Episode 3 このオンボロ魔術屋より
転生してから2回目の夜が明けた朝、ゴードレスという人の店に向かうことにした。
あのネズミ男の目を思い出す。
俺を軽蔑しているような、警戒しているような眼が。
モヤモヤを募りつつ、佑と共に店へと向かう。
道は訪ねなくとも、街へ向かうときにその不気味な雰囲気が印象的で見かけた。
「まぁ、一度行ってみれば何となるかもな」
淡い希望を抱き、店というより廃墟へと入る。中には見たことのない植物が生い茂り、小瓶が棚にぎっしりと並べられている。
視線をまっすぐ前へと向けると、黒いローブを纏った小柄な人が座っていた。
「お待ちしておりました。シュンさん。」
声からしてだいぶ歳をとっているのがわかる。だが、その声に優しさも感じられる。
「待っていた?」
「えぇ、このオーブが教えてくれました。」
蒼紫色の玉がほんのりと光を放っている。
「あなたは、戦士としての適性が全くないですね」
唐突な辛辣すぎる言葉に絶句する。真面目な顔で言われる。隣にクスクスと聞こえる、、のは間違いだろうか?
「しかし、あなたには魔法の適性がずば抜けています。」
魔法、それはファンタジーにおいて重要とされる要素。魔法といえば、炎、水、地、風、雷、闇、光などなど様々な属性がある。誰もが自分は特別な存在だと魔法を出そうとした経験はないだろうか?
妄想をしているとき、その人は解説を始めた。
「魔法は昔、皆に愛され、活用されてきました。しかし、現在は魔物の使う術ということでこの聖国では禁止されています。もちろん、それに関連するものも。私の夢はこの魔法を取り戻すこと、だからこんな端に住んでいるのです。」
辻褄があった。だからあの鍛冶屋の店主はあんな目をしていたのか。しかしもう一つ気がかりなことがある。人間以外の種族を見たことがない。
「すみません、この国は人間以外はいないのですか?」
すると、地図を広げて、三つの石を置いた。
「そうでした、あなた方はこの世界には疎いのでしたね。この世界には主に三つの勢力があります。一つはこの国を中心とする人間。
二つ目はオーガやリザードマンなどの亜人種。最後は魔王によって生み出された魔物。
どれも自分自身の国を持ち対立している状態です。」
となると、大勢を仕切るほどの知力はあるということか。しかし、亜人種や魔物は人間よりも強いはず。
「なぜ、人間は彼らに立ち向かえるのですか?魔法はつかわないのでしょう?」
「えぇ、ちょうど100年前に降臨されたこの国の王が科学なるものを生み出したのです。今は亡きものですが。」
科学?妙だな、それにしては文明はまだ発展していない。
「今日はお願いがあってここにきました。」
「えぇ、わかっております。では、うちの娘が相手をいたしましょう。これでも、私よりも才能のある前途ある娘です。」
「よ、よろしくお願いします。」
カウンターの後ろにある扉から長身スレンダーな女の子が出てきた。
俺は、瞬時に全身をみる。外国人ハーフのような鼻。少しトンガリのある耳。キレイな黒髪に程よい胸、キリッとしつつ優しさの感じられる瞳。最高だ!
「では、こちらへ、」
カウンターの隅にあるドアを開け、誘導する。
「がんばれよ、シュン」
「頑張れって、お前はどうするんだよ」
「あぁ、少し確認したいことがあってな。」
タスクはひと通り店周りを確認した後、店を出る。
本棚が壁となっている部屋に入る。分厚い本やボロい本、大きな本など色々ある。
一つのテーブルに向かい合う椅子に座る。
「シュンさんでしたよね?貴方は何故、魔法に興味があるんですか?」
本棚に並ぶ本を漁りながら、黒髪の女性は聞く。
「この世界を生き延びるには、術が必要だろ?それに俺には武術の才がないからな。」
それはそうかという顔をして分厚い本を何冊もテーブルの上に重ねる。
「魔法の入門から上級まで、マナに関するものなど関連する重要なものだけを選びました。」
うわー、なんちゅう量だよ。頑張るっきゃないなー。
覚悟して一番下に積まれている本を取り出す。
「•••。」
「どうかしましたか?」
やっべぇ、俺、この世界の字を読めないんだった。
「あのー。お名前を伺ってませんでしたね?」
少し躊躇うように名を発する。
「私は、フィンクル、•••エルファンです。」
「よろしくな。男みたいな名前だな。」
その返答にフィンクルは驚きの顔をした。
「ん?どうしたんだよ?」
変な反応に戸惑う。
「あ、いや、エルファンですよ?」
「うん、さっき聞いたよ。」
「エルファンってあのエルフ族の王族のファミリーネームなんですよ?」
シュンに向かって、不思議な表情しながら言う。
「エルフ族•••。マジか?あのエルフか?すげー、どうりで美人だと思った。」
嘘のないシュンの顔を見たフィンクルは驚きを隠さなかった。
「あれ?俺、失礼なこと言っちゃった?」
「いえ、私たちは亜人種に数えられる種族。そんな敵意のない反応されたのは初めてで」
瞳を涙で潤し、口を緩ませる。
「いえ、それより、始めましょうか。」
「待ってください。その前にいいですか?」
深刻そうな顔をしてシュンは言った。
「はい?」
輝かしい顔で首を傾ける。
「俺、字を読み書き出来ないんです、」
ドヤァ。どうだ、ここまで清々しいなら何も言えまい!
「はい!じゃ、翻訳魔法をかけますね。」
ポケットから丸まれた紙を取り出す。
俺のおでこに手をかざし、唱える。
Translation magic: Brain middleman
翻訳魔法:脳の中間者
淡々と作業をされ、呆気を取られる。
「別に珍しいことではないんですよ?世界には何十ものの言語がありますから、こうやって、翻訳魔法のスクロールがあるんです。」
「なるほど。」
「では、魔法の素晴らしさをおしえてあげましょう!」
目をキラキラされ、本を追加される。
—— どうやら、火をつけてしまったらしい。
嫌な予感しかしない! ——
魔王のいないこの地より。 霜刀 @shimogakana
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