第6話 スキル《プレイヤの加護》
遥人は送迎を申し出てくれた兵士の操る馬車に乗り、東軍一五〇〇人が待ち構える陣へと到着する。
数は減ったが、その代わりに直接皇帝の指揮の下で戦えるとあって、兵達の熱狂は先程よりも膨れあがっていた。
「へ、へ、へ、陛下と戦場を供にできるなど、これで死んでも後悔はありませんっ!」
などという大げさな感激をしているのは、四〇歳は超えているだろうと思われる筋骨隆々の戦士だ。
最低でも隊長クラスの人物だろう。
他にも、ちゃんと息をしているのかと心配になるほど顔を真っ赤にして興奮している兵士達も多く見られた。
というか、鼻血を垂らしている者までいる。
遥人はしょせん戦争に関しては素人でしかない。どう背伸びをしたところで無様な敗北は避けられないだろう。
負けたところで命までは取られないだろうが、熱烈に出迎えてくれる兵士達には申し訳ない気持ちになってくる。
(俺に、軍隊の指揮なんて……)
やっぱり現実とゲームとは違うよな、と諦めを抱きかけたその瞬間、遥人は視界の端に奇妙な模様が浮かんでいることに気づいた。
(なんだこれ……?)
痛みはないが、目にゴミが入ったのかと思う程度には視界の中で異物感がある。そこに意識を集中すると、驚くべき変化が生じた。
(おわっ!?)
最初、遥人は自分が鳥になったかのではないかと思った。
目の前の景色が一変して、草原全体を見渡すような高い位置から自分達がいる場所を見下ろしていたからだ。
――スキル《プレイヤの加護》が発動し、戦場視界へと変化しました。
右下に、「文字」が浮かび上がる。
しかも日本語だ。
(ナニコレ……?)
わけがわからず、あちらこちらに視線を走らせると遥か下方に一センチ程度の大きさになった自分達が立っているのが見えた。
自分自身を頭の上から見ている形のようだ。
視界の端には白い枠のウインドウがいくつか表示されている。よくゲームで見かける、情報や選択肢が表示されるあのウインドウだ。
「陛下!? どうかされましたでしょうか?」
フリーズしたかのように黙り込んだ遥人の様子を不審に思って、先程の兵士が恐る恐る話しかけてくる。
「いや、大丈夫だ」
「そ、そうでしたか。失礼いたしました」
考え事の邪魔をしたとでも思ったのか、兵士は青くなって引き下がる。
遥人の視界は上空からの俯瞰視点のままだ。
なのにどうして兵士の顔色までわかったかというと、視界の下方に白枠で囲まれたウインドウが新たに表示され、そこに発言者の顔と、発言内容が文字に起こされたものが表示されたからだ。
(これ、ゲームそのままだな……)
プレイ中にイベントが発生するとこうした画面が表示されていた。
どういう仕組みかはわからないが、遥人がプレイしていた『フェーゲフォイア・クロニーケン』のシステム部分が再現されているようだった。
見れば他の情報ウインドウには戦闘直前の準備画面と同じ文言が並んでいる。
「編成」「武器」「道具」といった項目が並んでおり、試しに武器の項目に意識を集中すると幾人かの人間の名前が表示され、さらに進むとその人物が持っているのだろう武器の名前が表示される。編成の項目を見ると、どこに誰を配備するかが表示された。
驚いたのは、編成の項目で適当に配置を動かすと、眼下で展開している東軍の配置もそれに従って変更されるようなのだ。
ウインドウを消そうと意識すると一瞬で綺麗さっぱりなくなり、地上の遥人自身の目から見た視界に戻ってくる。
スキル発動のキーとなったマークが右下に残っていたので、これを明確に「押す」と意識すると再び上空からの視界に切り替わった。
周辺の兵士達の様子を窺うが、どうやら誰もウインドウの存在には気付いていない――というより、遥人にしか見えていないもののようだ。
(スキル? ……ゲームと同じように動かせるとか、そういう感じなのか?)
色々試していく内、さっきまでの暗澹としていた気持ちが嘘のようになり、もっと言うとちょっと面白くなってきていた。
(ほほぉ、西軍の位置まで丸見えか……)
上空からの視界は、ゲームと同じように遥人の直上から好きに動かせるようで西軍が待機している森の上空まで移動すると彼らの様子が丸見えになった。
意識すると、敵部隊の詳しい情報も覗き見ることができるようだ。HP、力、魔力、技、素速さ、守備、魔法守備、などおなじみの項目が並んでいる。
今回の模擬戦における戦力は、互いに一五〇〇ずつ。さすがにその一人一人の詳細な情報を見ることまではできないようだ。
見ているのは一〇〇人程度が一つの塊となった部隊の情報で、表示される名前は代表となっている隊長のものらしい。ならパラメータは、全員の能力が平均化された数値だろうか。
一〇〇人の部隊(多少の誤差はあるだろうが)がお互いに一五ずつなので、感覚的には一つの部隊がゲームのユニット一つ分、といった感じだ。
(これ、面白――)
ただただ、ゲーマーとしての好奇心が疼く。
(でも、これだったらゲームの感覚がそのまま通用するんじゃないか)
この時点で遥人は、負けたところで死ぬわけではないのだから、どうせなら楽しんでやろうという気になってきていた。
惨敗すれば皇帝の尊厳が傷がつくことを心配していたが、いい加減面倒になってきたというか、どうなってもオストヴァルトあたりに丸投げしてしまえばいい気になってきた。
(色々好き放題言ってくれやがって。こうなったらゲーマー魂を見せてやろうじゃん!)
こうして、遥人の初陣がはじまった。
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