平凡学生とクラスの友達 ~キバと皆の普段の日々~

白楼 遵

第1話 停学って、まだ何も始まってねぇじゃん

「はぁ、停学3日かぁ・・・」

今朝士官学校の理事長に呼ばれ言い渡された処分は停学3日。

アロム先生による謀反を止め生徒達を助けたという功績は認められたが、地下の最上級呪術物品オーバー・カース・アーツを握ってしまった罪は重い。様々な点を加味した結果、停学3日ということとなった。

「まだ春休みじゃねぇか・・・まぁ訓練場の使用禁止は痛手か」

とりあえず、当面派手な事は自粛しよう、そう思うキバだった。


「それにしても、つくづく綺麗だなこの剣」

我が【武器】ながら、惚れ惚れするような美しさ。光を吸い込むかのような漆黒、洗練された赤の紋様、填めこまれた魔鉱は艶やか。そして何より、剣として使いながら魔法を使えるのが嬉しすぎるのだ。

「ただまぁ黒魔術だけどな・・・」

黒魔術。身体の構造や世界の真理、悪魔のような正体不明も何でもござれな魔術。特にモノをバラバラにすることが重要で、魔力を使うと少し触れた物が壊れる。

「一応魔力特性は風なんだけどな・・・」

何もしないのは性にあわない、近くの森にでも行こう。

こういったことを考える辺り、キバは平凡である。



「ハァッ、セイッ、オルァ!!!」

中級区の門から出るとすぐに広がる緑の塊、通称「キャントフォレスト」。未開の地ばかり、定期的に森の木々の位置も変わっているらしく地図が使えない。一説によれば、この森には主のようなモンスターがいて、奴が森の位置を変えているのではないかと考えられている。

「長剣術、片手剣術、両手剣術。それぞれ三周完了。そして魔術行使中でも剣を使える事が分かった。」

目的は果たしたのだし帰ろう。もうそろそろ日も沈むだろうし。

そう思ってキバは元来た道を戻る。


しかし一向に森から出られない。焦りと恐怖から走り出すキバ。そして無意識のうちに奥へ奥へと進んでいくーーーー

「湿気が多くなってきた・・・気味がわりぃ」

そして、最奥へと辿り着いたキバが見たのはーーーー

茶色いローブに手袋、顔は見えないがおそらく痩せこけているであろう。そして狂ったように木製の杖を振り回す男。

「まさか、『森魔術師の亡霊ドルイドリッチー』!?」

まだあどけない少年だった頃、目を輝かせながら見たモンスター図鑑。

その中のアンデッド部門にいた奴。

森を愛し過ぎた森魔術師ドルイドが死んでからも尚森に残るという厄介な相手。

「悪いな、ちょっと俺たちの安心の為に成仏してくれ!!!」

片手でもったウロボロスを森魔術師の亡霊に向け、走る。

しかし地中から生まれた太い蔦がキバを弾き、上に飛ばす。

高速上昇の後は重力に従って恐怖の自由落下。

「ああああ!!!〔虚空より生まれよ、大気の壁〕!!!〈エアウォール〉!!!」

空気の柔らかい壁がキバを包み、怪我を逃れる。

「野郎、許さねぇからな・・・・!!!!」

魔力を刃に流し込みながら、突進。蔦を切り裂き、動く大木を両断。木々が悲鳴をあげ、鼓膜を大きく揺らすが無視。

ただ一点、亡霊をめがけてひた走る。

「さぁさんざ手間かけさせたんだ、往生しやがれ!!!」

ウロボロスの刀身の漆黒が深くなる。脈打つ感覚が体全体に広がった、この瞬間。体内の魔力回路に一気に魔力を流し、剣に注ぐ。

「〈黒剣術こっけんじゅつ逆鱗渦げきりんうず〉!!!」

憤怒のままに乱れ斬るその技は、魔力によってその切れ味を増し、亡霊を斬る。

バラバラになるローブ、細い枝のようなミイラの腕が必死の抵抗とばかりに杖を振れど、少し上がったキバの動体視力には敵わない。かくして森魔術師の亡霊は二度目の死を迎えたのだった。


やがて細切れになった亡霊の体が崩れ、あとには杖のみが残った。

「成仏してくれ」

そう一言言い残し、杖を地面に突き立てると歪んだ森が元に戻る。

もう一度来た道を戻ると、今度は涼しい風と賑やかな町並みが見える。

「さ、家に帰ろう」



次の日も森に行って鍛練を繰り返し、魔力や呪術のコントロールを身に付けたキバ。長いようで短い停学期間は終了したのだった。

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