第20話 5日目B:マンホールの蓋は何故丸い?


 彼女は言う。

「それじゃあ次に“マンホールの蓋は何故丸いのか?”を教えて貰おうかしら」

「それはとても単純な答えです」

 ボクは言う。

「“マンホールの蓋が丸い”のは“マンホールの穴が丸いから”です」

“正しく(まさしく)”といった結論だった。

「…………」

 すると彼女は少し斜め上へと視線を向けてはその後に、

「大正解♪」

 と笑顔でそう言って来た。

 彼女は尋ねる。

「ちなみにどの様な理屈であるかしら?」

 ボクは答えた。

「まず“円の全ての対角線の長さが同じだから蓋は穴に落ちない”という理屈ですが、“穴に落ちない”事を目的とするならば“穴と蓋とを蝶番(ちょうつがい)か何かで留めれば良い”んです。 実際にマンホールの蓋の形が“四角く”であるものも存在しており、むしろ“蓋が丸い事”で“転がってしまうというリスク”があります。 現に何処かの国では走行中の自動車のタイヤによりマンホールの蓋が外れてしまい、そのまま転がって行っては“事故が発生してしまった”という事例があったりしています。 もちろん“マンホールの蓋の規格というものが条例により決められている”や、“昔からの伝統である”だとか、“マンホール職人が丸い形が大好きだから”等、色々な理由が考えられるでしょう。 そして“全ての対角線の長さが等しいから”という理屈で“納得をしてしまっている人達”は、恐らく“その理屈が好きなだけ”の人達であり、“他の可能性を考える事の出来ない人達である”とボクはそう思います」

 きっとこの説明で“正しい(問題無い)”ハズだ。

 彼女は言う。

「正解よ♪」

 彼女は“ニッコリ笑顔”を見せて来た。

 彼女は言う。

「マンホールの蓋が丸いのは“穴の形が丸い”から……。 これが“一番正しい理屈”である。 そもそも『マンホール』ってのは『マン(人間)+ホール(穴)』であるのであって、“穴側が『主(しゅ)』”であり、“蓋側は『従(じゅう)』”の関係であるのよね。 なので“穴の形が丸いから蓋の形も丸い”ってのが“最も正しい理屈”なのである」

 彼女は言う。

「けれどもね、以前に“自称頭の良い奴”が居ましてね、そいつが『マンホールの蓋が丸いのは全ての対角線の長さが同じ故に穴に落ちない為である』ってね、ドヤ顔かましてくれてたの。 私がね『他の可能性は考えないの?』と尋ねても、まるで“考えよう”とはしなかった。 彼にとっては“その答え”こそが“唯一の答えである”って思ってくれてるみたいであった。 私は呆れてしまったけれど、私は尋ねてみたかった。 もしも『穴の形が四角い地下水道への入り口』があった場合、あなたは“丸い蓋をするのだろうか”ってね。 『四角い竪穴』に対してねアンタは“丸い蓋をするのかよ”って。 ……けれどもその人物は“考える事が出来ない人”であるからね、“それ以外の答えを認めようとはしない”のよ。 “自分の理屈こそが最高であり説得力がある”って考えている。 私はね、“色んな考え方があっても良い”って思っているから、“そういう考え方を否定している”ってーワケじゃあない。 けれどもね、“その考え方に固執(こしゅう)をして他の考え方を認めない事”に“問題がある”と言っている。 そしてこの“既存の考え方のみを是(ぜ)”としては、“それ以外を否”とする……。 こういう人らは正しく(まさしく)ね、“考える事の出来ない者”であるのよね。 常識に囚われて、新たな事を創造(想像)出来ず、そのくせ“他人の可能性を否定”する、自称“知的”な“脳ナシ連中”……。 私はこういう“考える事の出来ない奴ら”の事を心底軽蔑しているわ……」

 ボクは尋ねる。

「けれどもカーニスさん、世の中には“想像力の無い人”や、“ゼロから1を生み出せない人”も多く居ます。 アナタはそのような人達の事も“軽蔑”をしているんですか?」

 彼女は言う。

「そうでは無い。 世の中には“出来る事(出来遣る事)”と“出来ない事”とがあるからね、私は別に“出来ない事を非難している”ってーワケじゃあない。 “自分の足りてない頭では他の可能性を考えられない”というだけなのに、“他の可能性を示した者”に対してね、“否定をしている”から駄目なのよ。 何処かの馬鹿が『オレにそれは出来ないから分かるけど、キミにもソレを出来ないよ』とクソみたいな事を言って来た。 ハンッ! “自分でそれが出来ない”って自覚をしているクソザコに、“出来遣る者”のいったい何が分かると言うのか!」

 彼女は少し興奮していた。

 そこでボクは彼女の事を“促す”ように、ドリンクに対して手を伸ばす。 すると彼女もまた応じてみては、彼女はドリンクを飲んでいた。

 そして一息ついた彼女に対し、ボクは言う。

「カーニスさん、“考える事が出来ない人”というのは、単純に“他人の考えを安易に否定する人”という認識で良いですか?」

「ま、そういう事ね。 自称“考える事が出来る者”に限ってね、“他人の可能性を否定しちゃう”んだから笑えちゃう」

 彼女は「まるで笑えない」といった顔をしながらに、再びドリンクを飲んでいた。

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