第19話 嘘吐きは妖花討伐の始まり
「おーい! そこのハエ共! 俺はここにいるぞ!」
ハエ魔物たちの羽音が響く中、銀太郎は民家の屋根に上って叫ぶ。
銀太郎に気づいたハエ魔物たちは彼に襲い掛かろうとするが、彼の両脇に立っていたミィルとリィルにより次々と撃墜されていく。
「うう~っ! 私はリィルと違って狙撃とか苦手なのに!」
「せんせー、必殺技を使うには時間稼ぎが必要とのことでしたが、あとどれくらい魔物を撃ち落とせばいいのでしょうか?」
「……もうそろそろだな。よし、二人共、ここまでで充分だ」
銀太郎は弟子たちに攻撃を止めさせる。
「はあ~い。準備は終わったわよ」
瞬間移動をしたナルタロが銀太郎たちの前に現れる。
「良くやってくれた、ナルタロ」
「ふふっ、銀太郎ちゃんは悪魔使いが荒いわね」
「悪いがもう一仕事ある。やってくれるか?」
「はいはい、了解したわよ」
ナルタロはそう言ってまた瞬時に姿を消してしまう。
「……準備って何?」
「そ、そこについては詳しく聞かないでくれ」
耳聡く銀太郎とナルタロの会話を聞いていたミィルの質問に銀太郎は内心オドオドとしながら答える。
「(まあ、僕がこれからやろうとしていることは詐欺みたいなものだからな。いざやるとなると普通に良心が痛む)」
「あっ! 見てください! 虫の魔物たちが村の何か所かに集まっていきます!」
リィルはハエ魔物たちが突然奇妙な行動に出たことを驚いていた。
銀太郎はわしゃわしゃと自分と頭を掻きむしってから、覚悟を決めた表情で腰から剣を抜く。
「じゃあ、見ていろよ。これが俺の必殺技【神焔滅却剣】だ!」
銀太郎が剣を虚空に向かって一振りする。
直後、村のあちこちから火柱が上がる。
「(……えっ、何この火力。思っていたよりもかなり派手なんだけど)」
「おおっ! あれがししょーの必殺技! すごいすごい!」
「ク、ククク、と、当然だろう? この俺を誰だと思っている」
銀太郎は自慢げな態度で恰好をつけるが、想定以上の出来事に冷や汗を掻いていた。
「今の攻撃で虫の魔物はほとんど倒されました! 残るは花の魔物だけです!」
「そっちについてはあいつに任せてある」
銀太郎が上空に指を差す。
彼の指が差す先にはナルタロがおり、彼女は魔法を発動しようとしていた。
「あらあら、綺麗なお花ね。だけど、魔物を引き寄せるその悪臭はいただけないわ。だから、この私が枯らしてあげる。――【死に至る睡魔(ネバーライズ)】!」
ナルタロがアルラウネに向けて魔法を発動する。
魔法はアルラウネの身体をみるみるうちに衰弱させていき、ズシンという重い音を立てて地面に倒れた。
「…………なんだよアイツ、強すぎかよ」
銀太郎はナルタロの持つ力に頼もしさを感じながら同時に恐ろしさも感じた。
〇 〇 〇
「いやあ! 助かりました勇者様! なんとお礼を言ったら良いものか!」
魔物の脅威が去った後、銀太郎は村で馬車を買い、村から逃げるように出発しようとしていたが、必死の形相で走って来た村長に捕まって何度もお礼の言葉を言われていた。
「いや……俺は大したことなど何もしていない」
「何をおっしゃいますか! 魔物たちを一掃したあの【神焔滅却剣】は見事なものでした! 今回の出来事はわが村の伝説として語り継がれることでしょう!」
「(心が痛い……まさか、あれが『やらせ』だったなんて言える訳がないし、早くここから逃げ出したい)」
実は銀太郎が使った【神焔滅却剣】は隠された彼のチート能力……ではなく、アイテムとナルタロの能力に頼ったただの手品だったのである。
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