第16話

「煙幕は使わないで、ソフィア。

 嫌な予感がするの。

 ソフィアとカルラはこれを使って」


 私は魔法袋から魔法書を取り出して渡しました。

 二人が驚愕しています。

 装飾に使われている魔晶石の魔力が尽きるまで、何度でも魔術を発動できる優れものですから、簡単に他人に渡すようなモノではありません。

 ですが彼女たちは歴戦の冒険者です。

 驚いてもやることを忘れたりはしません。


 二人は魔法書を使って次々と初級下の魔術矢を放ちます。

 威力は小さいですが、物理防御の鎧や盾を貫通します。

 魔法防御の能力があったり、魔法防御の魔道具を持っていなければ、絶対に防げない攻撃なのです。

 

 ディエゴ配下の騎士や従士が次々と斃れます。

 それでなくても予想外の大爆発に驚いているのです。

 そこに目に見えない連続の魔術矢が降り注ぐのです。

 焦りで訓練通りの働きなど不可能です。

 圧倒的な人数差で、ダニエラとヴァレリアを負傷させる事はできましたが、私が直ぐに癒すのでどうにもなりません。

 最終的には全員が斃れ、息のある者を厳重に捕縛しました。


「今回の件は不幸な事だったな。

 このバカがエルフィンストン王国の騎士隊長を名乗っているから、一応取り調べなければならん。

 もし本当にこのバカがエルフィンストン王家の騎士隊長なら、国際問題になるくらいの重大事件だ。

 だから本来ならお前たちの戦利品になるはずの武器や道具も、今回は接収させてもらうからな」


「それは構いませんが、万が一国に同士の力関係で、このバカ者たちを解放するようなことがあるなら、事前に教えてくれませんかね?

 安心している時に不意を突かれたら、今度は死ぬかもしれませんからね」


 私の代わりに世慣れたダニエラが交渉しています。

 騎士に何か握らせています。

 はっきり言って裏金ですね。

 私はそういう真似が苦手なのですが、ダニエラは平気なようです。

 冒険者として生きていくには、必要な事なのでしょう。

 私も慣れなければいけません。


「ああ、任せておけ。

 上の話はどうなるか分からないが、王都の治安を任されている俺たちにとっては、こいつらのやったことは絶対に許せん。

 上の話し合いで開放しなければいけない事になったら、俺たちの面子は丸潰れだ。

 解放後に殺されたら清々するからな」


 サンテレグルラルズ王国の王都警備隊騎士は、話が分かる人のようです。

 そうでなければ、冒険者で繁栄する王都の治安維持など不可能なのでしょう。

 ですが問題はディエゴです。

 増悪の籠った瞳で警備隊騎士とダニエラを睨みつけています。

 目標が私から移ったのは安心できますが、二人になにもなければいいのですが。

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