第三・五章

宴と夢と傷のあと

 鮎坂あゆさか大悟たいごはネクストラの入り口を開けて社内に入る。

 ジャックとの戦いが終わった翌日だった。

 一階のホールを歩きながら、大悟は思い出す。

 ここに初めて入ったときは、なんてふざけた会社だと思ったものだ。首のない口裂け女がここでハサミを振り回して暴れたこともあった。

 苦笑しつつ、二階へと続く階段を上る。

 二階に着くと、応接室のドアを開けた。

 二階を丸ごと使った、無駄に広い部屋だ。対面に並ぶソファーが二つ。間に机が一つ。周囲は観葉植物や棚が置かれているだけだ。

 ここではじめて、首のない客の相手をした。しかも彼女はろくろ首だった。自分の常識が壊れたきっかけは、この部屋かもしれない。

 そして、本気でジャックと最初に戦ったのもここだ。もしあのときに相手が全力だったらと思うとぞっとしない。

 笑えない想像を首を振ってかき消して、階段を上る。

 三階の社長室に入った。いつもの癖でノックをしようとして、その必要がないことに気づく。

 社長室の奥にはストラ専用の机と椅子があり、手前にはこれまた来客用のソファーがある。ストラはソファーが好きだったのだろうかと思う。

 大悟はまっすぐに社長机に向かい、遠慮なしに座る。机の隣に置いてある巨大なリュックに視線をやり、そしてゆっくりと目を閉じて椅子の背もたれに体を預けた。リュックの中の彼らには後ろめたさを感じている。やはり、一日では彼女との約束は果たせそうにない。

 ストラも、オーバーも、もういないのだ。

 ポケットから鍵を取り出し、一番大きい引き出しに差し込む。けれど回しはせずに、差しただけでやめにした。

 今日は、これからとっておきの客が来る。もてなさなければならない。

 客の名前は「死」という。

 やがてノックの音がした。

 大悟はその客を「どうぞ」と迎え入れた。

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