第14話 3日目B:イタリアレストランにて
現在ボクが寝食をしている“この施設”は一階と二階が「病院(診察室?)」であり、三階以上が「入院患者用の宿泊施設」という事になっていた。 しかし実際には(三階以上には)「怪しい研究施設」が存在しており、“秘密の実験”等が行われていた。
ボクは(午前)12時過ぎ頃、そんな“施設(病院)”の「ホワイエ(ロビー)」にて助手君が来るのを待っていた。 “仮眠を取った”と言う助手君は薄い化粧をしては現れて、ボクの事を先導しては外へと出ると、正面玄関にある「タクシー乗り場」にてタクシーを一台停めていた。 その後ボクらはタクシーに乗り、市街地へと向けて出発をした。
やがてタクシーは「市街地」へと辿り着き、ボクらはとある「イタリアレストラン」の前へとタクシーを停めて、降り立った。
1時頃、イタリアレストラン。
そこは「広いテラス」と「庭」を備えた「イタリア料理のレストラン」だった。 市街地の“通り”に面した場所にあるにも係わらず、「それなりに広い庭」を有していては“高そうな店”だと思われた。 店へは助手君が事前に予約をしていたらしく、ボクらは「予約席」の札が立てられている「テーブル」の方へと案内された。
ボクと助手君が席へと着くと、助手君がボクへと尋ねてみせた。
「先生は苦手な食べ物とかは有りますか?」
「いや、無いよ。 まあ“太り過ぎない食事”であったら何でも良いよ」
「美容はやっぱり大切ですよね~♪」
助手君は「にっこり」笑っては奇妙な事を言って来た。
それからボクらは食事を取った。 ボクは「肉料理」で彼女は「魚料理」を食べていた。 しかし二人ともここ(イタリア料理店)に来といてそのチョイス、何とも“性格が出ている”ように思われた。
食事中のボクらは“無言”であった。 その間助手君はボクの事を「チラチラ」と何度か見ていたが、ボクは“話を掛けて欲しいのか”、それとも“女性特有の何か”なのかが分からずに、無言のままに食事を取り終えていた。
その後ボクらのテーブルの上には「デザート」と「コーヒー」が運ばれて来た。 なかなかに美味しいコーヒーだった。
それから少しして、ボクが“食後の余韻”に浸って(ひたって)いると、助手君が話を掛けて来た。
「……それで先生、“彼女”からは情報を聞きだせそうですか?」
ボクは助手君が(彼女と面会中の)ボクの事を“モニター越しに見ているもの”と想像していた。 だから助手君の言い方は“白々しい”とは思いもしたが、話を合わせてみせていた。
「そうだな……。 単刀直入に言わせて貰うと“無理なんじゃないか”と思ってる」
「無理ですか……」
「ああ、そうだ」
ボクは続けた。
「“彼女”の思考は“ループ”している。 “主張がループしている”とでも言うのかな。 ハッキリ言って“ボクらの方”を……“組織の方”を見ていない。 言ってしまえば彼女はボクらに対する“興味が無い”んだ」
ボクは「テーブル」の上にて存在していた「コーヒーカップ」と「コーヒー皿」、「伝票」、「シュガーポット」(の4つ)を下品であるが、「組織」、「彼女(カーニス)」、「この国の政府」、「国民」の4つに例えては助手君へと説明をしてみせた。
「……まず“彼女の要求”を満たすには“組織”がこの国の政府に働き掛けて、『自殺志願者処理施設』を“造らせる事”が必要になる。 しかし政府はそれに“応じる事”は無いだろう。 国民からも反対の声が上がるのだろうし、仮に政府が“反対の声を抑える事が出来た”としても、“施設の建造に対する見返り”を“組織”に対して求めるだろう。 それが“賄賂”であるのか“彼女からの情報を共有する事”であるのかは分かりはしないのだけれども、少なくとも“組織”が“彼女からの情報を独占する事”は無いだろう。 ならばいっそ“組織”は一歩下がって“彼女”に“政府”と“直接交渉”させて後、“政府からの委託を受ける”という形にて“組織”が“彼女から得た情報でビジネスをする方”が確実であり、効率的だと思うのだけれど……」
ボクは一度助手君の顔を見て後に、話を続けた。
「政府は“一部の国民の声を聞いた”という形にて(税金により)『自殺志願者処理施設』を建設し、“組織”からは“賄賂”を貰う。 そうすれば“組織”は“彼女からの情報を得られる”し、仮に『施設』が民意により“閉鎖される事になった”としても、“誰も損はしない”だろう。 まぁ“税金が無駄に使われてしまう事”にはなるけどね」
