第18話 嘘吐きは必殺技の始まり


「アルラウネ……見世物小屋から逃げ出した三体の魔物の最後の一体か。面倒なことになったな」

「あの魔物は足の不自由な少女を装って村人たちに拾われてきたのです。しかし、一晩水と食事を与えただけであのような姿になってしまいました」


 銀太郎と村長の会話を聞いて、リィルが難しそうな表情をする。


「本で読んだことがあります。アルラウネというのは人間の社会に溶け込むことで成長するためのエネルギーを得ると言われる魔物です。可憐な少女の姿で人間から水や食料を分け与えられたアルラウネが自らを育ててくれた人間すらも養分にしたという事例もあるそうです」

「とてつもなく凶悪な魔物じゃないか!」

「ですが、アルラウネがそこまで成長するには長い年月が必要になるはずです。僅か一日で変異するという話は聞いたことがありません」

「だけど、安心して! この村はきっと助かるよ! だって、私のししょーは伝説のドラゴンスレイヤー近衛銀太郎なんだから!」


「(おい、何を言っているんだミィル!)」


 ミィルの言葉に村人たちは困惑する。


「ま、まさか、あなた様が伝説の勇者様だというのですか?」

「……まあ、そうなのかな」

「お願い致します! どうかこの村をお救いください!」


 村長が銀太郎に土下座をする。


「(まずいな。出来れば面倒なことには関わりたくはないんだが……けど、リッキーは攫われてしまったし、どの道、リッキーを助ける必要はあるからな)」

「お悩みのようね、銀太郎ちゃん」


 考え込む銀太郎の背後にナルタロが現れて彼の耳元で囁く。


「うおっ! ナルタロ!? お前、リッキーと一緒にいたんじゃなかったのか!?」

「確かに私はリッキーに憑りついているけど、別に離れられないという訳ではないわよ」

「そうなのか。ところで、リッキーの様子とかは分かるか?」

「リッキーなら今のところはまだ無事よ。だけど、急がないとアルラウネの養分にされちゃうかもしれないわね」


 突然出現したナルタロと銀太郎が会話している様子を村人たちは目を丸くして見ていた。


「……ああ。お前たちに言い忘れていたな。こいつはナルタロ、俺の使い魔みたいなものだ」

「誰が使い魔よ~。私はリッキーと契約はしているけど、銀太郎ちゃんとは契約した覚えはないわよ?」

「話を合わせてくれ。村人たちに俺たちのややこしい事情なんて説明出来ないだろ」


「それで、私たちの村を救っていただけるかという話ですが……」

「あ~。それは……分かった。引き受けよう」


 銀太郎が村長の申し出を受けると人々に少しだけ明るさが戻ったような感じが出てくる。


「(さて、どうする。本当にどうする。このまま戦えば僕が伝説の勇者ではないと一発でバレるし、それどころかここで冒険がご臨終的な意味で終わる可能性もある)」


 銀太郎がふと窓の外を見ると、何体ものハエ魔物が窓の向こうからのぞき込んでいた。


「なっ! こいつらどれだけ俺たちを狙っているんだ!」

「その魔物は元々この地域に住んでいた魔物です。ここまで大量に発生したのは初めてですがね」

「あのハエみたいな奴らには詳しいのか?」

「ええ。この村では昔から匂いの強いものに惹かれて現れる害虫のような魔物でして、腐った作物などはあの魔物たちの大好物なのです」

「腐ったものに引き寄せられる……もしかして、さっきから銀太郎ちゃんを執拗に付け狙っているのは銀太郎ちゃんの人間性が腐っているから?」

「おい、ナルタロ、言っていいことと悪いことがあるぞ」

「冗談よ。多分、あの魔物たちはあなたの持っている魔物避けポーションの匂いに反応しているんじゃないかしら?」


 それを聞いた銀太郎は試しに匂いの源となっている袋を窓の隙間から外に放り投げる。

 すると、大量のハエ魔物たちが袋に群がり始めた。


「……なるほど、普通の魔物が嫌う腐った食べ物の匂いもあの魔物にとってはおびき寄せる要因になるのか」

「それよりししょー! ここが腕の見せどころだよ! 今日こそ、ししょーの戦うところを見せて欲しいな! アレ見せてよアレ!」

「アレってなんだ」

「必殺技だよ! 私、聞いたことがあるんだ! ししょーは【神焔滅却剣ニュクスブレイカー】ってスキルを持っているって噂を!」

「(なんだそのスキル……僕も知らない必殺技とか大問題だろ。見せろとか言われてもどんなスキルなんだよそれ)」

「【神焔滅却剣】って剣を振ったら相手が爆発するらしいね!」

「(大体どういう技か分かったけど、滅茶苦茶なスキルだな。……ん?)」


 銀太郎はそこまでミィルの話を聞いて、とあることを思いつく。


「そうか。お前はそんなに俺の必殺技を見たいのか。――だったら、見せてやろう!」


 銀太郎はナルタロと目を合わせると、彼女に向かって不敵に微笑むのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る