第13話 嘘吐きは戦闘訓練の始まり
「ううっ……まだ口の中がじゃりじゃりするよ」
「気持ち悪いです……」
「まさかリッキーがあそこまでメシマズだったとは……」
リッキーと共に銀太郎と双子はそれぞれ感想を口にして、げんなりした表情を浮かべていた。
「も、申し訳ないであります。私は不器用なもので……」
リッキーが作った朝食は三人のトラウマになるような代物だった。
卵焼きには殻が入っており、ソーセージは黒焦げ、雑に刻まれたサラダ、などあまりにも大雑把な食事を三人は完食した後なのである。
「くっ、少し胃が辛いが、今日の予定は身体を使うことになるからな」
彼らはエルフィンの北端に位置する冒険者用の訓練施設に足を運んでいた。
訓練施設の受付ではネストが四人を待っていた。
「ようこそいらっしゃいました近衛銀太郎様。お待ちしていましたよ」
ネストは普段着にも関わらず、礼儀正しい態度で銀太郎たちにお辞儀をする。
「休日なのに頼みを聞いてもらって悪いな」
「いいえ。銀太郎君の頼みとあらばこれくらいはどうということありません。それにしても、訓練施設の一部を貸し切りたいなんてあなたにしては珍しいお願いをするのですね」
「……色々事情があるんだ。お前なら立場的に貸し切りの手配も出来るだろうと思って頼んでみた」
「ふむ。朝一番に通信魔法装置で私に連絡を寄こして、どんな用事かと凄く気になるところですが、訓練場は解放していますよ」
ネストが四人の先を歩いて手招きをする。
「銀太郎殿はあの方とお知り合いなのですか?」
「あいつはネストって人で、冒険者ギルドの受付嬢をしているのんだが、結構偉い人なんだ。今回は無理を言って訓練施設の貸し出しをお願いしている」
「特別ですよ。普通は丸々一部屋を借りることさえ一介の冒険者には許可していないのですから」
ネストは満更でもなさそうな表情で答え、ある部屋の扉を持っていた鍵で開ける。
「こちらの部屋は防音対策も万全です。私が出来るのはここまでですから、何かご用がありましたら受付の方に伝えてくださいね」
「ああ、ありがとなネスト」
ネストが扉を閉めた後、狭いレンガ造りの部屋に四人が取り残される。
「こんな場所で訓練するの? 狭くて動き回ることも出来ないじゃん」
「私たちは初めて訓練施設というものを体験するのですが、どのように使うのかはまるで知りません」
「そうか。お前たちはまだ冒険者じゃないから訓練施設を使用することもなかったんだよな。まあ、僕も今まで一度も使ったことはないが、説明は聞いている。確か、ここの魔方陣に触れると――」
銀太郎は壁に描かれていた小さな魔方陣に手をかざす。
すると、訓練施設の景色が広大な空洞に変化する。
「これは……凄いですね!」
「おおーっ! 何これ! 私たち瞬間移動したの!?」
「魔法で造られた結界の一種らしい。室内の体積とか密度とかを歪めているらしいけど、詳しい仕組みは説明されてもさっぱり分からなかった」
「一般人でも扱える魔道具などは大抵そのようなものでありますからね。伝説によると異世界の勇者が現代に存在する魔道具の七割を発明したとされていますが、勇者の発明品の中には使い道の分からないものも未だ多数あるとか」
「(マジか。それは知らなかった。というより、先代の異世界勇者ってそこまで偉大なのか。僕としては自分と比較されているみたいで凹むな)」
「あらあら? 銀太郎ちゃん、普段は俺俺って格好つけているくせに双子ちゃんと話している時は一人称が僕ちゃんなのね。良いこと知っちゃったわ」
「うおおおっ!? ナルタロ!? 勝手に出てくるな!」
突然湧いて来たナルタロにびびった銀太郎は腰を抜かしそうになる。
「どうやら、ナルタロは銀太郎殿のことが相当気に入ったようでありますね」
「リッキーは今回ナルタロが身体から飛び出しても気を失っていないんだな」
「当然よ。使える魔力は制限されるけど戦闘が可能な程度の受肉は出来るわ」
ナルタロはそう言って、銀太郎の頬をつんつんとつつく。
「しかし、このような訓練施設に私たちを集めて何を始めるつもりなのでありますか?」
「……今日、ここに集まってもらった目的は二つある。その内の一つはお前たちの戦力を知ることだ。ナルタロ、昨晩言っていた例の話は本当なんだな?」
「ええ。嘘は吐いていないし、間違ってはいないはずよ。あなたの求める答えは悪竜の洞窟に眠っているわ」
「えっと、私たちは寝ちゃっていたから知らないんだけど、昨日の夜、ししょーとナルタロはどんな話をしていたの?」
「残念だが、それはまだお前たちには言えない。しかし、あのダンジョンに挑むなら今度は相応の準備が必要だ。前回のように大勢の冒険者が味方にいる訳ではないからな」
銀太郎が魔方陣に念じると洞窟の中に巨大なドラゴンが出現する。
その姿は悪竜ストレグラスそっくりだった。
「こいつは俺の記憶から再現されたストレグラス。少なくとも俺たちはこのストレグラスを倒せなければ悪竜の洞窟に挑むことは無理だろう」
「よく理解出来ませんが、それがせんせーから課せられたクエストだというならば私は全力でストレグラスを屠りましょう」
「でしたら、一番手はこの私が務めるであります! 銀太郎殿たちには私の実力こそ知ってもらわなければならないですから!」
リッキーが三人の前に立ってダイザカリバーを構え、ストレグラスと対峙する。
「良し。じゃあ、リッキー、お前の力を見せてくれ」
「はい! いくでありますよ!」
リッキーは聖剣を駆けだして聖剣を振りかぶる。
先端の鈍器によって打撃武器と化していたダイザカリバーの一撃がストレグラスに振り下ろされる。
――はずだった。
「あっ」
リッキーはストレグラスまであと一歩というところで足元の窪みにつまずいて勢いよく転倒する。
そして、転倒したリッキーはぴくりとも動かなくなる。
「おい、リッキー、思いっきり顔面スライディングだったけど大丈夫か?」
銀太郎は倒れているリッキーに声をかけるが、彼女は全く起き上がる気配がない。
慌てて三人がリッキーに駆け寄る。
リッキーは目をぐるぐるとさせて気絶していた。
「あらあら、またやってしまったのね。リッキーは筋力に振るために体力を削っているから、少しのダメージですぐにダウンしちゃうくらい貧弱なのよ」
「……それって、戦力として問題外じゃないか?」
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