第21話 5日目C:とある猫型ロボットの話


 ボクは尋ねる。

「……それで、カーニスさん。 ボクはあなたの宿題に“合格した”って事で良いんですか?」

 言われて彼女は答えてみせる。

「ええ、合格よ。 オメデトウ♪ それじゃあ合格祝いに“とある私立中学校の入学試験”の話をして差し上げよう♪」

「…………」

 ボクは尋ねた。

「あの、昨日は“幼稚園時代のお話”だったので、今日は“小学生時代のお話”じゃあないんですか?」

「まぁまぁ、そう急くな(せくな)よワトソン君。 乙女心が分からんのかい?」

 彼女は冗談めかしてそう言うと、ボクに構わず語り出す。

「昔、“とある私立中学校の入試問題(試験)”にこういうものがありました。 “とある猫型ロボット”がおりまして、その猫型ロボットは道具を使って“数を増やす事(増殖)”、“不思議なライトで体が大きくなる事(成長)”が出来るのだけれども、その猫型ロボットは“生物ではない”のだそうである。 ちなみにその試験官(出題者)によるとだね、“生物”の『定義』とは“自分と外との境がある”、“成長し子供を作る事が出来る”、“エネルギーを蓄え使用する事が出来る”事であると言う。 それではここでクエスチョン(問題である)。 どうしてこの猫型ロボットは“生物ではない”と言えるのだろう?」

「…………」

 ボクは少しの間考えて、彼女に言った。

「そもそもその猫型ロボットは“実在している存在”なんですか?」

「良い着眼点だ。 “実在しているもの”として話を進めてくれたまえ」

 ボクは問う。

「それではその猫型ロボットですが、それには“自分と外との境がある”んですか?」

「YES(そうよ)」

 ボクは問う。

「次にその猫型ロボットなんですが、それは“エネルギーを消費する事で稼動を行っている”んですか?」

「ええ、そうよ♪」

 ボクは彼女の回答を聞いて、再び少しだけ考えた。

 そして言う。

「だったらその猫型ロボットが“生物ではない”というそのワケは、“ロボット故に生物ではない”というのはどうでしょう?」

 極めて単純な答えであった。

 しかし彼女は言う。

「残念だけれどこの試験官にとってはね、“その解答”は“間違い”なのよ」

「そうなんですか……?」

 ボクには腑(ふ)に落ちない話であった。

 故に彼女に対して

「アナタ的にはどうなんです?」

 と、問うてみた。

 彼女は言う。

「私的には“正解”よ。 勿論『その猫型ロボットは架空(かくう)の存在である故に存在すらしてない』という答えもね、“正しいもの”としているわ。 けれどもこの試験管にとっての“正解”は、その猫型ロボットが“成長して子供を成す事が出来ない”から、……つまりは“『定義』を満たしていない”からという理由でね、“生物ではない”という事らしい」

 ボクにはその試験官の“思考(考え)”が分からなかった。

 故に尋ねた。

「そもそも何を持って“生物である”としてるんです? その前提条件としての『定義』は本当に正しいんですか? “生物”と“非生物”との違いは何なんです? 『ウイルスはDNAを持たないから非生物である』だとかそういう話があるのです。 その猫型ロボットはDNAを持っているんですか? 違うのなら“DNAを持っていないから生物ではない”という回答でも良いんじゃないかと思うのですが?」

彼女は「うんうんうん」と頷いた。

 ボクは言う。

「例えば“人類の居住が可能な大型の宇宙船”があったとします。 “スペースコロニー”でも構いません。 “それ”の中には人間が生活をしており、将来的には“その施設”……、“大型宇宙船”やら“スペースコロニー”やらを“巨大化する事”になるのです。 これは“成長”です。 また、状況によっては“子供を作る”……、外から資材を手に入れて、“小型宇宙船”や“小型のスペースコロニー”を外部に作る事もあるでしょう。 これは“子供を儲ける(もうける)に該当する”と思います。 つまりはその“大型宇宙船”や“スペースコロニー”の類らは、提供された『定義』によると“生物である”と言えるのです。 『定義』の中に“有機物である事が条件である”や“DNAを持っている事が条件である”等が無い限り“生物である”と言えると思うのですけれど……」

