Episode 2 仲間のいないこの現状より
やわらかな風が吹き抜ける草原で深いため息を吐く。
「どうしたよ?俊、そんなに落ち込むことか?確かに驚いたけどさ。いいじゃないか!平和で!」
と気楽に言う。背に地をつけ、手は頭の後ろに組み、夕空と対面している。そんな穏やかな空間を切り裂くように俊は言った。
「ばか、勇者と魔王がいて物語があるんだ!この世界の人には失礼だけどさ•••仲間もどうやって集めればいいんだよ•••。」
「ふっ•••。」
佑はすかした顔をしながら、茶髪をかきあげた。
「それなら俺に任せろ!シスターから聞いたんだ。この少し先に中枢都市があるとね!」
「はぁ•••。」
ため息で雲ができるんじゃないかぐらいの深く長くした。
「なんでそれを早く言ってくれないんだ?もう夕方だろうが!」
二人はシスターにお願いし、教会に寝泊りの許可を得た。思わぬ願いにシスターは困惑していたが、見なかったことにした。
未知の世界ではじめての一夜を過ごす。
前の世界の未練、この先の心配が脳裏を過ぎる。急な不安と寂しさが襲う。
しかし、こんな時だからこそ楽しまなくちゃ無駄になるとあいつは言うだろうな。
隣で爆睡している佑に安心しつつ、今後の計画を練る。
教会が運営している農場から、鶏の声が響く。
「起きろ、佑、朝イチで行くって言ったろ?」
そう言った瞬間に目をパチッと開き、小さな布をまくり上げる。ムクッと立ち上がり意気揚々といている。
「よしっ!行こうか!」
そこそこな偏差値のある高校でトップを争うほどの学力を持つ男が言う。
おまえ•••。頭は良いのにばかだなぁ•••。と言わずに心に収めたのはせめてもの良心だった。
二人は現代では見られない自然に溢れた道を歩く。1人は通行人に道や街の様子について尋ねる。もう1人は1人が話している相手と無駄話をする。誰だと言わずともわかるだろう。
やけに俺よりも盛り上がっているのが尺に触る。
どうやらこの世界の技術はあまり発展していないらしい。前の世界で言う産業革命より前ぐらいか?
ある一国は桁違いの技術を誇ると言う。興味はあるが、今は武器や仲間が必須だ。しかもこの世界の金銭がない。どうしたものか•••。
「おーい、俊!こっちきてみろよ!」
森の少し先からヒョコと顔を出し、呼んでいる。
いつの間に•••。
クワガタを初めて見つけた少年のような無邪気な微笑みに引き継がれるがままに向かう。
「どうよ!マ○オ。」
と言いながら、明らかな毒キノコを手に、有名なジャンプポーズをしている。
いい加減、心優しいと自分で揶揄している俺でも腹が立ってきた。殺気をこめた笑顔でたすくの肩に手を置く。
「行こうか。」
「はい、」
牙を尖らせ、佑にガミガミと説教をしてやった。
そうしているうちに街に着く。
街についたものも、なにをするべきか•••。数年前にプレイしたRPGを思い出そうとする。
確か•••、ギルドとやらで仲間と会った気が•••。と呟きを耳にした佑が
「じゃ、早速ギルドだな!行こう!」
と目をキラキラときらつかせて言う。
佑に引っ張られるがままにギルドへの道を辿る。
正直、こういくのは嫌いじゃない。
デカく少しボロい建物に感激と驚きを抱きつつ、中へと入る。
「どうぞ!カウンターへ!」
建物に入ると案内係の女性が案内してくれた。
「はじめてのお客様ですね!今日はどの御用件で?」
と優しい笑顔は佑とかいう男によって疲れた心を癒してくれた。
「えーと。仲間を探しに。」
「メンバーをお探しですね!えぇと。このリストからお選びください!」
15枚ほどの紙を渡される。受け取ると電撃が走った。
しまった!文字が読めない!この世界では俺はもう成人扱いだ、その大人とやらが字を読めないなんて•••。
誤魔化さなければ•••。ん?これは数字か?前の世界の雰囲気が少し感じられる。
まさか、おじいちゃんから散々送られた古代文字についての本が役立つとは。
「これってなんの数字です?」
「はい!料金になります!平均しても100T(ティブ)ぐらいです!」
「はぁ、なるほど、」
まずい、字が読めずにさらに一文なしだなんて!
