第10話 謎の人物の正体は

 訓練を終え、俺は一人瞑想をしていた。

体の動かしかたなどはある程度理解できたが、霊力ホロのコントロールなどまだまだ不安定なのが気になっていた。


 こうして瞑想している間にも俺の体はどんどん変わっていく。

文字にすると恐怖そのものであるが、最初からわかっていればなんてことはないのだ。


 しばらく呼吸を整えながら集中していると、こちらに向かってくる気配があった。

 アンジェはちょくちょくこちらを気にして様子を見に来ていたが、今は作業のためここにはいなかった。

俺の後ろまで気配が近づき動きを止める。

なるほど、俺の集中を途切れさせないようにしてくれているわけだな。

 こうして考え事をしていても集中は途切れていない。なかなかどうして俺もやるようになったではないか。


 しばらく後ろにいた気配が、今度は俺の前に回ってくる。

 目の前にきてこちらの様子をうかがっているようだが、なんだろう、何か言いたいことがあるんだろうか。

 アンジェが俺の邪魔をするとは考えられない。が、さすがに気になる。

まぁ、そろそろ終わりにしようと思ってたし?集中が途切れたわけじゃないし?自分に良い訳をしながら目の前にいるアンジェに声をかける。


「そろそろ休憩のじか……ん?」


 俺の目の前には顔があった。

 アンジェではない……知らない顔が。


「え、誰っ!?え、誰っ!!??」


 俺の心は乱れに乱れていた。集中どころじゃない。ってかこの人誰?こわ!

 思わず後ずさった俺を見ながらその人はなにも言わない。え、こわ!?

ここには俺とアンジェしかいないんじゃないのか?誰か住んでた?

マジでこの人誰?


「ア、アンジェー!!!!」


 俺の渾身のSOSは一瞬で届いた。



「どうしましたかハジメさん!?え、あなたは。」

「ア、アンジェ、なんかいきなりこの人が、ってかこの人誰?」


「久し振り、アジェンダ=アンティルゼイン。」

「カルギュロス=カンゼルヴァイン。どうしてあなたがここに?」

「カルディナ、って呼んで欲しいわ。どうしてここにいるか、何故かしらね?」


 謎の人物はカルディナと名乗った。

 神秘的でどこかアンジェに似ている雰囲気がある。

カルディナは蒼く長い髪を右手でくるくる弄りながらこちらを見ていた。


「もう一度問います。カルディナ、あなたがどうしてここに?返答によってはアーロキエートの権限を行使します。」

「わたしはもう答えたはずだけれど。何故かしらって。」

「答える気はなさそうですね。」


 ちょ、アンジェさんやなんでそんなにやる気満々なんですの?

 わたくしあなたたちから溢れる冷たい空気で息苦しくてたまりませんわよ!

たまらず俺は口を出す。アンジェの後ろに隠れながら。


「つまりカルディナさんは何故ここにいるのかわからない、と仰りたいわけですか?」

「そうよ。人の子は物分かりがいいわね。さすがアンジェが選ぶだけのことはあるのかしら。」

「と、あちらは言ってますわよアンジェさん。」

「ハジメさんなんだか口調が……いえ、カルディナ、間違いありませんか?」

「最初からそう言っているじゃない。そもそもアンジェに嘘を言うわけがないでしょう。そんなことをしたら消えてしまうわ。」


 その言葉でアンジェから溢れ出ていた冷たい空気は消えてなくなり、いつものアンジェに戻っていた。

 どうにかおさまったみたいだな。あぁ怖かった。


「つもる話もあるでしょうし、一緒にお茶でもどうですか?いいよね、アンジェ?」

「ハジメさんがいいのであれば私は構いませんよ。」

「口説かれたのは初めての経験だわ。」

「口説いたわけじゃねーよ!?」


 このやりとりどっかでやったぞ。



「なるほど、カルディナもアンジェと同じ女神様みたいな人なんだ。」


 俺たちはいつものテラスでスイーツカーニバルを開催していた。

 なんか味覚が女の子みたいになってきたぞ。あ、俺今女の子だわ。


「えぇ、私たちはほとんど同じ役割を担っている、同僚、に近いかもしれませんね。カルディナ、お茶のおかわりは?」

「もらうわ。あなたいつもこんなおいしい物を食べていたのね。ずるいわ。抗議するわ。」


 そう言って、カルディナはハムスターみたいにもぐもぐスイーツを口いっぱいに頬張る。

 なんか姉と妹みたいだなこの二人の関係。


「それと一つ訂正しておくわ、人の子よ。わたしたちはアーロキエートに逆らうことはできない。つまりアンジェはわたしたちの主でもある、同じではないわ。」


 ほぇ~、訳わからん。アンジェが上司でカルディナが部下ってことでいいかな。

あんまり俺には関係なさそうだし、転生する俺が聞いてていい情報なんだろうか。

 アンジェを見ると意図をくんでくれたのか頷き微笑む。 


「それにしても驚きました。私たちは普段会うことはありませんから。それだけ異常事態だということを理解してくださいね。」

「わたしもそれは理解しているわ。でも何故かここにいたの。おかしいわ。」

「もしかしてカルディナは方向音痴?」

「なにを言っているの、人の子よ。わたしは方向音痴じゃないわ。進んだ先がたまたま目的地じゃなかっただけよ。」


 すごい必死だ。アンジェもなかなか個性的だけどカルディナもたいがいだな。

 なんか親近感わくなぁ。 


「ところでさっきから色々やっていたけど、アンジェ、どこまで進んでいるの?」


 カルディナがアンジェを見る。

 転生のことかな?現状40パーセント弱の進行度らしい。

正直自分ではそのへんがよくわからない。


「……現在40パーセントほどです。計画に狂いはありません。」


 俺が聞いていたものそのままだな。

 ってゆーか、カルディナも俺のこと知ってたみたいだし、情報が共有されてんのかしら。

 ちゃっとこそばゆい気持ちになる。


 アンジェからそう告げられたカルディナはこちらを見て微笑む。

 心底うれしそうに、楽しそうに、哀しそうに微笑む。


「そう、楽しみね。」

 

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