第5話 嘘吐きは師弟関係の始まり
「――と、いうことになって、そこからあれよあれよと式典の準備が進み、今日になるまで家に帰してもらえなかった。だけど、王宮料理は美味しかったです」
時は進んで現在、姿見に映るソラリスを前に膝を詰めて座った銀太郎はようやく説明を終える。
「呆れるわね。どうして正直に言わなかったのよ」
「僕も言おうと思ったけど、いつの間にか言い出せる雰囲気ではなくなっていて、気づいた頃には式典の会場に立っていた」
「国一つを相手に詐欺を働くとかバレたら死刑よ。君は弱いくせにどうして問題ばかり起こすのかしら?」
「わざとやってる訳じゃないさ。だけど、みんな僕の肩書を知ると勘違いするんだ」
「おまけに君はとてつもない悪運を持ってるからたちが悪いのよね。ジャイアントオーガ、キングコカトリス、ブロンズガーゴイルみたいな強敵と君はこれまで戦ってきたけど、その全てが逃げ回っていたら偶然相手の頭に岩が落ちてきたとかそんな感じのことばかりじゃない。君、この調子だと絶対ろくな死に方しないわよ」
「今、まさに捕まって死ぬかもしれない危機なんだけど」
「さて、どうしたものかしら。今回に関しては嘘がバレたらもう言い訳出来ないし……」
「そうだ! 夜逃げしよう! バレる前に別の国へ行けば捕まらない!」
銀太郎はそう言うと、荷造りを始めて亡命の準備に取り掛かる。
「夜逃げする勇者とか前代未聞よ。どうして銀太郎はそこまで駄目な子なのかしら」
ソラリスが軽蔑の目で銀太郎を眺めていると、家の玄関ドアからノックの音が聞こえる。
「ししょー! おはよー!」
ドアの向こうから対照的な明るくハツラツとした声が聞こえ、銀太郎は荷造りを止める。
「この声は……ミィルか。ということはリィルも一緒だな」
銀太郎がドアを開くと、玄関先には双子の幼い少女が立っていた。
「あっ、ししょー出てきた! ミィルだよ!」
「……リィルです。せんせー、おはようございます」
双子の少女が銀太郎と目を合わせて笑顔を浮かべる。
彼女たちは背格好や顔はそっくりだが、性格や目の色により見分けはつけやすい。
二人の瞳は片方が共通して茶色だが、もう片方はそれぞれ色が違っている。
左目が赤く、元気な性格の方がミィル。右目が青く、大人しい性格の方がリィル。
ミィルとリィルはどちらも弓使いの冒険者で、銀太郎を「師匠」、「先生」などと呼んで慕っていた。
「お、おう。二人共おはよう。今日はどうした?」
「どうしたじゃないよ! ずっと稽古の約束してたじゃん!」
「毎日来てたのにせんせーはいませんでした」
「悪い。昨日までは少し忙しかったんだ」
「ミィル知ってる! ししょー、ドラゴンスレイヤーになったんでしょ?」
「リィルたちも式典を見に行きました。せんせー、格好良かったです」
「うっ……」
式典の話を持ち出されて銀太郎の心が痛む。
「ねえねえししょー、ところでそんなに大きな荷物を持ってどこに行くの? もしかして、またドラゴン退治に行くの!?」
「い、いや、ドラゴンの討伐なんて危険なクエスト、もう二度と行くものか!」
「良かったです。せんせー、いきなりいなくなるからリィルは心配してたんですよ。今度のクエストからはリィルたちもちゃんと連れて行ってくださいね」
「それは本当に申し訳ない……。何も伝えずに長い間心配をかけてすまなかった」
キラキラとした目で見つめてくるミィルと不安げな目で見つめてくるリィルに対して、銀太郎は目を合わせることが出来なかった。
「じゃあ、早速次のクエストにミィルたちを連れて行って! その荷物はクエストに行く準備でしょ? ミィルにはお見通しだよ!」
「……えっ?」
「今日の稽古は実践形式でお願いします。ミィル共々、お付き合いさせていただきますからね?」
「待ってくれ! 僕はクエストに行くなんて一言も――」
「隠したって無駄だよ! さあ、冒険者ギルドにしゅっぱーつ!」
ミィルは銀太郎の左腕に抱き着いて銀太郎を家の外に引っ張り出す。
「ずるいですよ、ミィル。せんせーを独り占めはさせません」
リィルも銀太郎の右腕に抱き着き、銀太郎は完全に身動きが取れなくなった。
「め、女神様! 幼女二人に拉致される! 助けて!」
「両手に花で良いご身分じゃない。師範らしく頼りがいのあるところを見せてきなさい。私は帰りを待ってるから」
「女神様あああああっ!」
銀太郎はミィルとリィルによって引きずられるように冒険者ギルドへ連行されていくのだった。
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