第15話 3日目C:“組織”の目的


 この“組織”の「本当の目的」は“彼女から情報を聞き出す事”では無い。 いや、「目的自体」は“そう”ではあるのだが、少なくとも“ボクに期待をしていない”。 (これはボクのカウンセラーとしての実力不足とは関係無いとは思いたいが)“組織”の目的は“時間稼ぎをする事”にある。 恐らくボクは“中継ぎ”のような存在なのだろう。 “組織”はボクのようなカウンセラーを週代わりにて彼女の元へと投入し、彼女の“ご機嫌を取り続ける事”が目的なのだろう。 何故かって? それは“彼女を保有し続ける事”が組織の目的だからである。

 この“組織”が「この国の政府」よりも有利な点は“彼女を保有している事”にある。 彼女の人権がどこまで保障をされており、彼女にどれ程の自由が与えられているのかは分かりはしないのだけれども、少なくとも“他の組織(もしくは国家)”に“彼女を利用される事を防いでいる”という点は評価をされるべきだと思われた。 仮にもし彼女が“敵国”の手に渡ってしまい“敵国”が『次世代破壊兵器』を使用しようものならば“この国”にとっては損失であろう。 少なくとも今はそれを防ぐ事が出来ている。

 恐らく“組織の目的”は彼女を飼い殺しにする事で“時期を待っている”のではなかろうか、とボクは考えている。 彼女は『ガンの予防接種』の情報を今から18年前に仕入れていた。 そして彼女の言う通り“未来”が今を生きている者達を支援して“彼女と同じ結論”へと辿り着いてみせている。 いや、実際の所“彼女の持っている情報”よりも現在の方が“先を行っている”のかも知れ遣らない。 ……つまりは“彼女の持っている情報”には“鮮度がある(賞味期限がある)”という事だ。

 “組織”にとって「彼女の持っている情報」は魅力的ではあるものの、それが“古い情報”になってしまったその時に「彼女の価値」は“無くなって”しまうのである。 そしてこれは恐らく彼女にとっては“マズイ事”であろうと予想が出来た。 彼女のあの横柄な態度は“自分が切り捨てられない事が分かっているから”のものであり、彼女としては“情報が古くなってしまうその前にその情報を提供したい”と考えているのだろうと思われた。 つまりは“彼女自らが情報を提供したくなるタイミング”というのが“近い未来に来る”のである。

 彼女自らが“妥協点”を探り、組織が“その情報”を得る。 “彼女の願い”は叶わなくても彼女は“それなりの満足”を得るだろう。 組織も組織で“大幅な勝ち”は見込めなくとも、“他の組織よりも先んずる事”は出来るだろう。 恐らくこれが「決着点」。 ボクらは“その時”が来るまでの間、“彼女(カーニス)の話相手をしてれば良い”というワケである。

 そしてこの事は逆を言えば“彼女”がどれ程“情報を提供したい”と思っても“組織”は“時期が来るまでは彼女の主張を取り合わない”という事でもある。

「つまりはボク達はそれまでの“体(てい)の良い中継ぎ”というワケなのか……」

 ボクはボソリと呟いた。

「えっ……?」

 言われて助手君は「キョトン」としていた。 さすがに話の飛躍が過ぎたか? ボクは話を切り上げる為に助手君に対してこう言った。

「まあ良い。 兎に角(とにかく)ボクはこれからあと数日間、“彼女”に対してカウンセリングを行って、給料を貰って“組織”を去る……。 このプランで良いんだね?」

「えっと……」

 と、助手君は少しの間“斜め上”へと黒目を移すと、

「ええ、それでOKです。 その方向でお願いします♪」

 とニッコリ笑顔を向けて来た。

「…………」

 対してボクは自分の顔に左手の平を当ててみた。 そして左手を離し、イスの背もたれを利用しながらに両手を大きく上げては伸び(ストレッチ)をした。 “上”を見ると、「青いお空」が見えていた。 そう、ボクは“ビジネスをしに”やって来ている……。 無駄な事は考えない……。 そういう風に考えた。

 ボクはあと数日にて“ここ”を去る。 “彼女”とはどこまで話が出来遣るものかは分かりはしないが、出来る所まではやろうと思った。

 きっと助手君にとってボクら二人は“回し車(まわしぐるま)の中を走っているハムスターの様なもの”なのだろう。 “一週間限定”の代わり代わりのハムスター。 来週になれば新たなハムスターがやって来て、同じ様に“回し車”を回しているのだ。 あまり気分の良いものでは無いけれど、世の中は“そういう風”に出来ている。

「あっ、そうだ!」

 と、ボクは唐突に“とある事”を思い出しては、助手君に対してこう言った。

「“彼女”に伝えておいて欲しいんだけれど……」

「ええ、良いですよ。 何ですか?」

「君は難病を患って(わずらって)いる人達を“見捨てている”なんて事は無い。 “好きで助けない”というワケではない。 君は“見捨てる事を強いられているだけなんだ”って……」

 急な話であるのだが、ボクは彼女と“仲直りがしたい(関係を修復したい)”と思ってしまった。

 すると助手君は笑顔でボクへとこう言った。

「分かりました。 キチンと伝えておきますね。 私、物覚えに関しては自信がある方なんですよ♪」

 と。

「ありがとう」

 ボクは助手君へとそう言った。

 その後ボクらはイタリアレストランを後にして、タクシーに乗っては病院(施設)へと向けて出発をした。


 車内でボクらは無言であったが、ボクはその間に“考え事”を改めていた。

 ボクは先程“組織”と“彼女”が“お互いの妥協点を探している”と考えた。 しかしこの考え方には「欠点」があった。 何故ならこの考え方は“彼女が新たに未来の技術に気付かない事”を「前提条件」としているからだ。 つまりは今彼女が持っている「知識」が“古いもの”になったとしても、彼女が常に“新しい情報(未来の知識)”を手に入れる事が出来ていれば、彼女は常に組織に対して“優位に立ち続ける事が出来る”というワケなのである。 ……実際にそう上手く行くのかどうかは分かりはしないが、ボクは“考え事”を改めてみせてくれていた。

 やがて「病院」へと着いたボクは自室にてTVを見たり等をして時間を過ごし、「3日目」を終えてみせていた。

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