第23話 嘘吐きは突破作戦の始まり


「見えてきたでありますよ、エルフィンの街が!」


 馬車を駆るリッキーが荷台の銀太郎たちに対して声を張り上げる。


「ししょー、あの話は本当なの?」


 ミィルが不安げな表情で尋ねる。

 リィルも同じ表情で銀太郎をじっと見つめている。


「すまなかった、今まで隠していて。もう言い訳もするつもりもないし、許してもらえるとも思っていない。情けない師匠で本当に悪かった」


 銀太郎は二人に対して深々と頭を下げる。


「……正直、酷い人だと思います」


 ふとリィルの口から零れたその言葉は銀太郎の胸を深くえぐった。


「ずっとずっと私たちを騙してきたんだよ。許せる訳がないよ……」


 追い打ちをかけるようにミィルが言う。


「ああ、だから、お前たちはもう僕の弟子なんかじゃない。望むなら、お前たちだけは逃がしてやりたい」

「…………」


 ミィルとリィルは銀太郎の言葉に黙り込む。


「銀太郎殿! エルフィンの関所に多数の魔物が詰めかけてこのままでは街に入れないであります!」

「あれは……魔王軍四天王のフォルガスタね。増援を通さない気かしら?」

「なっ、魔王軍四天王が入り口にいるだと!?」


 銀太郎はナルタロが呟いた一言を聞いて、荷台からエルフィンの関所に目を向ける。

 エルフィンの関所前には蟻の子も入れぬと言わんばかりに大勢の魔物が陣を取り、一番奥では六本足の甲冑騎士が仁王立ちをしていた。


「くっ、こんなところで四天王と鉢合わせるとは……」

「どうするでありますか?」


 銀太郎たちは馬車を止めて魔王軍の様子を伺う。


「(どうにかして通り抜けられないだろうか? だが、突破しようにもあのフォルガスタとかいう奴が邪魔だな……)」


「だったら、私がフォルガスタを狙撃します」


 立ち上がったリィルがそう言って、弓をフォルガスタの頭目掛けて引き絞る。


「……【不動の渾身】」

「――ッ! リィルちゃん! 止めなさい!」


 ナルタロがリィルを制止するが、間に合わず、リィルの矢が弓から射出された。


「フルチャージ! 【螺旋徹甲弾】!」


 馬車に乗っていたことにより、「動いていない」と判定されていたリィルの貯めに貯め込んだ最大威力の一撃が魔物たちを吹き飛ばし、フォルガスタへと突き刺さる。


「…………むう。どうやら、この我を狙撃で仕留めようなどと考えた愚か者がいるようだな」


 しかし、肝心のフォルガスタはリィルの必殺技を喰らったにも関わらず、傷一つついてはいなかった。


「ようやく来たか! 貴様が近衛銀太郎だな! お前がどれ程の強さを秘めているか知らないが、この我がいる限り、エルフィンには一歩も踏み込めないと知れ!」


 フォルガスタが銀太郎たちの馬車を発見して威圧的なオーラを放ちながらそう言った。


「まずい! フォルガスタに私たちの存在がバレたわ!」

「それよりもどうしてフォルガスタは無傷なんだ! いくら甲冑を着ているとしても無防備な状態で頭を狙われたら流石に少しは怯むだろ!」

「……いいえ、フォルガスタは怯んだりしないのよ。彼のユニークスキルは【全体防御インサイドカバー】。少しでも自身に傷を負わせるような相手の攻撃の威力に合わせて確実にノーダメージにするバリアを常時展開させるわ」

「そんなもの、どうやって突破しろというんだよ! チート過ぎるだろ!」


 銀太郎たちはエルフィンを前にしてフォルガスタという文字通り強大な壁と対峙することになったのだった。

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