第9話 訓練と絆創膏
先ほどのテラスとは違う部屋に俺たちはいた。
振り返るとビッグアンジェがこちらに手を振っている。
前を見るとミニアンジェがこちらをみている。
まだ慣れないなこれ。
「お願いしまーす!」
元気の良さは元からの取り柄だ。今はTシャツにショートパンツ、運動靴と運動するのに最適な格好をしている。アンジェも同じ格好だ。
さて、転生先、アークリーヴァには人と霊獣という妖精みたいな存在の他、堕ちた
浮遊大陸で生きる物にとっての天敵だ、というのを俺は知った。
訓練ということはそれに対抗するためのものだろう。
「それでは訓練を開始します!」
元気よく始まった訓練は地味だった。
柔軟体操、ラジオ体操、ランニングの後は筋トレ。
考えてたものとは違ったけれど、運動するのは嫌いじゃない。もともと体を動かしたかったんだしね。
新しい体(仮)は実によく動く。
学生の頃よりも段違いに、それどころかアスリートよりも動ける。
100メートルなんて9秒フラットでしたわよ!なにこれぇ!
「いや、なにこれ。化け物じゃん、やべーやつじゃん。大丈夫なのこんな体で。」
「なにか異常がありましたか?体になにか、ふむ、骨や内臓でしょうか。」
そういって俺の体をペタペタ触るアンジェにびっくりして焦る。
「ち、違う!いや、違わないかも。異常というか、元の体とスペックが違いすぎるというか、超人すぎるんじゃないかと思って。」
「なるほど。確かにあちらの常識で考えると違いますね。でもご安心ください。
この体は確かに同年代と比べると突出しているかもしれません。ですが、世界で見るならばさほど問題はないと思われます。」
「ほんとに?ならいいんだけど。凄いスペックの体があっても俺そこまでヤバいことしたくないよ?普通に暮らしたい。」
「ハジメさんもご存知の通り、あちらには己の体一つで生計をたてる職業もありますが、ほとんどの方はおよそ考え得る限り普通に生活していますので、ハジメさんもそのようにすればいいと思います。」
そう言われてホッとする。危ないことは極力しないで済むならそれにこしたことはないからね。
まぁあの世界は元の世界と違って、戦いが割と身近にある。
だからこそアークリーヴァの呼び声という戦うすべがあるわけで。
やってやれないことはないが、積極的にやりたくない、が俺のスタンスとなる。
と、身体能力については解決したが体のことでもう一つ問題がある。
「そっか、それならやりたいようにやらせてもらうよ。えと、あ、あのさ、もう一ついいかな?」
アンジェがなんでしょうか?と首を傾げて俺を見る。
ちょっと言いづらい。言っていいことなのかセクハラにならないか心配になってしまう。
最初は気にしてなかったんだけど、だんだん気になってきて、走ってるときにはっきりわかって
「あの、さ、先っぽ、先っぽがちょっとあれなんだけど。」
「なんの先っぽですか?」
「いや、あれの、先っぽ。先っぽがさ、ちょっと擦れてさ、痛むっていうか。」
「……あぁ、なるほど。走ってるときに擦れて痛かったんですね、乳首が。」
「ふぇぇ、ごめんなさい。」
「なんで謝ってるんですか。そういうことも逐一報告してくださいね。ほら見せてください。」
ごめんなさい。なんか恥ずかしかったんです。
そして俺の乳首には絆創膏が貼られた。
なんで?なんか死ぬほど恥ずかしいんだけど。女の子はいつもこんな感じなの?絆創膏貼ってんの?
「ハジメさんの力でパッと治してもいいですが、できるだけ自然治癒力に頼った方がいいです。あの力は元々持っている治癒力を増幅するというものなので。」
アークリーヴァの呼び声、
その治す力にはできるだけ頼らない方がいいとされている。
日常的に治癒力を増幅していると、本来の治癒力が低下していく。低下した治癒力を増幅するにはさらに力を加える必要があり、悪循環に陥ることもある。
これくらいで使っていたら日常的に使うことになるだろうってことだ。
「これからは下着にも気を使ってくださいね。ここにいる間は私が用意できますが、これからは自分で用意しなければなりませんよ。気を使ってても体には不調が現れたりするんですから、鈍感なのはいけません。」
カ、カーチャン。でもそうだよね。いつも安売りの三枚何百円とかてきとーに買ってたけど、これからはちゃんと気にしよう。
俺の乳首は俺が守る。
「では、続いての訓練に参りましょう。」
「おー!」
元気よく返事をして体を動かす。
すでに体の動かしかたはわかっている。
それを反芻するようにゆっくりと着実に動かしていく。
地面を蹴り目標に向かって左の拳を突き出す。まっすぐ、下、左、引きつけた右を腰の回転を利用して勢いよく突き刺す。
崩れたところを抱え込み右の膝を叩きつけ、前蹴りで距離をとり遠心力を効かせた蹴りで薙ぎ払う。
「めっちゃバトってんじゃん!!!!」
アンジェが仮想空間に作り出した小型の堕ちた
「ふーん、面白そうなことやってるのね。」
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