度でも攻撃だと気づかれたら終わりなんじゃないのか?」

「まあ、少しでもダメージを与えられるのならそうかもしれないわね。でも、攻撃にならないレベルのものがバリアを通過することは出来るわ」

「……そうか! なんとかして自らバリアの内側に入れば攻撃を与えられるのか!」

「まあ、フォルガスタ自身の耐久ステータスも恐ろしく高いから、そこまで上手くはいかないけど、怯ませれば彼の股下を通り抜けることくらいは出来るわね。問題はその足止めに最低一人は必要になることよ。フォルガスタに背後からバッサリやられたら一環の終わりだもの」

「なるほど、じゃあ、別の手を――」


「それなら、足止めは私が引き受けるよ!」


 果敢にもそう言ったのはミィルだった。


「私もミィルと一緒にフォルガスタを喰い止めます!」

「ミィル!? リィル!? お前たちが残る必要はないだろ!?」


 銀太郎は慌てて二人を引き留めようとする。


「ししょーは黙ってて!」

「せんせーが止めても無駄です!」


 だが、ミィルとリィルの意思は固く、銀太郎の言葉を容易く撥ね退ける。


「ぐっ……」

「全く、ししょーはこの程度で丸め込まれるなんて本当に駄目なししょーだね!」

「駄目駄目なせんせーではここにいても役に立ちません。早く街の中に避難でもしていてください」


 ミィルとリィルは蔑むような目で銀太郎を睨む。


「お前たち……まさか、俺を先に行かせるために……」


 しかし、銀太郎は二人が自分の背中を押そうとしてくれていることに気づく。


「よし! リッキー! フォルガスタのバリアに邪魔されない程度のところまで全力で馬車を走らせろ! 俺とお前、それからナルタロは街の中にそのまま突入するぞ! ミィル! リィル! フォルガスタの足止めはお前たちに任せた! お前たちは俺の自慢の弟子たちだ!」


 ミィルとリィルは銀太郎の台詞に目を輝かせてニッと笑う。


「……何をするつもりだ貴様たち!」


 【螺旋徹甲弾】によって切り拓かれた道を猛スピードで突っ走る馬車にフォルガスタは警戒する。


「馬車で衝突でもするつもりか!? だが、我のバリアがある限り、衝突した瞬間に木っ端微塵よ!」


「――今です! リッキーさん! 馬車を止めて!」


 リィルが先程の攻撃で測った目算からバリアに衝突する寸前で馬車に急ブレーキをかけるように指示をする。


「しっかり馬車に捕まっているでありますよ!」


 リッキーによって急ブレーキをかけられた馬車は減速でバリアとの衝突を回避して、ギリギリのところでバリアの内側に入り込む。

 銀太郎たちが馬車にしがみつき、ブレーキの衝撃に耐える中、荷台の屋根に一人飛び乗っていたミィルだけが空中へと投げ出される。


「【朦朧の一矢】! これで痺れさせてあげる!」

「馬鹿が! 弓使いのくせに接近戦だと!? そんなものを上手く当てられるというのか!?」

「【刹那の逆境】で効果を二倍! 絶対に当てるんだ! そのために私は毎日特訓してきたから!」


 ミィルはフォルガスタの鎧の隙間を目掛けて矢を放つ。


「昔の私たちはユニークスキルを使いこなせなかった! だけど、ししょーが何気なく言ったアドバイスで私は接近戦、リィルは遠距離戦に特化した戦い方を特訓したんだ!」


「そう言えば、確かに昔、冗談でそんなアドバイスをしたような気がするけど……」

「せんせーにとっては冗談でも、私たちにとってはそれが転機だったんですよ。せんせーがどんな詐欺師だったとしても、私たちが強くなれたのは事実なんです」


 ミィルの矢がフォルガスタの肩に突き刺さり、フォルガスタは地面に倒れ伏す。

 直後にリィルはもう一度矢を引き絞り、関所を守る残りの魔物たちを【螺旋徹甲弾】で吹き飛ばす。


「今の内に早く!」


 リィルに言われて馬車から降りた銀太郎たちはエルフィンの入り口に向かって走り出す。


「おのれェ! 小癪な真似を!」


 フォルガスタは身体の痺れを治まらせ、立ち上がり始める。


「嘘! こんなすぐに復活するなんて!」

「舐めるな! 伊達で魔王軍四天王をしている訳ではない! 状態異常の耐性も高い我に同じ手は二度と通じるものか! だが、我のバリアを瞬間的に無力となることで突破し、馬車が停止する際の慣性を利用してこの小娘が距離を詰めるという作戦は悪くなかったぞ! もしも、ユニークスキルで麻痺の効果が上がっていなければ我に膝を突かせることも出来なかっただろうからな!」


 残されたミィルとリィルは大勢の魔物たちに取り囲まれながらも毅然とした態度を崩さなかった。


「ミィル! 縦横無尽に駆け巡ってこの場を引っ掻きまわしてください!」

「リィル! 後方支援は任せたよ! 私に降りかかる火の粉は全て撃ち落としちゃってよね!」


 双子の少女は互いに背中を預けて弓を構えた。

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