第5話 世界の名は
うむ、綺麗な鼻だ。可憐といっても良いかもしれない。鼻。
転生したと思ったら鼻だけ転生していた。
俺はよくわからない。たぶん誰もよくわからない。
そもそも鼻だけ転生ってなによ。
それは転生じゃなくて整形ではなかろうか?
アンジェクリニックは安心安全綺麗なお鼻をあなたに。
「どうすんのよこれ。」
俺は目の前に浮かぶ人物、アンジェに問う。
広間の真ん中で優雅に漂う、美しき女神のように神々しい姿。
その口元には先程からケーキが次から次へと運ばれていく。
俺も食べたい。
「まだ肉体の転生は始まったばかりですから。はむり……焦らず着実に進めていきますよ。」
そう、まだ転生は始まったばかりなのだ。
「こくり。本来であれば肉体をハジメさんのように徐々に変えていく必要はありません。生まれ変わる時というのは死んでいるんですから。命が終わり、朽ち果て、輪廻の輪を廻り、新たな命として芽吹きます。」
死んでいるということは体も無いということ。
体が無ければ作り替える手間もない。
零から生まれ、育ってゆく。
「ハジメさんの場合は例外なのです。死んではいますが朽ちているわけではない。そこに在るものを作り替えるのは、少々過激な手段が必要なのです。先程のように。」
「なるほどね。ただ、さっきみたいに痛いのはなんとかならないかなぁ。あとケーキ俺にも頂戴?」
お好きな物をどうぞ~、と様々なケーキが皿に載せられて目の前にふわふわとんでくる。
いつの間にかテーブルと椅子まで現れたりしているが今更驚く事でもない。
それよりもケーキに目が釘付けである。こんなに美味しそうなケーキ初めて見た!
「痛みに関してはもうさほど気にすることはないかと思います。すでに重要な部分は作業を終えていますので。」
鼻ってそんなに重要なの?まぁ痛みに怯える必要がないのはよかった。
体の内側からゾリゾリと削られるような、手足が膨張して爆発するようなあの痛みはもう勘弁。
せっかくだから俺はこのチョコケーキを選ぶぜ!
む、このケーキ甘くて美味しいな。何個でも食べられそう。
「ふふ、経過は良好みたいですね。第二段階はもう少し先まで進めても大丈夫かもしれません。」
「早くできるんならそれに越したことはないし、アンジェに任せるよ。俺には何もできそうもないし。」
実際何もすることはない。ただ転生を待つばかりで作業はアンジェにしかできない。
「わかりました。現状三十段階までの計画でしたが、経過次第で十二段階まで圧縮できそうです。作業は並行して行います。何か異常がありましたら、小さな事でもいいので必ず知らせてくださいね。」
「わかった。よろしく!」
かなり段階を踏む必要があったんだな。短縮できそうでなにより。
四個目のケーキを頬ばりながらアンジェの作業を見る。
甘い物はそんなに食べられなかったんだけど、さすが神様っぽい人が食べる物は違うって事か。
もう一つ食べちゃおうかな。
「そういえば転生先の世界ってどうなったの?」
自分の体の事で頭がいっぱいだったけど、半日ぐらいで見つかるという話だったはずだ。
あれからかなり時間が経っているはず、気絶していた分もあるし。
「そちらに関してはすでにリンクを始めていますよ。体にも馴染ませなければなりませんし。」
どうやら心配しなくても良いみたいだ。元の世界になるべく近い条件で探していたはず。
だ、大丈夫だよね?
「そんなに心配なさらなくても大丈夫ですよ。人種の標準的な世界で、条件に合う世界を選びました。元の世界より文明は違う発展をしていますが、そう不便なことは無いと思いますよ。」
「おぉ、なんか至れり尽くせりで申し訳ないな。ちなみにその世界の事って聞いても?」
「はい。世界の名は我々の言葉で【アークリーヴァ】。星光霊機アークリーヴァによって創られし世界です。」
アークリーヴァ。それがこれから行く世界か。
「人種と霊種により統治され、世界が海空に浮かぶ浮遊世界。ハジメさんにはそこへ行っていただきます。」
浮遊世界!?また凄いとこきたな。そこで俺の新しい人生が始まるんだ。
今度はチェンジとかなしだぞ!
「名前などは追々。リンクさえすればすぐに行く必要はありません。世界にあわせて体と、付随するあれこれを準備してからゆっくり向かってください。」
「おぉ、ありがとうアンジェ。ちょっとだけ心配してたけど今度は大丈夫そうだ。なんか俺をおちょくって遊んでんのかと思ってたけど!」
「……当然のことです。」
その間はなんだ言ってみろ。
とにかく場は整った。あとは俺自身の準備だけ。
すぐ行かなければならないってわけじゃないししっかり準備させてもらおう。
「アンジェ、転生の第二段階を頼む。急がなくてもいいとはいえ、俺もやれることをやりたい。」
「わかりました。第二段階へ移行します。ウェクリプツァを更新。並行してゴルディールラインで計画を進めます。ハジメさん、目を閉じ呼吸を整えてください。今度は痛みはありませんよ。」
「わかった。よろしく。」
そして俺の意識は再び深い眠りに落ちる。
「ハジメさん、起きたらびっくりすると思いますよ。」
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