第3話 見た目から入るタイプ

 危ないところだった。

もう少しでエロチュパリスになるところだった。

いや、エロチュパリスをバカにしているわけじゃないんだけど、フィーリングが合わなかったというか今回はご縁がなかったというか。

気を取り直して次に行こうと思う。


「ヌルペッチョハンチョネルはお気に召しませんでしたか。確かに少し文明の発展が遅れていますし、チュパちゃんが慣れるまで大変かもしれませんね。」

「チュパちゃんて言うな。」


 自分の我が儘というのはわかっているんだけど、どうしても受け付けない。


「となると、ちょっとお待ちいただく必要があるかもしれませんね。」

「どのくらい?」


 女神のような人、アンジェに聞いてみる。はっきり言って俺には何もできない。アンジェに任せっきりなのはちょっと申し訳ない気持ちもある。


「そうですねぇ、半日はいただくかもしれません。向こうの状況を確認しながらなので。」


 アンジェが半透明のディスプレイのようなものを見ながら答える。コンピューターで管理しているのだろうか?

今俺たちは先程とは別の場所にいる。

大きなドーム状の広場というか、神殿ぽい広場というか、そんな場所だ。

 

 広場の中央はポッカリ穴があいており、その中にアンジェが浮いている。

見た目でいうならば、ショッピングモールの催事場を二階から見ている感じ。

アンジェの身長は10メートルほどあるので、上半身しか今は見えていない。


 せかせかとキューブ状の何かや、くるくる回る惑星の模型のような物を操作しながら作業を続けるアンジェ。


 とにかくこっちはお願いしている立場だ。ヌルペッチョみたいなちょっと特殊な感じさえなければ何でもいい。普通が一番なのだ!


「そう言えば、俺ってやっぱり転生したら女の子になっちゃうの?」


 色々あって確認するのを忘れていた事を聞く。

女の子になっちゃうのに少し抵抗があるのは、今俺が男だからなんだと思う。


「そうですね。それだけは変更することができません。命が輪廻の輪を廻る時、その時その時の魂の数が影響します。なので男の人は男の人に必ず生まれ変わるわけではないのです。」

「なんとなくわかるかな。」

「なんとなくで大丈夫です。」


 アンジェがそういって微笑む。


「まぁ、そうなるしかないっていうなら受け入れるしかないよな。普通はそんな簡単に生まれ変わったりできないんだろうし。」

「えぇ、今回は本当にたまたま偶然こうなってしまっただけなのです。私もこういうことは実は初めての事でして。」


 なにやら最初の方を強調していた気がしないでもないけど、あえて無視する。

アンジェは言っていた。『私は嘘をつけません』と。

それが嘘であったならもうどうしようもないし、本当ならそういうことなんだろう。

何か思惑があるとしてもその時はその時だ。


「不安ですか?」


 顔にでていたらしい。不安じゃないと言えば嘘だ。

正直言えば全部無かったことにしたい、でもそんなことはできっこない。


「少し。」


 正直にアンジェに告げる。


「でしたら、形から入ってみましょうか!」





 心がくじけそうだ。


 アンジェの形から入るというのは良い提案だったと思う。

何事も形からというのは大事だ。

それが女の子として転生するための準備だったら尚更だ。

 ただ俺はこう考えていた。


 見た目を変えてから転生先に送ってくれるんだろうなぁ、って。


 先に女の子の体になって慣らしてから向こうへ。なるほど形から入るのは大事だ。

訳も分からない中で行くより安全安心、さすがアンジェだ!って言いたかった。



 今俺は女性用のランジェリーを身にまとって佇んでいる。男のままで。



 わかるかこの気持ち?わからないでしょうねぇっ!!

なんでそういう趣味でもないのにこんなスッケスケの下着をつけなきゃいけないんですかねぇ!?

パンツなんかTバックですよ!?前なんか完全にドゥルルってはみ出てますし!!

 形から入った変態が女の子の何がわかるっていうのよ!!


「はみ、んふふ、はみ出、てるっんふふふ。」

「何がおかしい。」

「おかしゅ、おかしゅく、んひひ、おかしくないでしゅえっふ。」


 なによっ!!



「さて、形から入ってみましょうか!!」


 アンジェは無かったことにした。


「さっきまでのは水に流してやるとして、形からとは?」


 最初に聞いておけば先ほどの惨劇はなかった。確認は大事。


「形からとはズバリ!この場で新しい肉体に転生してしまおうという事です。」


 さっきそれをやってくれてたらなぁ、俺も余計な心の傷を作らなかったのに。

新しい体というのは問題ないけど、聞きたいことがある。


「この場で転生しちゃっても大丈夫なの?世界によって、こう、特殊な器官が必要だったりしない?」

「そこはお任せください。ハジメさんは人種の標準的な世界をご希望の様子。ですのでそこに合わせた体をご用意します。すでに転生先の世界も条件を限定して探していますよ。」


 元の世界に近い世界を探してくれているってことか。さっきはできなかったさすがアンジェをいまここで!

となるとこの体とはここでお別れってことか……。


 思えば長いような短いような、色々世話になったな。

愛棒は使ってやれなかったけど達者でな!

 童貞のまま死ぬなんてって、うるさいぞヤマダこの強盗野郎。童貞がなんだ!俺は今日から女の子だ!

 愛棒に心の中で別れを告げ、いつもの深呼吸。


「アンジェ、頼む。」

「わかりました。では目を閉じてリラックスしてください。」


 言われたとおり目を閉じる。目を開けたら生まれ変わっているだろう。

新しい人生がここから始まるんだ。


「かなり痛いので気をしっかり持ってくださいね!いきますよー!」

「え?ちょちょちょ、待っああぁぁぁぁああああっっっっ!!!!!」


 その時、俺という存在は本当の意味で死んだんだと思う。

 ものすっごい痛みと引き換えに。

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