夜
幾人だろうか。今日だけでも三人と相手をした。考えても仕方のないことだが自分の
「かえで君、精算お願いします。」
事務員に声をかけられ、はっと我に返る。時計の針が頂点で重なり合い、日付が変わったことを知らせる。僕の働くこのお店の営業時間もこの時間までで営業終了後に先程渡したお金のうちからお店の分を差し引いた額が僕たちキャストに支払われる。おおよそコース料金の半分ほどだがそれでも一日の稼ぎとしては普通の人よりも多いだろう。
全員分の精算が終わった後、僕たちはいつものように近くの居酒屋へと向かった。営業終了後はここでみんなでお酒を飲んで一日の疲れを取る。そして明日はまた同じ仕事をする。これの繰り返しだ。僕がこのお店に入って三ヶ月経つが何も変わらない。これが日常なのだから。居酒屋へ着くといつもの席へ座る。人数分の灰皿が用意されドリンクの注文をする。体型維持のためカクテルは飲めず、好きでもないハイボールで無理やり酔う。店内のセンスが古いBGMとタバコの煙、アルコールのおかげでだんだんと気持ち良くなってくる。皆盛り上がり楽しそうにしている中、僕はふぅと煙を吐き出しハイボールを流し込むだけだった。不意に隣に座っていた先輩に小突かれる。
「かえで君はどうして業界に入ったの?」
まさかそんな質問をされるとは思っていなかったので少したじろいでしまったがすぐに返事をする。
「お金が必要だったからです。」
「そっか、皆そうだよ。」
そう言うと先輩は自分のジョッキを眺め、ぐいっと一気に中身を飲み干す。少しの沈黙はあったがそれ以上は何も聞かれなかった。この業界は様々な背景の人が集まる。詮索する必要がない以上、深くは聞かない方が良い。そんなこと誰もがわかり切っている。だからこうして濁されると誰もそれ以上は何も聞かなくなる。僕もその事は理解している。その上でこれは深く掘り下げないで欲しい問題であるからあえてそのような態度をとったのだ。
時刻は午前二時ごろ、皆すっかり酔ってしまって満足すると店をあとにする。先程の雑居ビルの七階へと向かうと事務室に布団を敷きそれぞれが横になり始める。人が多いところで寝るのはなかなか慣れない。寝付けないままじっと天井を眺め続ける。あたりから寝息が聞こえ始めてもまだ寝付けない。僕の夜はこれからなのだ。取り留めのない妄想に取り憑かれて息苦しくなる。胸を締め付けられる。叫び出したくなる。逃げ出したくなる。いっそ…
一日が終わる。日々は終わらない。
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