第5話 祖父ちゃん
スペースポートに着くと、レモン色のタクシーが待っていた。ポートには巨大な倉庫が隣接しており、そこへ集められた野菜や果物が、大きな鯨の姿をした宇宙船に積み込まれていく。
「ありゃ、輸送船ですか?」
「ええ。アグリで収穫された農作物はここに集められ、ああして宇宙船で各惑星に運ばれています」
「はあ。アグリっちゅうのは、農業の星なんですね」
「そうですよ。さあ、タクシーに乗って下さい」
三人を乗せたタクシーは、草原の中に切られた道を走って行った。何処までも続く
「ここは管理センターです。涼太さんに見て頂きたい物があります」
センターの入り口には背の高い女性が一人、涼太達を待ち受けていた。
「こんにちは。センターへようこそ。私はここのセンター長のミルラです。涼太さんと淳さんですね。お話は睡蓮さんから伺っております。こちらへどうぞ」
三人はミルラに続いた。外側と同じく真っ白なセンターの中は、床にチリ一つ落ちていなかった。
部屋に案内されると、壁一面に
「こちらは太古の昔より、高級勢力の指導の元育てられてきた農作物の種です。これらの種から生育された野菜や果物は、どれも皆高エネルギーに満ちています。それを食した人のアストラル体もまた、少しずつ高波動へと高まっていきます。現在、新たな品種が出来上がりました。その種をお見せいたします」
ミルラは幾つかのケースから種を取り出すと、涼太に見せた。
「こりゃあ、これはトマトの種で、こっちは茄子、それはカボチャですね」
「流石ですね。そうです。涼太さんにこれ等をお渡ししますから、地球で育てて欲しいのです。今までの品種でも人々のアストラルエネルギーを上げる効果はありましたが、こちらはより強力です。魔界の影響は強まっていますから、是非こちらの作物を育てて、人々に分け与えて下さい」
「分かりました。それで、この野菜を食べてたら、村の衆もこんな風に宇宙に来れるんですね?」
「ええ。そうなることを願っています。いずれ、生きている間にこちらへ来て、高級勢力の思いを受け止め、叡知を学んで、地球を魔界の干渉から防いでくれることをね」
涼太は改めてまじまじと種を見つめた。俺のご先祖も、こんな風にして種を貰ったのだろうか?
「おじちゃん家の野菜は正義の野菜っていうことだね!」
「あら、ウフフ。簡単に言えばそうね」
「あの、畑の様子も見てみたいんですが」
「ええ。もちろん歓迎しますわ。お祖父様も喜ぶでしょう」
「祖父ちゃん?」
「外の畑で作業していらっしゃいますよ」
涼太は外へ出ると、広大な畑を見渡した。あちこちで農夫が作業をしている。つばの広い麦わら帽子を被って、茄子の剪定をしている青年の姿が目に映った。
「祖父ちゃん!?」
涼太は祖父の若々しい姿を見て、驚いて声を上げた。
「おう。涼太かね。良く来たのう」
「うん……。睡蓮さんていう綺麗な
「フフ。ここでは生前の好きな時の姿で居られるからな。農作業するのにヨイヨイのジジイじゃ仕方ないじゃろ」
「じゃあ、やっぱり、ここはあの世かね?」
「うーん。そうとも言えるがの。まあ、睡蓮さん曰く、物理地球とは少し次元が違う世界じゃっちゅうことらしいわ」
「ふーん。で、祖父ちゃんは死後の世界でも農夫かね?」
「おうよ。心ある人間は皆、死んだら高級勢力の元、魔界との闘いに参入するのさね。戦士になる者もおるし、芸術家になって人様のエネルギーを高めようとする者もいる。農作物を作るのも立派な貢献じゃし、ワシは自ら希望して農夫をやっとるわ」
「
「辰雄はな、失恋のショックでエネルギーが足りなかったんで、祖母ちゃんに付き添われて、首都のある惑星シャンバラで治療を受けておるわ。ありゃ、来世でもう一度やり直さなならんかもな。よし、そろそろ時間じゃの」
「時間て?」
「あれじゃ」
寅吉は畑に建てられたスピーカーを指差した。
突如、スピーカーから音楽が鳴り出した。川面を小舟が滑るように流麗な曲で、涼太は思わずうっとりと聞き入った。こんな曲を聴いたら、獰猛な野獣でさえ大人しくなるのではないかと思われた。
「なんちゅう綺麗な曲じゃ」
「今日は『アストラル大河』か。良い曲じゃろ?」
「何で音楽を?」
「美しい音楽を聴かせて育てると、より良いエネルギーの野菜になるんじゃ」
「ああ、地球でもそういうのあるな」
「農作物は心を込めて、優しく扱わなならんよ」
「うん」
涼太と寅吉は暫く音楽に聞き惚れていたが、優美な曲を遮って、突如サイレンが鳴り響いた。
「なんじゃ? どうしたのかね、祖父ちゃん?」
「来よったんじゃな」
「何が?」
「魔界勢力じゃよ。よし、センターにあるテレビで衛星動画見れるでな。行くぞ」
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