顔面偏差値38の面食い

のっぽ

第1話

「あなたのことが好きです。 俺と、付き合って下さい...!」


夕日が差し込む静かな校舎の一室、俺のうるさい声が部屋一杯に響いた後には校庭で掛け声を上げる野球部達の声が薄っすらと聞こえてくる。

呼び出しのラインを送るだけでも指どころか身体が小刻みに震えていた俺が、面と向かって思いを告げることが出来ている。

勿論、余裕なんて欠片も無い。

手が震えるなんて当たり前だし、心音が大きくなり、加速していく感覚は酷く動揺を誘う。呼吸の音さえも気持ち悪く思われないか不安になってくる。

正直に言ってしまえばメッセージだけで済ませてしまいたかった。

だが、今ここに居るということは呼び出しのメッセージの内容を考えていた時の俺の思いつく最善手がこれだったということなのだろう。

そもそも、俺は何故今になってこんなにもグダグダと後悔しているのだろうか...

理由はこの空気、それしかない。

なんだこのひたすらに無言の続く空間は?

さっきから俺の思い人は一言も声を発してくれない。

やはりほとんど面識の無いクラスメイトからの急な告白は恐怖体験以外の何物でもなかったということだったのだろうか...

思い人から目を離せない。

この空間に音が生まれたのはどれ程経ってからだろうか。

既にバグってしまった俺の体内時計では軽く数時間経っているのだが、実際にはそんなことになっていないに決まってる。


「ありがとう」


思い人から俺の言葉への返答の初めの言葉は感謝の言葉だった。

だが、その柔らかな声質からは想像もできないほどに冷たい表情をしている事からこれから肯定的な言葉を投げかけてくる可能性はほとんど無いだろう。

笑う時には滅茶苦茶に可愛い笑顔を浮かべることを俺は知っている。

伊達や酔狂で好きだなんて言った訳じゃないのだ。

気付いたら目で追ってしまうし、意識的に眺めている事も少なくなかった。

うん、気持ち悪いな俺。

少しの間を開けて言葉は続けられた。


「ごめんなさい」


予想的中だ。

最初から分かっていたことだが、それでもクるものがある。

涙腺なんて今にも決壊しそうだし、鼻は既にグズってきてる。

でも男が女の子の前で泣くなんて糞みたいに格好悪いことは絶対にしたくない。

好きな子の前なら尚更だ。

振られたなら振られたでカッコつけたい。

そんな大して価値もないようなプライドが気を保たせていると考えると今はとても心強い。


「そっか... 少しでも考えて貰えて、すごく、嬉しいです。

 時間取らせてごめん、ありがとうございました。」


思い人は俺の横をすり抜けて教室を出て行った。

扉が開閉した音を皮切りに、またこの空間を静寂が包む。

そこで我慢は限界に達してしまった。

視界はぼやけるし、鼻はすすらなきゃ垂れてきてしまいそうだ。

そのくせ顔は何故だか笑えてきてしまう。

いっそ清々しい程の振られっぷりで、言葉もない。

にじんでくる涙をワイシャツの袖で湧いたそばから拭いさっていく。

ひたすらそんな行為をしていたらどうなるかなんて分かってはいるが涙が止まってくれないのだから手だって止めることはできない。

しょうがない、しょうがないのだ。

ようやく涙が枯れてきたころ、下校を知らせるチャイムが学校全体に響き始めていた。

すぐに帰りたいのは山々だが、一応の確認として俺はトイレの洗面台の前に陣取った。そう、きっと大変な事になっているだろうお顔の確認である。


「これは酷い」


思わず癖の独り言が出てしまう程度には酷い顔だ。

目の周りは擦りまくったせいで赤くなってるし、顔が全体的にむくんでしまっている。

一応友人待たせてしまっているので急がなければいけないのだが、正直この顔を見せたくない。

当たり前の事だろうが、俺は他人に弱みを見せるのが大嫌いだ。

だってカッコ悪いし?あとすっごい恥ずかしくなるし?

ま、そんなどうでもいい理由でも嫌なものは嫌なわけなんですよ。

そんな板挟みの状態で瞬間的に思いついたのは特に名案でもなんでもなく、非常に悔し紛れの策だった。


「お待たせしましたっ!!!」


自分のクラスの2-C教室の扉は開けっ放しだったので意気揚々と、深夜テンションもかくやというほどのハイテンションで入室してやった。


「おつかれー」


黒板にでかでかと国民的家庭用ゲームのキャラクターを描いているのが待たせていた友人の金城裕翔きんじょうゆうと

この学校に入って少し経ってから仲良くなった奴で、大体のことをそつなくこなすハイスペックっぷりなのだ。俺が女の子だったらほぼ間違いなく惚れて告って振られてることだろう。悲しいなぁ...


「で、結果はどうでしたか?」


なんて良い笑顔で俺のガラスのハートを抉ってきやがるんだこいつ...!