 彼女は「うんうんうんうん」と頷きながらにボクの話を聞き終えた。

 彼女は言う。

「全くもって“その通り”である。 そもそも『定義』としている“定義”がね、ちゃんちゃら可笑しい(おかしい)ってお話なのよ。 私の方からも補足をすると、例えば“第二次性徴”を迎える前の“幼子”に“生殖能力”は存在しない。 そしてまた“年を経て老人になった者ら”も同じくに“生殖能力”を持っていない(失ってしまう)。 病気や事故で“生殖出来ない体”である場合もあるだろう。 ではではアナタに尋ねよう。 彼らは“生物ではない”と言えるだろうか?」

 ボクは言う。

「“生物である”と思います」

「YES(そう)! 彼らは紛れもない“生物”である。 つまりは“生殖能力の有無”は“生物であるかどうか”とは関係無いって事である。 『定義』そのものが間違っている。 “老いる事”は“成長する事”と同じであるのか? だったら例のベニクラゲが“若返り”を行うらしいが、それは“成長する”とは矛盾をしてないか? ベニクラゲは“非生物”なのか? 『定義』を満たしているハズの、アナタが例に出した“大型宇宙船等の存在”を“生物ではない”とするのは何故なのか? そもそも“猫型ロボットは現実には存在しないから生物ではない”という類の回答に対してね、どうして“間違いである”言えるのかだろう?」

 彼女は言う。

「その“答え”はね、とってもとっても簡単よ。 それはその試験官が“知能の低いクソザコナメクジであるから“よ。 それ故に“他人の正しさ”を認める事が出来ないの♪」

 彼女は目を細めては「不気味に」笑ってみせていた。 それはそれは“何時ぞや(いつぞや)の試験官の事を思い出しては馬鹿にしている”ように見えていた。

 彼女は言う。

「“彼ら”はね……、“考える事の出来ない奴ら”はね、“自分の頭で考える事が出来ない”故に、“想定していた以外の答えを認める事が出来ない”の。 そのクセね、“自分は考える事が出来る存在である”と勘違いをしちゃってる。 その根拠には“自身が高学歴である”って事が由来をしている気がするわ。 “知能が低い”にも係わらず“学力だけは高い”から、“自分は特別である”って変な風に考えている。 ホントにホントにウンザリするわ……」

 彼女は両手を上げてみせては「お手上げポーズ」をとってみた。

 そして両手を下ろして、彼女は言う。

「私はね、“色んな考え方があっても良い”って考えている。 だからね別に“生物の『定義』自体を否定したい”ってーワケじゃあ無い。 “その答えも正解で良い”んじゃないかとそう思う。 しかしだね、『マンホールの蓋は何故丸いのか?』の話と同じくに、こいつらは“知識すら足りていない”のに、何故だか“正しい答えは一つである”ってー考えている。 自分よりも思考力があり、柔軟な発想をする事が出来る“中学入試を受けに来た子供達”に対してね、“事前に決めていた正解以外を認めない”って所が許せない。 オマケにこの試験官はドヤ顔決めて“こーゆー事”を言っていた……」

 次いで彼女は“ドスの利いた声”にて言う。

「『我が校に入学する事が出来るのは“考える事の出来る子供のみ”である』ってね……」

 彼女の目付きは悪かった。 それはまるで“ゴミムシ”でも見ているかのような目付きであった。

 彼女は言う。

「あはは、ウケル! こいつらは無自覚に“考える事の出来る子供”の“未来を潰してる”にも係わらず、自分達はその“手助けをしている気になっている”ってー所が最高に笑えるトコである!」

 彼女にとってこのような試験官の存在(考える事の出来ない存在)は、“とても不愉快な存在”であるらしかった。 ボクは彼女の話を聞いていて、もしかしたら彼女の言う“私立中学への入学試験”のお話は“彼女の実体験だったのかもしれない”な、と思ってしまっているのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る