Episode 1 魔王の存在しない世界にて

額にツノを生やした魔物、というより魔人というべきだろうか。そんないかにも魔王のような衣服と装飾品を纏っている男は黒い剣を目の前に突き出した。


その漆黒の剣の先には、純白のフルプレートに包まれた聖騎士がいた。


城の窓から差し込んでする日光を白い鎧が反射し、光り輝く。


太陽が雲に隠され、暗くなり、また太陽が顔を出す。


——そのとき、両者の位置は反転していた。このときに聞こえた音は、金属同士がぶつかり合った音でもあった、そのコンマ秒後少し生々しい肉を切る音がした。


———— というシーンがちっぽけな電気屋のテレビに映し出されていた。どうやら有名なアニメのワンシーンらしい。


いいなぁ、こんなデカイテレビがあったらと小さな願いを抱きながら店の前に立つ。


少学生がテレビの前に群がり、なにやら喧嘩をしているようだった。


耳を傾けてみると、勇者と魔王に対する討論が広がっていた。


「やっぱり、勇者はカッコいいよな。」


グループのリーダーらしきいかにも活発そうな子が問いかける。


「いやでも、魔王のほうがカッコいいよ。自

 分の信念を貫いてさ、」


と気弱そうな男の子が返答をする。


「ばかいえ、あいつは人間を騙して、苦しま

 せたんだぞ!」


「そうさ!勇者は魔王を倒すために、努力し

 てきたんだぞ!魔王は何のためにいるのさ

 !」


別の二人の男の子達が加勢する。


「え、と、それは、、、」


魔王派の少年に対して、複数の勇者派が問い詰める。その言葉に魔王派少年は何も返すことが出来なかった。


トゥルルールー、ズボンのポケットが振動する。この着信音なんとかならないかな?と思いつつ、スマホを取り出し、画面に表示されている名前を確認する。


——佐藤佑。そう俺の親友というべき友だ。小学生に進学するときに親が仲良しということで会わされた。当時、一人だった俺の唯一の光だった。それから、ほとんどこいつと一緒に行動している。


そうか、あいつ今日は生徒会の仕事がなくなったんだっけか。


みんなから慕われている優等生。顔が怖いとやらで有名な俺。対極な俺たちが一緒にいることで最初は佑が脅されているという噂までもが流れるほどだ。


そう昔の思い出に浸りながら、高校に繋がる登り坂を歩く。その坂の先に爽やかなイケメンが待っていた。そう佑だ。目が合い佑が手を振る。


——キャー


黄色い声が聞こえた。俺の後ろにいた女子が勘違いして、興奮しているのだろう。いつも通りの光景に俺はまたか、という顔で振り返す。


いざ、共に学校へ向かおうとしたそのとき


——キャー!!


今度はさっきよりも大きな声が響いた。


まったく。今度は女子たちに何をしたんだ?そう思い、佑の顔をみる。何やら後ろを見ているようだ。今までの佑がしてきた表情にはない、初めてみる顔が瞳に映った。


眉間はややしわが寄り、唇は少し甘噛みしていた。悔しそうに見えたが、佑が見ていたその先を視界に収まるとそれは大きな間違いだとわかった。


強盗マスクを被った、いかにも犯人のような男が鋭利な刃物を手に、こちらへ襲い掛かる。


「にげろ!佑!」


そう俺は言った。小学生の頃から空手をしてきた。この技術が役立つことを嫌だったが、

決死の覚悟で両手を構える。


しかし、佑の目には呆気なく間合いを詰められ、焦る俊をとらえていた。


「俊!戦うな、はやくここから逃げよう!

 はやく!」


——ザシュ


首を切られた。死んだな、くそ、佑は?守ることができなかった•••。

何をやってんだか。

視界は回転し、真っ黒に染まった。


目を開けると、見知らぬ天井が広がっていた。


「そうか、俺、死んでなかったのか•••?

 それより佑は?」


隣をみると、佑は目を閉じたまま横になっていた。


「よかった。生きていた•••。いや待て、ここ

 どこだ?病院でもないし、手術した跡もな

 い。」


キレイな手で首元を確かめる。

周りには古びた茶色い木製の長椅子が綺麗に並んでいた。どうやら、ここは教会らしい。

一度立ち上がり、周りを捜索していると、シスターらしき金髪の女の人と出会う。


芸能界に出れば、何百年に一度だと言われるレベルの美女だった。


俺たちと同い年くらいか•••。そう思っていると、美女は瞳から一粒の涙を流しながら言った。


「お目覚めにならしたのですね•••、勇者さ

ま。」


「へぁ!?」


今まで出したことのない間抜けな声を発してしまった。


ドッキリか?今時にこんな•••。


「おい!俊、生きていたのか?」


と後ろから少し震えているが、聴き慣れた声がした。振り返ると遠くで佑が驚いた顔をしながら、立ち尽くしていた。


「おう!」


さきほどに間抜けな声をしたやつとは思えない男らしい返事をした。


「えーと、この方は?」


そう言うと、金髪の美女はニコニコと笑みを浮かびながら言った。


「私はルーナと申します。牧場であなた方が倒

 れているところを発見して、教会のほうに

 預けさせてもらいました。」


「いや、でも何で?俺たちが勇者なわけ?」

先を読めない俺は先走る。


「ゆ、勇者?どうゆうことだ?俊。」

二人を何度も往復し、困惑している。


「すまん、俺もさっき目を覚ましたばかりで

 状況を理解できていないんだ。」


「それはですね、古くから伝わる書に記され

 ているのです。」


うわぁ•••。ゲームかよ。ベタすぎじゃねぇか?と言いたい気持ちを抑える。


「なるほど!では魔王一派を討伐すればいい

 わけだな!」

古物語を読破している佑は全てを看破したかのように返す。


「いや、まて佑。俺たちには戻るべき居場所が

 あるだろ!」

少し楽しそうな佑に腹が立ったのか、拳を軽く握りしめて、言う。


「俊•••。見てしまったんだ僕は。君の頭が

 地に付くところを•••。だから、ここは僕た

 ちがいた世界じゃない。元の世界に戻るた

 めにも今は前に進むべきじゃないか?」


今までだったら、嘘やこういう冗談を言わない佑が言っている。唯一、この世界で信用できる仲間がいっているんだ。しかし、この前向きさと切り替えの速さには毎度、驚かせられる。


「あのー。今なんと?」


しまった!勇者が元の世界を引きずっているところを見られては•••。元々別の世界から来ていることを記されていないかもしれない。まずい。慎重な俺がこんなボロを、


「ま、魔王!そうだよな?佑!」


「ん?あぁ、そうさ、勇者といったら魔王だ

 な!」


こいつ、この状況を理解してないな?少しポンコツじみてるんだよな。


「魔王?あぁ、サタンですね。かつてこの地

 に降臨し、魔物を生み出したという。よく

 ご存知ですね。流石です!」


「「え?」」

かつてと言う言葉に困惑する。


「どうかお助けください。魔物たちによって

 蹂躙されるこの世界を!」


「え?ちょ、魔王は?」


「いませんよ、」


朗らかな笑顔と共にそう答える。その事実にキョトンとした二人はお互いの顔を見つめる。


「「なんじゃ、そりゃぁあ!」」


——こうして俺らの冒険は、魔王のいない 

        この地で幕を上げた——

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