完全に分かってるくせに聞いてきやがったぞ。

前言撤回、やっぱり糞野郎です。


「分かりきってることを聞かれるのは嫌いなので黙秘権を行使します。」

「お?やっぱり振られたか、ご愁傷様です。」

「うるさいよ?黙りな?」


ていうかですね、元々こいつには何も相談せずにただ一緒に帰る約束してただけなんですよ?何故告白してきたのを知ってる?

完璧に流れで答えてたけどよくよく考えれば意味分らんよな?

ま、まさか!?


「どうして、告白してたかなんて知ってるんでぃすか?」


返答によっては俺が必死になって考えた名(迷)案、その名も

「一部だけ赤くて恥ずかしいなら顔を洗って全体的に赤くすればいいじゃない(マリーアントワネット風)」

が無意味になってしまうではないか!

さあ、返答は如何に!?


「鞄取りに来た中島さんに來斗らいとがどこにいるか聞いて、部屋の前で待ってても鼻をすする音が一向に止まらなかったから、まあ、そういう流れだったのかなーと」


わーお

完全に全てがバレてましたね。

ちなみに金城の話に出てきた中島さんこそ俺の思い人です。

ハッずいなおい!!!!!


「その話は帰り道でするとして、とりあえず帰ろ?さすがに下校時間まで時間が無さすぎる。」


金城が言った通り、下校時間まであと5分を切っていた。




朱色に染まった太陽が下校していく生徒たちを照らしていく。

もう少しで夏本番に入りそうな今日という日にピッタリな暑くなる一歩手前の煩わしい感じの気候だ。

さっき顔を思いっきり洗ったからだろう、多少汗ばんでいる腋に比べて凄いサッパリしている。

さっきの作戦も無駄ではなかったということか、無駄でも一向に困らなかったけど意味があったんならラッキーでしたね。


「で、どーゆー経緯で告白することになったん?」


いきなりぶっこんでくるね、こいつ。

もうちょっと話題を出して盛り上がってから聞くでしょ。



「顔が良いなってなり、何かがあって惚れて、最終的に気持ちの整理がつかなくなってやってしまった。」

「時限爆弾かな?」

「すごいしっくりくる例え来たな。」


普通に考えてフラストレーション溜まったら認識されてない奴に告白して恐怖体験させるって生きる災厄じゃん。すまない中島さん、本当に、申し訳、ない。


「ていうか、やっぱり顔なの?」

「そらそうでしょうよ、他に何を見ると?」

「そりゃ、性格とか?」

「性格なんてよほどの屑でもない限りはどうにかなるでしょ。」

「お前絶対女で失敗するわ。俺今未来予知で見た後ぐらいの確信を持ってるよ。」

「いやいやいやいや...何をおっしゃりますか?よく考えてみて下さいよ。性格は内面でしょ?」

「そうだね。」

「外見はね、一番外側にある内面なんやで?」


ドヤァ...!

どうだ、このどっかの漫画に描いてあった完璧な理論。


「確かにそうだけどお前が言うと完璧に屁理屈だから二度というなよ?」

「ハイっす、すいませんした。」


はい。怒られましたねごめんなさい。


「でもさ、基本的に俺は人見知り奥手野郎の俺は女子と話せないんだぞ?外見以外のどこを見ろと言うのかね。」

「分かってるなら改善しなさいな」


無理難題を言ってきやがりますよ、こいつ。

俺だって好きでこんな人間になったわけではないのだ。

今思えば中学の最初にラノベにハマってしまったことが失敗だったのだろう。

小学生ならいざ知らず、中学生ともなれば色気づいて恋愛をしたり、楽しく会話なんかもできるはずなんだよ。

でも!俺は完璧にやらかしていた。

朝学校に着けばラノベ。授業中にラノベ。昼食ったらラノベ。家帰ったらラノベ。

社会不適合者の所業だ。

何やってんですかね?


「逆に聞くんだけどどうすれば良いと思う?」

「そりゃ、話しやすい雰囲気を作ったり、話題を定期的に出せたり、後は...」

「OK分かったつまり纏めるとコミュ力が高ければ良いんだな?」

「そうだね、端的に言うとお前の逆だ。」


辛辣、だが!的を射ている!

振られた理由が判明しましたねくぉれは。

原因:俺

明々白々一目瞭然単純明快焼肉定食


「さいですか。まあ、分かりきってた事だから良いんだけどさ?いや、嘘、良くないわ。糞が!」

「忙しいやつよのう...」


若干呆れ気味で鼻で笑ってくんなや。

既にかなりの時間を話しているのだがそろそろお別れの時間のようだ。


「じゃ、俺はここだから。また明日。」

「あいあい、またね。」


金城はいつも通りの道でいつも通りに別れて歩いて行く。

いやーそれにしてもきついなぁ...

なんやかんやで数カ月恋かもしれない感情を抱いていた女の子に振られたのは心が折れますよ。

まあでも、男友達と下らない事で駄弁るのもかなり楽しいんよなぁ...

どうせ当分は新たに人を好きになる事はないだろうし、明日から動揺を出来るだけ

中島さんに気取られないように頑張らねば。

寝たふり安定かな...

そんなしょうもない事を考えながら俺は帰路についた。


























                                                                                                








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