色欲
@wanichi
日常
終わりの見えない日々、鬱。向けられる好奇、色欲、暴力。昼間なのにカーテンを締め切り換気のできていない埃っぽい六畳の小部屋。照明をつけず暗闇の中いつものように寝転がる。手際よく服を脱がされると唇を重ねられた。荒い息と唾液が口の中に広がる。頭の中が真っ白になる。この感覚だけでよかった。日々の終わらない鬱を少しでも紛らわすことのできる非日常感。
気がつくと事は終わっていた。今度は一層手際よく服を着ると僕の方へと向き直りもう一度唇を重ねる。僕はそれに応える。自身の服を着終える頃、相手は財布を取り出しそこから数枚の紙幣を抜き取ると僕へ渡した。一万二千円。これが一時間の僕の価値。僕は財布へそれを仕舞うと相手の方へ向き直り告げる。
「今日はありがとうござました。よければまた指名してくださいね。」
ボロアパートに背を向け最寄りの駅へと向かい切符を買うとすぐ来た列車に乗り込んだ。三つほど離れた駅で降りると雑居ビル群の中にある一棟へと入る。エレベーターに乗り込み七階を押すと古びたエレベーターはやけに姦しく唸りたて上昇を始める。エレベーターを降りてすぐの右側にある扉を開けるとそこにはいつも通り見慣れた景色があった。
「かえで君、お帰りなさい。」
事務員に声をかけられそちらへと赴くと先程のお金を取り出し渡す。事務員はそれを受け取ると慣れた手つきで数え、確かな金額であることを告げるとPCの方へ向き直る。僕は部屋の端の方へ座り込むとスマホを取り出し時間を潰す。次々と僕に似た風貌の人達が部屋に入ってくると僕がしたように事務員にお金を渡し金額の確認を終えて部屋のどこかしらに座り込む。人が増え居心地が悪くなると僕はベランダへと飛び出しタバコに火をつける。これもまたいつも通りのことだ。そうしているうちに事務員が窓を叩くと次のお客さんが来たことを僕に伝えた。急いで火を消しブレスケアを乱暴に噛み飲み込む。今度はどこへ行くのだろうか。手短に支度を済ませるとエレベーターに乗り込み一階を押す。扉が開くとそこには中肉中背の中年がいた。
「かえでです。よろしくお願いします。」
僕の日常は変わらない。終わらない。
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