君の音
神崎玲央
第1話 君の音
ぎしぎしと軋むベッドの上でその黒髪を広げている彼女の耳に、この音は届かない。
擦れるシーツの音も、彼女の身体に触れるたびくちゅりと響く水音も、彼女の耳には届かない。
熱を含んだその双眸が俺の顔へと向けられた。思わず口にしたその言葉に彼女はふわり、頬を緩めた。
少しずつ、激しく。身体を揺らしていきながらその言葉を繰り返す。
「好きだよ」
口の動きが分かるよう、彼女に気持ちが伝わるよう、その言葉を繰り返す。
あっ、と短く彼女が声を上げた。あ、っあと身体を震わせながら俺の鼓膜を彼女が揺らす。
彼女の口から漏れるこの声も、彼女の耳には届かない。
その唇から溢れる声は、俺の元にしか届かない。
彼女のこの表情を、この声を知っているのは俺だけなんだと、実感するその度に
「っ、んぅ」
一際大きく、声が響いた。蒸気したその頬に俺は優しく手を伸ばしながら、一度彼女の名前を呼ぶ。
潤んだ瞳を俺へと向ける彼女に、彼女のその表情に、俺はにっと小さく口角を上げてもう一度。その言葉を、彼女へと向けて放った。
「…好きだよ」
君の音 神崎玲央 @reo_kannzaki
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