第22話 5日目D:ボクから彼女への質問
彼女は「ゴクゴクゴク」とドリンクを飲んでみせていた。
ボクは彼女がドリンクを飲み終えたのを見ると、タイミングを見計らい、彼女に対して尋ねてみせた。
「あの……カーニスさん。 “2つほど”質問をしても宜しい(よろしい)ですか?」
「な~に?」
ボクは尋ねる。
「カーニスさんは“ドラゴン”という存在に対してはどう思います? ドラゴンは“生物である”と言えますか?」
「それは“『定義』による”としか言えないわ。 “ドラゴン”は“生物である”と『定義』をするのか、“神霊的なものである”とするのかで大きく結果が異なってくる。 また“ドラゴン”は“架空の存在である”とも言えるので、“存在しない”、“実在しない”……つまりは“生物ではない”とも言えると思う。 まあ場合によっては“爬虫類的な生き物”として“生物である”とも言えるでしょうね。 結論、“人による”としか言えないわ」
「有難う御座います」
思った通りの返答だった。 ボクは続けて尋ねてみせた。
「それでは次に“リンゴの色”に関してですが、仮に今、このリンゴの色を“赤色である”と『定義』します」
「ふむ」
「それではこの“赤いリンゴ”であるのですが、このリンゴの赤色は、ボクとアナタとで“同じに見えている”と思いますか?」
「それって私が見ている“リンゴの赤”とアナタの見ている“リンゴの赤”が“同じ赤色か”ってそういう話?」
「ええ、そうです」
レスポンス(反応)が速い。 きっと彼女は(ボクの質問の)“答え”を知っている。
彼女は少し頭の中で“セリフの整理”をして後に、ボクに対してこう言った。
「私とアナタが見ている“赤”が“同じ色”であるのかどうかは“厳密には”分からない。 しかしもし、私とアナタ、どちらとも“色相(脳内カラーテーブル)の捉え方”に“異常が無い”とした場合……、つまりは赤→紫→青→緑→黄色→赤と、“色の変化が認識出来る”と言うのであれば、私とアナタは“同じ色に見えている”と言えるだろう。 勿論これには語弊(ごへい)がある。 例えば男と女とではそもそも生物学的に“色に対する認識力”に違いがある。 勿論個人によっての違いもあるが、一般的には“女性の方が男性よりも色に対する認識力は高い”と言われており、これは目に存在している『錐体細胞(すいたい細胞)』の多寡(たか)が原因であると考えられている」
彼女は続ける。
「また“色に対するイメージ”も人によっては異なるだろう。 例えば“赤色”は“熱い”、“情熱”等のイメージがあり、“青色”には“冷静”、“寒い”等のイメージがあったりするだろう。 仮に私とアナタの“脳内カラーテーブル(色相)”に少しのズレが生じていて、私にとっての“赤色”がアナタにとっての“青色”で、“色に対するイメージ”が“真逆であった”と仮定する。 けれどもそんな場合でも、アナタにとっての“赤色”は“冷静で寒いイメージの赤”であり、“青色”は“熱くて情熱的な青色である”ってー事になる。 つまりは“色のイメージ”が“他人と異なっていよう”とね、アナタが“リンゴを赤だ”と“認識している事”には変わりはない。 アナタにとっての“リンゴの赤”が私にとっての“青リンゴ”であったとしても、“その事”に意味は無いのよ。 何故ならアナタにとって『リンゴの色は赤い』とね『定義』をされているのだからね」
完璧だ。
ボクは少し微笑んだ。 彼女に気付かれないように微笑んだ。
けれども彼女は自分がボクに“試された”と気付いたのだろう。 明らかに不満そうな顔をしてみせていた。
ボクは言う。
「ありがとう御座いますカーニスさん。 今のは“哲学的な質問”でした」
「ふ~ん、そーなんだ」
彼女の言う“考える事”には“哲学的なもの”を感じていた。 実際に彼女は“ボクが意図した通りの回答”を答えてみせてくれていた。 きっと彼女の“得意分野”であるのだろう。
対して彼女は呆れた表情をしてみせていた。 彼女にとって“考える事”は“当たり前の事”であり、“哲学と名前を付ける程の事でも無い”のだろうなとボクは思った。
けれどもボクは彼女と会話をする度に“知らない自分”に出会えるような、“彼女の中に自分を見ている”そのような、「不思議な気持ち」にさせられていた。
彼女は言う。
「それじゃあ今日はもう良いかしら?」
「あ、はい。 お疲れ様でした!」
少し“疲れた”風な彼女を見て、ボクは軽く頭を下げた。
するといつもの「ピーーー!」という音が聞こえて来ていては、ボクは意識を失った。
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