首なしたちのばか騒ぎ phase4
人口の樹木やさまざまな遊具など、色彩豊かな万来公園とは打って変わって、廃工場の中は殺風景だ。床のところどころには鉄パイプや鉄骨が散らかり、壁には地元の不良グループが残したであろうカラースプレーで書かれた文字があり、天井にいたっては一部が怪獣にかじられたかのようにえぐれている。
その廃工場内に、いろんな意味で目立つ人物が立っていた。
灰色の建物の中でひときわ輝く、純白のウェディングドレスを着た女性だ。しかし、彼女の頭は武骨な西洋甲冑の兜に覆われており、手にはブーケではなく幅の広く長い西洋剣が握られている。ミスマッチも甚だしい。
彼女は破れた天井から降り注ぐ陽光をスポットライトさながらに一身に浴び、ただ黙して立っていた。
その静謐な空間に、がらん、と無粋な金属音が鳴る。兜とウェディングドレスを着た女は素早く音の方角を見た。
そこには、夏に似合わないトレンチコートとマフラーを身にまとい、ハンチング帽をかぶった少女が立っていた。
割れた窓から入り込む風にもてあそばれて、少女の長いサイドテールの髪とマフラーが宙を踊る。
「来たか、ストラ様」
西洋甲冑の花嫁、ナイトメアリーは現れた少女に話しかけた。
「見たところ首の入ったリュックは持ってきていないようだが、どうしたのだ。運び役のあの少年がいないからか、それとも我を侮っているのか」
少女は答えない。ひたすらまっすぐにナイトメアリーを見つめている。
「もし後者だとしたら、あなたらしくもない。それではジャックに勝つことなど――」
「ごちゃごちゃうるさいな、エッカルトさん」
ようやく少女は口を開いた。しかしその口から発せられた言葉は、騎士の知る、かつて彼の仕えていたストラのものではなかった。
「あんたが裏切ったのには驚いた。俺は驚かされるのが好きだけど、誰かを悲しませるサプライズってのは、やっぱりよかあないよ」
「なにを言っている……?」
「まったく、よくこんな格好で平気だよな、社長は」
少女は強引にマフラーとコートの襟元を開き、はしたなくぱたぱたと手で扇ぐ。わずかに覗く素肌の表面には、玉の汗が浮かんでいた。
汗?
ナイトメアリーの胸中に違和感が湧く。
ストラ・メリーデコレイトは、汗をかかないのではなかったか?
そこまで考えたとき、ナイトメアリーはようやく答えにたどり着いた。
「まさか――!」
「俺は驚かされるのも好きだけど、人を驚かせるのはもっと好きなんだ」
少年の声で喋る少女はコートの懐から
ちょん! という小気味のいい音が廃工場内に木霊した。
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