第4話 第一段階

 暗い。

 真っ暗だ。

 自分の手も、足も見えない。


 何も……ない。



 思い出した。俺は、転生するんだ。


 事故で死んで、アンジェと出会って、そして生まれ変わる。

よく覚えてないけど、直前にものっそい痛みがあったような気がする。

あれが転生に必要な痛みなら、もう二度と経験したくないな。


 俺はこれからどうなるんだろう。

女として生まれ変わり、女としての人生を生きることになる。

色々大変なんだろうな~、女の人は。いや、男だって大変なんだぞ色々。

 結局生きるのは男も女も大変なんだ、きっと。



 それにしても、いつ終わるんだこれ?

めっちゃロードの長いゲームみたいじゃん。

ロード中のミニゲームとか好きだったなぁ。


 ゲームといえばあのゲームまだ全クリしてなかったな。

RPGのラスボスの前に一旦戻るんだ、レベルを上げに。

そんで取り逃したアイテムとか集めながら全キャラカンスト目指すわけ。

で、満足したらラスボス瞬殺してめでたしめでたし。

まだレベル上げの途中だったからなぁ~。心残りといえば心残りかもしれない。



 まだかな?

ゲームでいえばキャラクリしてるところみたいな?

……見た目どうなるんだろ。

アンジェはとびきりの美少女にするとか言ってたけど、美少女を見るのと自分が美少女になるって全く別物だよね。

あぁ、不安だ。

好みの見た目になるならばエッチなお姉さんになりそうだけど、美少女とは違うか。

可愛い系はなぁ、彼女にするのは釣り合いがとれなさそう。付き合う訳じゃねーわ。俺がなるんだわ。


 よく考えたら男と付き合うことになりそう……?いや、必ず恋人ができる訳じゃないし。

別に男と付き合わなくちゃいけないと決まってないし?

美少女な俺と美女なお姉さんのカップル?……ありか?ありかも。


「ハジメさん。」


 デートはやっぱり無難に映画館とか?デートしたことないから想像だけど。

まず一緒に服を見る。


「お姉さま!これどうかな?」

「ふふ、チュパリスにはまだ早いかもね?」


 チュパリス出てくんな。


「もぅ~、お姉さまのいじわる!」

「怒った顔が可愛いからついいじわるしちゃった。ごめんね。」


 なーんてやりとりがあった後


「ほら、ほっぺにクリームついてるよ。」

「え、どこ?ついてないよ?」

「こっち。ふふ。」

「お、お姉さま、みんな見てるぅ。」


 ってスイーツを食べながらいちゃいちゃして、映画なんかも見ちゃってさ。

その後ディナーを食べた後


「食後のデザートにチュパリスをチュパリスしちゃうぞ♡」

「チュパリスから離れろや」


 いけないいけない。チュパリスに引っ張られてはいけない。

俺の妄想力は童貞力に比例して貧弱だが、それも鍛えていく所存。せっかくの転生だ。

自分のためにも、機会をくれたアンジェのためにも妄想力を育てていく。


「ハジメさん?」




 ……それにしても時間がかかる。時計はないけど。

あれからかなりの時間妄想に費やしていたはずだけど終わる気配がない。それだけ新しい体を作るのは大変なのかもしれない。

それが神であっても。


 アンジェは自分を女神ではないと言った。女神のようなものとも言った。


 世界にも管理している人がいるんだなぁという印象だ。管理人がいないと無法地帯になるもんね。

世界を管理して運営していく。

女神(仮)も大変だ。


 そんな凄い力を持っていても転生には色々制限がある。

俺が別の世界に行かなければならないのは制限のせいでもある。アンジェのやったことは特になんとも思っていないと念のため。

輪廻の輪によって世界の命は廻ってゆく。

ちなみに外れた命があっても特に不都合はないそうだ。とんでもない数が外れてしまえば別なんだろうけど。


 今回俺は新たな世界で生まれ変わる。つまりその世界の輪に組み込まれる。

元の世界とは違い、まだ世界が発展している途中だからこそできることなんだとか。

そう言われると元の世界はまだまだ発展しそうじゃない?って思うかもしれないが、文明の発展と世界の発展は同義じゃないらしい。そこはアンジェにしかわからないことなんだろう。

「ハジメさん!」



 声が聞こえる。


「ハジメさん、聞こえますか!?」


 あぁ、これはアンジェの声だ。つまり……。


「終わった、のか?」

「あぁ、よかった。心配しましたよ、ずぅっとぶつぶつ独り言を呟いてましたから。」


 ……ずっと?


「まだ完全には終わっていませんが第一段階は終了しました。続けて第二段階に移っていきたいところですが、体の具合はどうですか?」

「だ、大丈夫、かな。」

「ふふ、ハジメさんはあんなシチュエーションが好きなんですね?」

「コロシテ」

「もう死んじゃってますよ。」


 アンジェが口元に手を当てふふと笑う。

あの妄想の下りをすべて聞かれていたとか笑えないんですけど?

一人二役で声も変えてたんですけど?


「ふむ、体は問題なさそうですね。では休憩したら第二段階に進みましょう。安心してください。ハジメさん好みの子になりますよ~。」


 好みの子になりたい訳じゃないんだが?

 む、そういえば今どんな感じなんだろう。

途中経過って見られるもんなのかな?後のお楽しみかな。


「アンジェ、あの、鏡とか。」

「あぁ!そうですね!気になりますもんね!ちょっと待ってくださいね~。」


 そう言うやアンジェが手元の惑星みたいなものをくるると回す。

すると俺の前に半透明の鏡っぽいものが構成されていく。鏡が割れて壊れるところを逆再生しているようなそんな気分。

さて、どんな感じなのかなっと。


「……んん?」


 あれ?これ……おや?


「どうですか?」

「いや、どうって言われても……変わってなくない?」


 そう、変わっていない。体はそのままだし、顔も、いやちょっと雰囲気が違うような。

え?もしかして俺好みの女の子って、まんま俺ってこと!?そんなナルシストだと思って無かったんだけど!!


「そうですか?結構雰囲気違うと思いますよ~。かわいいじゃないですか、そのお鼻。」


 ……。


「鼻?」

「鼻です。」


「他は?」

「まだです。まずは鼻から!」

「風邪薬のCMかよ!!」


 まずは鼻だけ転生しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る