「ご心配なさらず、ここは冒険者が集う街でもスターターばかりですから、格安です!」
やばい、やばい、やばい、地雷を踏んでしまったようだ、
ちらっと案内人の顔を見る。眩い笑顔で返してきた。
やめてくれぇ。その笑顔!人の恥ずかしいシーンを見ても自分が恥ずかしくなってしまう俺にはキツすぎる!、、、眉間にシワを寄せ、脳をフル回転させる。
「検討しますので、また後日にお伺いします。」
と言い、席から離れる。
俺、天才か!初めて自分に自信を持ったわ!
意気揚々としつつ、ギルドの建物から外へ出て、店が密集する通りを歩く。
「なぁ、佑。どうする?」
やけに大人しい。落ち込んでいるのか?無理もない。そう思い、声をかける。
「って、いねぇ!どこ行きやがった!」
もう一度、ギルドの建物に戻り、隣にいたかと尋ねるが、どうやらはなっからいなかったようだ。
心当たりはある。どうせボロい外観に失望したのだろう。ここで俺は確信する。
そうか•••。これもう冒険じゃないわ!ここはやけに平和だし。勇者って何?ぜんぜん勇しくないよ?
と建物の前で体育座りをしながら、ぶつぶつと呟く。
ジャラジャラ
と金属音が聞こえた。鼻をすすり顔を上げると、誇らしげに膨らんだ巾着袋を持っていた。
「佑、それどうしたんだ?」
と手を震わせながら、指を刺す。
「あぁ!腹が減ったからマ○オのキノコを食おうとしたんだ!そしたら店の人が換金してくれたんよ、どうやら激レアキノコらしい。」
鼻を人差し指でこする。言わずともへへん!と聞こえて来る。
「おぉ、、、」
なんで、居なくなった?と聞きたかったが感激のあまり今は忘れてしまった。
「と、とりあえずさ、武器とか調達しようぜ」
「まってました!」
盾と剣が彫られた看板のある店に入る。スキンヘッドでムキムキの店主らしき男が仁王立ちしていた。
恐る恐る話しかける。
「えーと、すみません、初心者におすすめなかものってありますかね?」
「あぁ?見ねぇ顔だな、少し待ってろ」
睨みをきかせた顔に、歴戦の重みを感じた。
すると、男は思いっきり息を吸う。
「師匠!たのみやす!!」
その大声に周りのものが少し揺れた。おぉ、こんな男の師匠か、とワクワクしつつ緊張していると、奥から小柄なネズミのような小男が出てきた。
「へぁ?!」
「え!ちっさ!」
隣の茶髪ヤローが言った。
「あぁ?今なんとおっしゃりましたか?」
敬語なのが怖さを増す。
「よいよい。君たち新人かな?どれどれ」
首にかけていた丸いメガネをつけ、スイッチを押す。
「ほぉ!茶髪の君!最高級の剣士の素質があると見た!そんな君にはこれをやろう!」
「「おぉ、」」
周りの大男たちがどよめく。勇気を出して聞いてみることにした。
「あのゴーグルみたいなのってなんですか?」
「え?知らなくてうちに来たのか?あの方はこの街どころかこと地域で一番の鍛治指導者であり、鑑定士なんだよ。最高級だと兵士千人に匹敵する。わかりやすく言えば勇者級ってことだ、こりゃすげぇ、」
じゃ、あのゴーグルっぽいのは魔道具かなんか!すごい、と感心する。
「次、俺は?」
「あー、君ね。見たよ。ゴードレスんとこに行ってきたら?この街の外れにある。」
「え?ちょっと、」
軽くあしらわれた。軽蔑するような細い目が色づいたゴーグルから見えた。
佑はネズミ男からもらった装備をつけて満更な様子だった。しかし俺は•••。
次の日にゴードレスという人の店に行くことにした。
——しかし、俺だけひどくないか?
どうなるんだ?俺は?——
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