第24話 6日目B:小中学生だった頃の話
「失敗作……?」
ボクは尋ねた。
しかし彼女はボクの言葉を無視しては、静かに“過去”を語り出す。
「私の生まれは“四月”であった。 前にも言った話だけれども、新年度の頭に当たる“四月生まれ”の人間は、色んなアドバンテージを持っている。 小学生だった頃の私は“四月生まれ”という事を利用して“卑劣な行為”を行っていた。 けれどもそれは基本的には“許されて”いた。 “子供だからそういうものだ”、“ワガママなのも仕方が無い”と教師に思われているように感じていた。 いや、“行き過ぎた行為”があった場合、先生達は“親御さん達から多くの子供を預かっている立場”故、私を叱り(しかり)もしたけれど……。 けれども“それ”は私にとっても“同じ事”が言えていた。 なので私は“子供である”、“守られる立場にある”事を利用して、教師に対して“色々”と試してみせてくれていた……」
彼女は「はあっ」と溜め息を吐いた(ついた)。 昔の自分にウンザリをした溜め息だ。
彼女は言う。
「今となっては“アレ”だけど、“当時の私”にとってはね、“とても重要な事”だった。 私は“私が何者であるのか”を、“私がどうして他の子供達と違っているのか”を、私はそれを知りたく思い、迷惑な話であるけどね、“色んな努力”をしてみせた……」
なんだか“言い訳”のように聞こえて来ていた。
と、彼女は両目を閉じては“祈る”ような仕草(しぐさ)をし、こう言った。
「そんな小学生だったある日の事、私に“転機”が訪れた。 それは生徒達(同学年全員?)を集めての“映画鑑賞をする”というイベントだった。 映画の内容は“戦争映画”であり、“人死にのある映画”であった。 私はボーっとその映画を見ていては、やがては上映時間は終了をした。 すると生徒の中からは『シクシク』と泣いている声が聞こえて来ていた。 そう、作品の内容に感動しては“泣き声”を上げていたのである。 私は声の主を探しては首(頭)を振ってはみたものの、誰のものかは分からない。 しかし複数人が泣いているのを“音”にて確認する事が出来ていた。 ……この時私は“恐怖”した。 そしてまた自分自身に対しては“怒り”を覚えてみせていた」
彼女は言う。
「彼らがどうして“泣いていた”のか? それは彼らが“映画の登場人物やその世界”に対して“悲しいと感じていたから”泣いたのだ。 そう、“優しさ”故に泣いたのだ……。 “自分の為”では無く“誰かの為”に、“他人の為”に彼らは泣いていたのである……。 それは他人に対する“憎しみ”や、“怒り”、“悔しさ”、“怪我などによる痛み”等ではない。 他人の“つらさ”、“苦しさ”、“悲しみ”などに、同調・共感する事で、涙を流していたのである……」
彼女は言う。
「私には“そのような経験”は無いでいた。 スポーツ選手の努力や活躍に涙する……。 素晴らしい歌劇に感動しては涙を流す……。 他人の事を思い遣り、自分の事のように涙する……。 私には“そのような感情”は存在してはいなかった。 そのような感情が“存在する”とも考えなかった。 “他人に対する涙”など私は持ち合わせてはいなかった……。 私はこの時に“私の事”を酷く憎んだ。 どうして自分はこうも“他人とは違っているのだろう”と感じてしまい、私は自分自身に対しては、“怒り”を覚えてみせていた……。 けれどもこの時、同時に私は思ったの。 “こういう人達になりたい”と。 “他人の活躍”や“その人生”に共感し、“感動出来るような存在”に私はなってみせたいと……!」
彼女は言う。
「これが私の“小学校時代での思い出”である。 これは私の“転機”であり、私はこの日より“そうありたい”と考えて、“人間になる事”を『人生の目標』としてみせた……」
ボクは問う。
「“人間になる”……とは?」
彼女は答える。
「私にとって“私が異物”である以上、“彼らの方が人間である”って『前提』よ。 つまり“私の方”が“非人間”。 私はこの時から“彼らのようになりたい”と、“いつか人間になりたい”とそう願うようになったのよ」
「なるほど……。 てっきりアナタは人間なんて、『“二足歩行が可能”で、“手先が器用”で、“お喋りが得意”である事を自慢している、“唯のタンパク質の塊”である』と思っているのかと思っていました」
「ははは。 笑えない。 私にとっての“人間”は『とても強い憧れを抱く価値のある、優しさに満ち満ちたステキな存在』であるのよね♪」
ボクは彼女の言葉に対し、少し「微笑んで」みせていた。
そしてボクは問う。
「それで中学校時代はどうだったんですか? 何か印象的な事はありましたか?」
「…………。 “ロクでもないもの”だったと憶えているわ。 本当に本当にロクでもない……。 “クソみたいないものであった”と記憶をしている……」
彼女の(声の)トーンはだんだんと、暗く暗くなって行った。
彼女は言う。
「小学生の頃に“人間になりたい”と考えた私は“そうあれる(そうなれる)”ように努力をし、いつしか中学生になっていた。 けれどもね、“三つ子の魂百まで”じゃあ無いけれど、“性格”や“考え方”を“変える”というのはそうそうね、簡単なものじゃあ無かったわ。 “他人に優しさを向ける”だなんて事、今までした事無かった私が、“誰かの為に”と考える。 今までは“ツマラナイ”と感じていた“何かしらか”に対してでさえ、『それ、面白い!』と空気を読んで“他人に合わせて”みたものよ。 “努力する者”の姿を見ては“頑張る(がんばる)事”を学んだわ。 長い長い“困難極まる道”だった。 けれどもね、“他人の良い所”を見ては学び、それを“真似してみせ遣る事”で、私は“人間へと近付いている事”を実感する事が出来ていた……。 …………。 けれどもそんなある日にね、私は“とある事”に気が付いた。 そう、あれは中学三年生の時の給食終わり……。 私はクラスメイトの友人と給食当番をやっていて、給食後に二人で牛乳ビンを給食室へと運んで行った時の事だった……」
彼女は「遠い目」をしていた。
彼女は言う。
「この時、牛乳ビンには“余り”があって、クラスメイトの友人はそいつを飲んでみせていた。 そして私は遠くを見ていて……、遠い景色をボーッとボーッと眺めていてね、そしたら急に気が付いた。 私の中の“最初の人”は、“既に死んでしまっていたのだと”気が付いた……」
静かな……、実に静かな一言だった。
彼女は言う。
「とっても悲しかった……。 私の“元々の中の人”が“死んでしまっていた事”に私は強いショックを覚えたわ……。 あああ! なんて事なのかしらって! どうやっても“元”に戻れないって! 誰が主導権を担っても、“彼の存在”を実感する事が出来ないって!」
彼女は“身振り手振り”をしては主張した。
彼女は言う。
「……けれどもその直後、“私達”は“こういう風”に思ったの。 『いや待てよ? もしかしてこれは“めっけもの(目っけ物)”ではないのかな?』って。 『これ以降、この肉体を自由自在に使えるようになったのだ』と。 『そう、これは神様から私達への“プレゼント”なんじゃないのかな?』って」
「私達……?」
ボクは尋ねた。
彼女は言う。
「そう、“私達”……。 “ガワ”こそ“一つ”であるけれど、私達はこの一つの体に“複数の人格”を有してる。 言わば……ううん、多少違っているのだけれど、“近い言い方”をするならば、私達は“任意でその人格へと成り代わる事”が出来り遣る、『多重人格』のようなものなのよ」
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