第6話 魔界の襲撃

 二人はセンターに戻った。ホールには人が集まり、設置されているホログラムテレビの前でざわついている。


「おじちゃん。何か魔界が攻めてきたんだって」


ホログラムはアグリの上空を映し出していた。高波動エネルギーフィールドに大きな灰色のタコの化け物の様な生物の群れが取り付いている。タコは噴出口から黒い墨を吐き出した。バチバチとエネルギーフィールドの膜が黄色い火花を上げる。


「睡蓮さん、あれは?」


「魔界の陰性エネルギーでフィールドに穴を開けようとしているのでしょう」


「そんな……。ど、どうしたら良いんです?」


「ウォーカーに既に連絡してあります。すぐに彼らが駆けつけるでしょう」


「ウォーカー?」


「魔界と戦う戦士のことです」


 

 一時間余り、タコはフィールドに取り付いていた。フィールドはジワジワ侵食され、今にも穴が飽きそうだった。


「もう駄目だ。これ以上は持たないぞ!」


ホールにいた誰かが声を上げたその時だ。流星の如く、銀色の流線型をした三隻の宇宙船が現れた。


「ウォーカーだ!」


船団に気付いたタコが十数匹、船団目掛けて襲い掛かる。すかさず二手に別れた船団は、一隻がフィールドへ、二隻が襲い掛かるタコ達に応戦した。船団は主砲から巨大な緑色の炎の柱をタコ達に浴びせた。炎を浴びたタコは塩をかけられたナメクジの様に萎んでゆく。


「なんじゃ、魔界っちゅうのは火に弱いんかね?」


「ええ。その通りです。我々高級勢力の支配下の空間には、火のエネルギーが満ちています。それを集めて攻撃するのです」


護摩焚ごまたきみたいなもんかね?」


「同じことですよ」


「悪霊退散っちゅう訳じゃな」



 タコはどんどん萎んでいくと、口から小さな子ダコを吐き出した。子ダコが炎の隙を縫って一斉に船に取り付く。取り付いた所で、粘液を吐き出して船の外壁を溶かそうとしていた。船の中からスペースカイトに乗ったウォーカー達が出て来る。火焔放射器で子蛸に炎を浴びせると、剣を持った剣士が子ダコを切り裂いた。


 

「お姉さん、あの人達、宇宙空間に生身で大丈夫なの?」


「この宇宙の住人は地球に居る時の様な肉体ではなく、アストラル体です。大丈夫ですよ」


子ダコが次々と殲滅されていった。フィールドに取り付いていたタコの群れの一部が、フィールドを離れて猛スピードでウォーカーに襲い掛かる。ウォーカーはヒラリとかわしたが、一人のウォーカーにタコの触手がヒットした。


「ああ! 危ない!」


「大丈夫かの?」


触手にやられたウォーカーは隣の船まで吹っ飛んだ。その船のクルーが急いで回収に回る。


 

 とうとうフィールドに穴が開いた。まだタコが入れる程には大きくはない。


「破られたわ!」


「ウッ! 何じゃ、この感じは!?」


「お姉さん、僕、頭がグルグルする」


睡蓮を除いたホールに居る全員が、言い様の無いドロドロとした不快感に苛まれた。頭の中で蛇がのたうち回っているようだった。


「皆さん、落ち着いて下さい。フィールドに穴が空いたことによって、魔界の精神波が流入したのです。フィールドは直ぐに修復されますから、安心して下さい」


「なんじゃ、魔界っちゅうのはこんな気色の悪い物なんかね。こんな薄気味の悪い連中に取り込まれるのは嫌だわ。皆でウォーカーを応援しな!」


「ウォーカー、頑張れ!」


「ああ、もう、見ているだけで加勢出来ないのがもどかしいのう!」


 

 船体に付いた子ダコの殲滅が終わり、船団は残りのタコに一斉放射を浴びせた。タコは全滅した。フィールドが元に戻り始める。穴が塞がると、皆の気分は回復した。


「皆さん、大丈夫ですか?」


「ええ。穴が開いた時は恐ろしく気持ちが悪くなったけど、もう大丈夫ですわ」


「念のため、火の浄化を行いますから、クリーンルームにいらして下さい」



 涼太達はクリーンルームへと移動した。係の者が小さな火焔放射器を構えている。


「では、皆さん順番に炎を浴びて下さい」


炎を浴びせられると聞いて、涼太は焦った。そんなことをして大丈夫なのだろうか? 涼太は係の顔をチラリと見た。


「あのう……」


「大丈夫ですよ。火傷したりはしませんから」


「そうですか……」


浄化係は次々に人々を炎で炙っていく。涼太の番になった。係の者は火焔放射器から炎を出すと、涼太の体を頭の天辺から足の爪先まで炙った。暖かでサッパリと気持ち良いエネルギーが涼太の体を駆け巡る。


「どうです?」


「うん。凄くスッキリしましたわ」


「ホホ。魔界の影響が残っていると、後で辛いですからな」


「有り難うございました」

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