第3話 本気の戦いは辛いですよ?

 異様に浮き上がった血管、黒い斑点が入った両腕、本人は気付けない赤い瞳

 これらの意味するものが分かりそうで、浮かんできそうでまだあと少し届かない。

 ゴブリンを地面に叩きつけたからだろうか、血を急いで全身を巡らせるために血管がミミズの様にうねっている。あまり見たくは無い光景だ。


「気持ち悪いな、 これ…」


 その気持ち悪さは腕の斑点とも相まって余計に嫌悪感を覚える。しかしキョウはこの腕に感謝しなくてはならない。この腕にゴブリンを投げ飛ばせる程の力があるとは思ってもいなかった。


「いきなりこんなに強くなるとはね…なんでだ?」


 ゴブリンを倒してからの1番の疑問点。この腕と突然強くなった原因は必ず関係しているはずだから周りの状況より気になってしまう。


 ―uuUauuuu…


 ハッとしてキョウは声の方に顔を向けた。完全に殺したと思ったはずのゴブリンが唸り声をあげゆっくりと起き上がってきた。


「まだやれるのかよ…」


 ようやく状況整理が出来そうだったところに邪魔が入った。今度こそ終わりにする、そう決めるキョウ


 ―oooaaaoaaa!!!!!!!!


 さっきと同じようにゴブリンはキョウに向かい突進してくる。


「ああぁあああぁあッ!!!!!!」


 キョウも負けじと声をあげゴブリンを返り討ちにするために全力で走り出す。


 その時だ。キョウの視界にゴブリンは無く、代わりに紫に染った大地が見えた。

 運悪くも走り始めた直後にコケたのだ。


 ――こんな時にかよ!?


 手で支えることも忘れ、思い切り体を打ち付けたキョウに好機と言わんばかりにゴブリンが襲いかかる。


 ―バンッッ!!!!!!


 背中に思い切りゴブリンの腕が叩きつけられた。

ミリミリと骨が軋む聞こえた。ゴブリンに叩きつけられた衝撃で地面に這う形となってしまった。


「ううウぅ……」


 キョウの苦しそうな声が聞こえゴブリンは慢心した。勝ち誇った顔でキョウを見下ろしていた。だがそれは間違いだった。

 キョウは地面に這いつくばりながらもゴブリンが慢心している隙を突いて一瞬で立ち上がり顔を殴りつけた。


 ―……!?


 確信した勝利の喜びに浸っていたであろうゴブリン。何が何だか分からず間の抜けた顔で動きが止まっていた。それをチャンスとキョウは再び顔面に強打をあびせゴブリンを地面に倒した。


「おらぁ!! あああぁ!! ああぁあ!?」


 さっきまでの痛みを全てお返しするかのように殴りまくった。ゴブリンは最初は声をあげていたが次第に声は弱まり何も言わなくなった。


「……」


 キョウだけになり周囲は静寂に包まれた。そして今度こそキョウは初の勝利の喜びを噛み締めた。


「やったんだ… はは…」


 誰にも聞こえない様な声で喜ぶキョウ。その刹那、少女とも大人とも取れない声・が・聞こえてきた。


 ―これ、劣等召喚ローサモン…あげる―


 キョウは幻聴かと思った。しかし頭の中には同じ声が響いてきた。


 ―それと 身体能力上昇ライズ、大事に…使ってね…―


 声はそれだけで終わった。キョウがもう一度聞きたいと思っても、もう聞こえなくなっていた。


「なんだ、今の」


 当然の疑問。なんの前触れも無くを受け取った。しかしキョウには劣等召喚ローサモン身体能力上昇ライズの言葉だけはハッキリと聞こえた。何故そこだけハッキリと聞き取れたかは分からないが口に出してみる。


劣等召喚ローサモン


 目の前に小さな魔法陣が出てきた。光が眩しい。


「うわっ!?」


 魔法陣の光が消えていき目の前が見えるようになった。魔法陣があった場所にいたのは、ゴブリンがそこにいた。たった今キョウが全力を尽くし倒したはずのゴブリンが再びそこに立っていた。


「は…はあ?」


 疲弊しきったキョウには訳が分からない。しかし目の前に現れたのはゴブリン。ぼろぼろの体で構えゴブリンの行動を一挙一動見逃さないようにした。しかしゴブリンには全く動く様子がない。立ったまま幼子のように腕をぶらつかせて暇そうにしている。


「襲って…こないのか?」


 全く意味が分からない。あれほど獰猛なゴブリンが敵を目の前にしてこんな事があるのだろうか?キョウの経験、知識の域を超えていた。


 劣等召喚ローサモン、この言葉でゴブリンは現れた。そしてこの言葉が意味する事がキョウには分かった。


能力アートだ。能力だよ、間違いない」


 さっきの女の声はキョウを強化させた。キョウに能力アートを与えたのだ。


 ―劣等召喚ローサモン― これがどんな能力でもキョウにはどうでもよかった。キョウは能力持ちになれたことに今までとは比にならない程の喜びを感じた。


「やった!! 能力だ!! しゃあ!!」


 喜びが爆発し思わず声を大きくし騒ぎ始めた。

 あれほど夢見た能力を手に入れたのだ。しかしキョウは違和感を覚えた。何故だろうか何か気づいていない事がある気がした。

 思い返してみるとキョウに語りかけた声、それはこう言っていた。


 身体能力上昇ライズ劣等召喚ローサモン


「身体能力上昇ライズ…?」


 身体能力上昇ライズはどんな雑魚でも持っている能力だ。それを大切にしろと言っていた。


「俺が? 身体能力上昇…?」


 人間であるはずのキョウが身体能力上昇《

ライズ》を使うというのはどういうことなのかキョウは考える。


血管が気持ち悪く蠢いた。戦闘の疲労が溜まっている腕に赤黒が浮かび上がった様に見えた。


「そういえば…腕」


このよく分からない場所に来てからずっと思っていた、気持ち悪い腕への変化。そして何故か受け取った身体能力上昇ライズ


「俺、魔物になった…のか」


意味が分からないがそうとしか捉えられない事実。身体能力上昇ライズは魔物使える能力。

キョウは受け止めきれない。


目の前のゴブリンはまだじっとしたまま暇そうだ。コイツと俺は同じ種族なのかとキョウは感慨深そうに見つめる。


キョウは与えられた能力に戸惑いを隠せない。

が、この見知らぬ土地でこうして止まっている訳にもいかない。


戸惑い、不安を抱えつつキョウは次に進もうと決意する。

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人間→魔物モブに転生したんですけど弱いですよ? 駄目猫 @dameneko1

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