第14話 嘘吐きは決別の始まり


「役立たずで誠に申し訳ないであります……」


 目覚めたリッキーがしょんぼりした様子で銀太郎たちに謝る。


「気にするなよ。まあ、欠点なんて誰にでもあるもんだ」


 銀太郎はそう言うが、彼の目はどこかに泳いでいた。


「ししょーもこう言っているんだし心配ないよ!」

「そうです。リッキー様には高い筋力があるのですから、それを活かした戦い方をしましょう」

「ううっ……みなさん、お優しいであります」


「(しかし、低すぎる体力は厄介だな。一度でも敵の攻撃を喰らったら戦闘不能になるのであれば、俺たちによる介護プレイは必須だろう)」


「ふふっ、うちの子が迷惑をかけたわね」

「こういうことは昨日の内に言って欲しかったんだがな」

「話すものごとにも順序はあるでしょう? それにリッキーのポンコツっぷりは実際に目で見てもらった方が理解者しやすいと思ったのよ」

「性格が悪くないかお前……」


 銀太郎はナルタロに対して不信感に満ちた目を向ける。


「それにしても、今日は女神様の気配がないけど、どうしたのかしら?」

「あの人はなんか用事があるって言ってしばらく地上と天界の回線を切っているらしい」

「ふーん。だとしたら、女神様には悪いけど、あなたたちだけにでも私とリッキーについて説明をしておくわね」


 ナルタロがそう言ってリッキーの隣に浮かぶ。


「まずは私がリッキーと契約をした経緯ね。リッキー、ここはあなたが話してくれる?」

「分かっているであります、ナルタロ。……私とナルタロが出会ったのは二年前のことであります。私の家は代々騎士団に所属する騎士の家系でありました。しかし、騎士として落ちこぼれだった私は愚直に鍛錬を続けるだけの日々に疲れていたのでありました。そんな時にナルタロが私に呼びかけてきたのであります。彼女は他の全てと引き換えにするならば、絶大な力を与えると私に契約を持ちかけてきたのでありました。そうして、私は己の心の弱さに負け、ステータスを改造してもらったのであります」

「それで、お前のステータスは極端なことになっていたのか」

「私がリッキーに持ちかけた契約は二つ。一つはリッキーの身体を私の宿主とすること。もう一つはエルファリシアに関する諜報活動。私は魔王軍四天王の一人だけど、夢魔の性質によって、人間に憑りついていないと生きられないの」

「ちょっと待って! ナルタロさんって魔王軍の幹部だったの!?」

「そうよ。私の地位は銀太郎ちゃんが以前退けたラスパールと同じくらいね」

「いや、あれは退けたって言うか……間違ってはいないが」

「ふむ。ですが、何故四天王であるナルタロさんがリッキーさんに憑りついて諜報活動などをしていたのですか?」

「ぶっちゃけリッキーを気に入ったからとしか答えようがないわ。夢魔っていうのは気まぐれな種族なのよ」

「……気まぐれで敵に情報を流される魔王もかわいそうに思えるけどな。ナルタロが昨晩言っていたことが本当なら、ストレグラスに致命傷を負わせたのは魔王軍ということになるからな」

「「ええっ!?」」


 リィルとミィルが驚きの声を上げる。


「(出来るだけ俺が何もしていないと思われないように説明しなければ)……お前たちには言っていなかったが、ストレグラスは俺が戦いを挑んだ時にはすでに深い傷を負っていたんだ。その傷のおかげもあって、俺はたった一人でその戦いから生還出来た。しかし、昨晩ナルタロから聞いた話によると、ストレグラスは魔王軍と交戦していたらしい」

「概ね銀太郎ちゃんに話した通りよ。魔王軍はストレグラスと敵対しているわ。その理由はストレグラスがこの国の守護竜だったから」

「ストレグラスが守護竜!? だったら、なんで守護竜が国を襲ったりしていたの!?」

「それは魔王軍の策略ね。魔王軍はリッキーのような人間のスパイを国の中枢に潜り込ませたりして、これまでエルファリシアの力を水面下で削っていたのよ。このままでは近い内にこの国の人間は魔王軍によって根絶やしにされるわ。彼らは利用していた人間のスパイも一人残らず殺してしまうでしょう。けれど、私にとっては魔王軍よりもリッキーの方が大切だから、リッキーを死なせる訳にはいかない。私が魔王軍を裏切る理由なんてそんなものよ。そのために今までエルファリシアの諜報をする振りをして機会を待ち続けていた」

「……なるほど。お前の言いたいことは大体分かった。要するに上司のやり方が気に入らないから俺たちに倒して欲しいという訳だな?」

「そういうことよ。私にはリッキーがいれば他には何もいらないの」


 ナルタロはリッキーの頭に頬ずりして言い切った。


「これまで魔王軍の間者として騎士団や街の人々を騙し続けて来たことは申し訳ないと思っているであります! ですから、今度はエルファリシアのために戦いたいのであります!」


 リッキーが覚悟を決めた表情で銀太郎の手を握る。


「――伝説の勇者、近衛銀太郎殿が一緒ならば不可能ではないと確信しているのでありますよ!」


 銀太郎は期待に溢れたリッキーの目を直視出来ず、曖昧な表情を浮かべるのだった。

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