第13話聖女マルティナ視点

 腹立たしいです!

 全く上手くいきません!

 誰一人最後まで誘惑できないのです。

 ルシアを悪役にしたてあげる事で、私は目的を達成できるのです。

 そのルシアがいなければ、私の魅力も完全には発揮されないのです。


 ルシアが逃げ出した当初は楽観していました。

 私の魅力なら、引き立て役がいなくても、男たちを籠絡できると。

 ですが不可能でした。

 教会から聖女認定を受けていても、女としてこの国一番の美貌を誇っていても、何の奇跡も起こせない私は、実家の家格が問題となるのです。


 私の生まれたセンピル家は男爵でしかないのです。

 男爵家の人間が結婚できるのは、同じ男爵家と子爵家までです。

 お金目的で士族や平民と結婚する娘もいますが、私は絶対に嫌です。

 それに私の目的を達成するには、この国を動かせるくらいの人間と結婚する必要があるのです。


 そこで考えました。

 ルシアがいないのなら、ルシアの代わりになる女を作ればいいと。

 サンディランズ公爵令嬢ルシアの代わりを見つけるのは難しかったのです。

 国王が内々で婚約者と決めていたほどの女です。

 婚約者にしようと下工作していたルシアが悪行を働き、この国の次代を担う王太子や若手が私に夢中になったからこそ、王国の執行部は舵取りを間違えたのです。


 そのことを知っていたからこそ、私は安心して王太子や有力貴族の御曹司を誘惑することができたのです。

 同じことを他の令嬢にやった場合、王国の執行部が同じように失敗してくれるという確証はないのです。


 ですが目的達成のためにはやるしかありません。

 できるだけ大人しそうな令嬢に狙いを定めて、冤罪をでっちあげて、王太子に助けを求めました。

 最初は上手くいっていました。

 その令嬢も上位貴族の威光を笠に、私を押さえつけようとしました。

 そして私が泣きついた王太子の怒りを買いました。

 

 王太子を恐れた令嬢は、今度は私から逃げようとしました。

 だけど逃がしません。

 追いかけて追いかけて、私に暴力をふるったと、冤罪をなすりつけました。

 王太子は私に同情し、令嬢を忌み嫌い、処罰する一歩手前まで追い詰めました。


 ですがここからがルシアとは違ったのです!

 令嬢は国王に訴えたのです。

 私だけでなく、王太子の素行まで訴えたのです!

 今、私と王太子は見張られています。

 過去の行動も調べられています。


 令嬢が父親に相談して国王に直訴するなど考えもしませんでした。

 ルシアは最初から最後まで自分で何とかしようとしていたのです。

 このままでは私は破滅です。

 起死回生の策は、ルシアを連れ戻すか殺すかです。

 ルシアを殺してしまえば、運命は私の方に動くはずです。

 私の魅力自体が衰えたわけではありません。

 私の虜になっている者を動かして、連れ戻すのが一番安全で確実です。


「ディエゴ様、ディエゴ様を騎士と見込んでお願いがあるのです」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る