第12話 嘘吐きはバッドエンドの始まり


 とある日の朝、銀太郎はギロチン台に立たされていた。


「皆の衆! これより、我が国を欺き続けた大罪人、近衛銀太郎の処刑を執り行う!」


 国王が集まった人々に向けてそう言うと、人々からの歓声が沸き上がる。


「それでは、国民たちよ! ここに首を垂れる国辱の大嘘吐きに惜しみない軽蔑と嘲笑を! 彼は女神に選ばれた勇者などと嘯き、長きに渡り、我々を騙していたのである」


 国王がギロチン台に首を乗せた銀太郎を指差すと、人々は銀太郎に思いつく限りの罵声を浴びせ、石やゴミを投げつけるのだった。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」


 銀太郎は死んだ表情で懺悔をするが、人々の怒りがおさまる気配はない。

 銀太郎が眼下の人々を眺めていると、その中にはガンナバルク、コムラ、ビブロの姿もあった。

 そして、銀太郎を処刑するギロチンを作動させる人物はドゥーバだった。


「銀太郎殿……私は貴君がそのような人物だったと知ってとてもガッカリしている」


 ドゥーバは残念そうに言って、ギロチンを作動させるための綱に抜き身の剣を当てる。


「これで最後になるが、誰か近衛銀太郎に言いたいことのある者はいないか?」


 国王が人々に呼びかけると、二つの小さな手が群衆の中から挙がる。

 人混みが割れ、ギロチン台の前に進み出てきたのはミィルとリィルだった。


「ミィル……リィル……お前たち、来てくれていたんだな……」


 銀太郎は両目に涙を浮かべて弟子たちと目を合わせる。

 しかし、ミィルとリィルは銀太郎を蔑むような目を向けていた。


「ししょー、信じらんない。今まで私たちを騙してたなんて最低だよ」

「私たちの心を弄んでいたんですね。……酷い人です」

「そ、そんな……」


 銀太郎はミィルとリィルそう言われて、絶望を顔に表す。

 最早彼の耳には他の人々の罵声など聞こえず、彼の目にはミィルとリィル以外は映っていなかった。

 その二人からも拒絶された銀太郎は目の前が真っ暗になる。


 名声も弟子も何もかもを失った銀太郎の首にギロチンの刃が振り下ろされた。


          〇 〇 〇


「うわああああああっ! いかないでくれ二人共!」


 銀太郎は絶叫しながら目を覚ます。


「……ししょー、大丈夫?」


 ソファで寝ていた銀太郎にきょとんとした表情のミィルが話しかける。


「あ、あれ……ミィル? 処刑は? ギロチンは?」


 銀太郎は周囲を見渡すがそこは紛うことなく銀太郎が暮らしている家のいつもの景色だった。


「せんせーは昨晩からすっとうなされていたんですよ。うなされている間、私たちに謝っていましたけど、どんな夢を見ていたのですか?」


 ミィルの隣にはリィルもおり、彼女たちは銀太郎の両手をそれぞれ握りしめていた。


「ああ、いや、ただの悪い夢だ。お前たちの気にすることじゃない。それより、リッキーはどうした? 俺がソファで寝ているということはリッキーもここに泊まっていたんだろう?」

「リッキーさん? あの人なら今、台所で朝ご飯を作ってくれているよ!」

「そうなのか。……はあ、なんだかどっと疲れた」

「でしたら、せんせーはしばらくお休みしていてください。私たちはリッキー様のお手伝いをして参りますので」


 ミィルとリィルが銀太郎の寝室から出ていく。


「……なんだったんだあの夢は」


 銀太郎は呆然として朝日の差す自分のベッドを見つめていた。


「あらあら、いい夢は見られたかしら?」

「――!?!?!?!?」


 そうしているとナルタロが銀太郎の背後にぬるっと現れ、彼の耳元で囁くように言う。

 仰天した銀太郎は声にならない叫び声を上げ、ソファから転げ落ちて腰を打った。


「ななななんなんだ!?」

「あらあら、びくっとしちゃって可愛い子。たまには男の子をからかってみるのも悪くないわね」


 ナルタロは朝っぱらから煽情的な衣装で登場して空中に浮遊していた。


「ところで、私の見せた夢はどうだった? 気に入ってもらえたら、これからも毎晩あなたの夢枕に立っていい夢を見るためのお手伝いをさせていただくのだけど」

「ハッ……あの悪夢はお前の仕業か! この性悪悪魔め!」

「散々な言われようだわ。私はちょっと夢魔の力を使ってあなたの夢に干渉しただけ。私はあなたの見たい夢を見せてあげたのよ?」

「俺の見たい夢? あれが? 処刑される夢なんて見たいとは……」

「うーん、少し曲解をしてしまっているわね。あなたの夢の内容だと、処刑されることよりもあの双子ちゃんのことが重要な点ではないかしら? あなたはあの二人に途轍もない罪悪感を抱いていると共にかけがえのない存在だと思っている、と私は推測しているわ」

「他人の心を勝手に探るな」

「あらあら、図星みたいね。その反応も可愛いわ」


 にこりと微笑むナルタロに、銀太郎は悪寒を感じるのだった。

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