第5話 祖父の思い出

 今日は我が祖父について語ろうか。

 祖父が亡くなってから何年経つのだろう?

 今娘が13歳、確か彼女が保育園に通っていた気がするので、七、八年前かな?


 祖父の家があるのは関東の有名な観光地がある県だ。サザンがよく歌っているあそこの付近かな?


 祖父から直接可愛がられた記憶はあまり無い。

 嫌いではなかったが、好きでもない。

 肉親の一人だなといった印象だ。

 

 夏休み、正月に祖父の家に行くのだが、あまり楽しめなかった。

 子供が遊ぶオモチャなどはなく、外に遊びに行こうにも寺しかなく、子供の足では海も遠い。


 早く家に帰りたいな。

 そう思いつつ、祖父との時間を過ごしていた。


 だが一つだけ楽しみなことがあった。

 祖父の家には本部屋があったのだ。

 詳しい数は分からないが、千冊を超えるであろう本がそこにあった。


 なんでそんな数の本が?

 祖父は東京まで電車で通勤していた。

 この中で毎日のように一冊の本を買って電車の中で読んでいたそうな。

 それが積もり積もって千冊……

 おばあちゃんが切れる理由も分かる。


 どうせやることなんかないしな。

 仕方ないので俺は本を読み漁った。

 赤川次郎、宮部みゆき、藤原正彦、司馬遼太郎、辺見庸。


 その中でこれは面白い!という本に出会えたのだ。

 椎名誠。

 日本を代表するバカ旅作家だ。

 俺は怪しい探検隊の一員として日本各地を飛び回る。

 

 子供ながらに隊員と飲むビールを楽しみ、焚き火を囲んでガソリンを口に含み、火を吐いたりした。


 そういえば祖父は怪しい探検隊シリーズは全部持っていたな。

 どうせもう読まないだろ。

 俺は祖父の部屋から本を拝借することにした。

 

 それは成人を迎えてからも続いた。

 次第に祖父の家に遊びに行くのが楽しみになり、今度はどんな本を盗んでやろうかとワクワクしていた。

 祖父との関係も変わっていった。

 人として尊敬出来るようになっていく。

 色んな話をしたなぁ。


 就職して一年が過ぎたところだろうか。

 俺は仕事を終え、二連休を貰った。

 しばらく祖父に会ってないな。

 

 俺はそのまま電車に乗り、祖父に会いにいった。

 彼は元気だった。

 体はね。

 でも俺のことは曖昧にしか覚えておらず、同じことを何回も言っていた。


 認めるのが怖かった。

 俺は適当に挨拶を済ませ、早々に祖父と別れる。

 その数年後……


 天国のじいちゃん。

 俺が本を好きなのは貴方に似たんですね。

 俺が死んだら、貴方に俺の小説を読んでもらおうかな。

 下らない物語だけど、我慢して読んでくれよな。

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