首なしたちのばか騒ぎ phase5

「まさか、まさかきみたちは、お互いの首と服装を入れ替えていたのか!?」


「気づいた頃にはもう遅い。すでに拍子木は鳴らされたようだからな」


 万来ばんらい公園。ジャングルジムや滑り台などの遊具に囲まれて驚愕に目を見開くジャックの姿があった。


「じゃあな、ストラ。行ってくるぜ」


 オーバーは大悟たいごの格好をしたストラにそう言い残し、廃工場のある方向へと飛んで行った。そのあとをリュックの中から飛び出した大悟の首と女の首、それに日本刀を口にくわえた武士の首が追う。


「オーバーも、大悟の首も、お前が欲しいものはなに一つやらんぞ、ジャック」


 リュックの中から出てきた老人の首を体に宛てがい、ストラは滑稽なジャックをせせら笑った。


「ニコニコさん。きついだろうけど最後の仕事、頼みます」


「老骨にゃこたえるが、孫娘ぐらいの女子に言われちゃあ、お爺ちゃんは張り切っちゃうぞう」


 ニコルフと会話をするストラを見て、ジャックは目を血走らせた。


「お前ら、約束は守るためのものだろう!」


「約束は、相手によっちゃあ破られる。人間のふりするならこれぐらい覚えておきな」


 怒りの大きさに比例するかのように背中から翼を広げ、ジャックは飛んで行ったオーバーたちを追いかけようとする。

 だが、二つの銃声がそれを許さなかった。


「逃がしもせんし、若いのの邪魔もさせんよ」


 ニコルフの頭部を完全に装着したストラは両手に二丁の拳銃を構えていた。

 左右二枚の羽に銃弾でそれぞれ穴を開けられたジャックはさらに怒り狂い、右腕を肥大化させる。筋肉というにはあまりにも不格好で異常な発達をした腕からは、皮膚を突き破って太い牙にも似た爪が生えていた。


「まいったね。半世紀近く傭兵をやってきたが、化け物退治はさすがにはじめてだ」


 ニコニコストラは拳銃で軽く額を叩き、不敵に笑う。


「まあ、冥土の土産話にはなるか」


 右腕の爪と左手に持った大鎌の斬撃を横に跳んで避けながら、同時に連続で拳銃の引き金を引く。鋼鉄の怒号が轟き、ジャックの翼、肩、脇腹に風穴が開いた。ジャックの怨嗟の声が公園中に響き渡る。


「お前らのあばら骨を引きずり出して、殺してやる!」


「おや、さすがに俺も耳が遠くなったかのお?」


 激昂するジャックの反応を楽しむかのごとく、ニコニコストラは軽口を叩く。


「さっきはカボチャのことを品がないと言っていたが、今のお前さんはそれ以上に下品だぜ」


「老兵は黙って消えろよ!」


 ジャックの叫びとともに死神の鎌が振り下ろされる。ニコニコストラはなんのためらいもなく銃を一つ手放し、ジャックの眉間に投げつけた。


「ぐあっ」


 それから流れるような動作でスーツの内側からダガーナイフを取り出し、鎌を受け止める。さらに追い打ちで残った拳銃でジャックの胸を撃ち抜いた。

 続けざまにナイフをジャックの太ももに突き立て、素早く地面を転がって先ほど投げた銃を拾う。間髪入れずに発砲し、ジャックの腹部を弾丸が貫いた。ベストのあちこちに青い血の染みが広がる。


「やっとストラちゃんの真ん中が見つかったんだ。俺もおちおち耄碌しちゃいられねえなあ」


 ニコルフの目には、隻眼せきがん猟虎りょうこと呼ばれていた現役時代の鋭い眼光が宿っていた。


「悪いが年寄りは老い先短くてな。さっさとケリをつけさせてもらうぜ」


 くるくると拳銃を回転させて歩き回るニコニコストラを前に、ジャックはうつむき、暗い声を出した。


「……わかったよ。俺も遊ぶのはやめて、とっとときみたちの息の根を止めてやろうじゃないか」


 全身血まみれになってもなお、怪物はくつくつと笑っていた。

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