第6話

「いいねぇ、これなら護衛をつけなくても大丈夫だね」


「ありがとうございます」


 私の薙刀を受けてくださっていたイライアス様が、ほめてくださいます。

 まあ、全力で討ちこんでも、余裕で受けられてしまいますので、まったく相手になっていないのですが、後衛職ならこれでも十分なのでしょう。

 サンディランズ公爵家の女性は、護身術に薙刀を学ぶのが常識です。

 いえ、貴族士族家の女性は、王宮に女官として出仕を命じられた時に備えて、薙刀術を学ぶのが嗜みなのです。

 もっとも公爵令嬢の私が女官になる可能性は低いのですが、身体を動かすのが好きだったので、分家や家臣の女の子と一緒に楽しく学んだのです。


「次は私が相手させていただくよ。

 剣を持っているね。

 それがどれくらい使えるか見せてください」


 ウィリアム様が他の武器も使えるか確認しようとします。

 本当に慎重な方です。

 弓術と投擲術、薙刀が使えたら十分だとは考えられないのでしょう。

 以前の私なら、慎重すぎると苛立ちを感じたのかもしれません。

 今の私には、ありとあらゆる危険な状況を予測し、それに備えようとされるウィリアム様の気持ちがわかります。


「はい、確認お願いします」


 私は今の自分が発揮できる全力で突きました。

 対人戦はこれが一番効果的だと師匠に教わっていたのです。

 他の技は教わっていません。

 ただひたすら突けと教わりました。


 公爵令嬢の私には、学ばなければいけない事が山ほどありました。

 ひとつの道を究める事は許されません。

 剣は、最後の武器として学んだのです。

 侯爵家令嬢の誇りを守るために、自決を前提に手にする武器です。

 薙刀を手にできなかったり失った時点で、もう後がない状況なのです。


「凄いね!

 これは十分使える技だよ」


「ですがこれだけです。

 他の技は学んでいません」


「……なるほど、そういう事か。

 分かったよ。

 基本投擲で後方支援してもらおう」


 口にしなくても、ウィリアム様は全てを察してくださいました。

 その上で、合格判定をくださいました。

 冒険者パーティーには色々あると聞いていましたが、この冒険者パーティーは、ウィリアム様とイライアス様が率いておられるようです。

 他のメンパーは何の意見も口にしません。

 これが同格メンバーの集まったパーティーなら、喧々諤々と意見が戦わされるのでしょう。


「だったら早速ダンジョンに潜ろう。

 早いうちにポーラ嬢の治癒術を確認しておかないと、どのくらいの依頼や狩りを選べばいいか決められない」


 イライアス様は積極的です。

 驚くくらい、なんでも決めるのが早いです。

 貴族社会では考えられないことです。

 家を出てひとりで生きていくのなら、早くなれないといけません!


 

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