こうする事(彼女に直接交渉させる事)で“組織”は“情報を得られる事”が出来るだろう。 しかしこの方法には“根本的な問題”が存在していた。 それは“彼女が政府と直接交渉をしてしまう”という点である。 わかり易い話をするならば、“彼女が裏切らないとも限らない”という話である。 元々“彼女”には「別の目的」があり、“それを政府に伝える為”に“組織を利用している可能性”も無くはないのだ。 彼女は“敢えて(あえて)組織に良い様に扱われている可能性”が無くはないのだ。 最悪彼女が「自分は組織に監禁されているから助けてくれ」と言い出さないとも限らない。
そして今、ボクが助手君へと伝えた話はボクからの“引っ掛け問題(計略)”でもあったのだ。 もしも助手君がボクの話に“乗って来る”のだとしたならば、助手君は“情報を得る事を最優先としている”と言えるだろう。 けれどもそうでは無い場合、ボクは“組織が彼女(カーニス)と政府が交渉をする事を避けている”と結論を下す事になるだろう。
そして助手君は
「そうですか。 “やはり”は難しい事なのですか……」
と、両目を閉じては肩を落とし、“ガッカリ感”を演じてみせた。
ちなみにボクはこの“やはり”という言葉は好きではない。 “やはり”とは“状況を予期していた時”にクチから出て来る言葉である。 つまりは助手君は“ボクが上手く行かないであろうと予測をしていた”という事になる。
恐らくこの“助手君”は本当はボクの“上司に当たる存在”なのだろう。 ボクは“ここの施設内”にて“他の医者や看護婦(看護師)”を見掛ける事はあったりしたが、ボクの行動を決定する“上司のような存在”には出会った事が無いでいた。 上司が“何らかの理由でボクとの対面を避けている”という可能性も無くは無かったが、しかしはそれは“不自然である”ように思われて、ボクの中では助手君が“助手のフリしたボクの上司である”と、結論が出てしまっていた。
ボクは言う。
「ええ。 彼女には“彼女の主張(情報が欲しければ『自殺志願者処理施設』を造れという主張)”がある以上、情報の引き出しは難しいものだと考えます。 それに“会話だけ”では聞き出せる情報に“限りがある”とも考えます」
「…………」
助手君は一度“虚ろ(うつろ)な目”をして後に瞬き(まばたき)をした。 そしてボクに対してこう言った。
「分かりました。 それでは先生、明日からは彼女に対して“カウンセリング”をお願いします」
「カウンセリング!? “情報の聞き出し作業”は良いのかい?」
「ええ、“彼女からの情報収集”は“ついで”という事でお願いします」
やはりはこの助手君は“ボクの直属の上司”であろうと思われた。 上に伺い(うかがい)を立てる事無くこの場で“方針を決めている事”が何よりの“証拠であろう”と思われた。
ボクは尋ねた。
「政府に対し“彼女を斡旋(あっせん)する”ような事はしないのかい?」
「それは“彼女が政府と直接交渉を行う”という意味ですか?」
「そうです」
助手君は少し(ボクから)視線を逸らして後、ボクに対してこう言った。
「残念ですが“組織”は“直接彼女から情報を聞き出したい”と考えています。 また“組織”が国に対して“『自殺志願者処理施設』を造るように求める事”も難しい事だと思われます」
「どうしてだい?」
助手君は言う。
「仮に議員の半数以上を買収し、そうですね……極論を言うと“私達の組織が国を乗っ取った”としてもですね、それは難しいものだと思われます。 仮にマスコミなんかを使いまして、国民を煽って(あおって)誘導する事で『施設』を造り遣る事も出来るでしょう。 けれどもそれでは恐らくは彼女は納得しない。 彼女が“望んでいる事”は私達に“施設を造らせる事”ではなくてあり、“国が嫌々無理をして彼女の為に施設を造る事”にあるからです。 なのできっと“彼女の願い”は叶わない……。 それが“組織が出した結論”なのです」
「なるほどね……」
ボクはこの時『なるほどそういう事だったのか』と納得をした。 そしてまたこの時に“組織の本当の目的”に気が付いた。
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