第13話 2日目+:彼女は話を纏めてみせた2


「それじゃあ話を纏めて(まとめて)みせるわね?」

 彼女は言う。

「私は私の事を“殺して欲しい”と思ってる。 けれども“安楽死”という方法で、合法を以って(もって)して“それを行って欲しいものだ”と考えている。 故(ゆえ)に私は『自殺志願者処理施設』を造って貰い、そこにて私を“処分して欲しいものだ”と考えている。 しかし、『国』は“YES”とは言わないだろう……。 そこで私は考えた。 どうしたら『この国』が動くのか。 どうすれば私と“交渉事をしてくれる”のか……。 そこで私は“提供する品物”を用意した。 彼らが欲しがるであろう情報を、『若返りの秘術』であったり、『次世代破壊兵器』等の情報を私は用意してみせた……。 けれどもそれでも彼らが私に対してね、“耳を傾けないであろう事”は分かってた。 何故なら“彼ら”は“自分の認めたいものしか認めない存在”であるからだ……」

 彼女は言う。

「それに私の方も“理論”はあれど“実証”までは出来てはいない。 私が“実証”する為にはね“お金”や“施設”や“人手”なんかが必要だから……。 そこで私は考えた。 どうすれば“私の能力(知能)”を『この国』が認めてくれるのだろうか、と。 現に私は“何も”持っていない。 あるのは“優れた頭脳”だけ……。 中々に絶望的な状況よ♪ けれどもそんなある日の事、“テーマ”として上がって来たのが『邪馬台国は何処にあるのか』というテーマであった。 曰く(いわく)“タイムマシンが無ければ分からない”、“結論は絶対に出る事は無い”くらい難しいものであるらしい……。 そこで私はこの難題をクリアする事で、能力の証左としてみせた♪」

 彼女は「にっ!」と笑ってみせた。

 彼女は言う。

「私が最初にした事は、『日本書紀』の“年号の謎を解く事”と“『日本書紀』の翻訳”だった。 その結果、『古代日本はパクシャと呼ばれる暦を使っていたのだが、“呉国(中国?)”と国交を結んだ事を切っ掛けとして第17代天皇である履中(りちゅう)天皇が即位をした西暦400年のタイミングを以ってして、パクシャを廃して太陰暦へと改めた』という事が分かったわ。 そしてそれに準ずる形で、“九州に居た熊襲と呼ばれる集団”と“邪馬台国”との動向が“一致をしている事”が分かったわ。 つまり、“邪馬台国”は“熊襲”であって、“邪馬台国は九州にあった”という事が分かったわ」

 彼女は言う。

「そしてこいつはこの件は“結構大きな事”なのよ。 少なくとも『日本国』の人間は『日本書紀』が編纂(へんさん)された西暦720年から1300年もの長い間、誰一人として“この結論に辿り着く事”が出来なかった。 誰一人としてね。 つまりは言い換えるのならば私はね、『1300年に一人程度のマジもんの天才』だってー事になる。 そしてそんな私がね『この国』に対して“協力しよう”と言っている。 私は『この国』に対してね、“挑んでる”ってーワケじゃあない。 寧ろ(むしろ)アナタ方達の方がだね、“私に試されている”と知るべきなのよ……!」

 以上が彼女の“主張(纏め)”であった。

 ボクは彼女に対してこう言った。

「つまりはキミは“認められたがっている”という事なのかい?」

「…………!」

 この一言がマズかった。

「ピーーーーーッ!」

「!?」

 突然、例の「ピー」という甲高い音が鳴り響き、ボクの意識は遠退いた(とおのいた)。 そしてその一瞬の僅か(わずか)な間、彼女がボクの事を侮蔑(ぶべつ)する顔が見えていた。

 ボクは混濁(こんだく)していく意識の中で後悔していた。 失敗した! 彼女が“患者である事”を失念していた! 彼女が“欲している事”は“正論を言われる事”でも“本心を理解して欲しい”という事でも無いのである。 彼女が欲しがっているのは“彼女が欲する言葉”であり、“気持ち良くなれる言葉”であるのだ。 ボクの仕事は彼女に会話で“気持ち良くなってもらう事”であるのであり、そこから“上手く情報を引き出す事”にあったハズ。 けれどもボクはその事を失念をしてしまっていては、彼女の機嫌を損ねてしまった。 ボクは彼女から寄せられる“大量の情報の洪水”に対して意固地(いこじ)に“言い負かしてやろう”と思っていたのかも知れなかった。

結果的にボクは彼女に対し、「謝罪」の一つも無いままに、意識を失ってしまうのだった。




【 3日目 】


 朝、ボクは「自室」にてゆっくりと目を覚ましていた。

 目を開けるとそこには「見覚えのある天井」が見えていた。

「…………」

 ボクはベッドの上で上半身を起こしていた。 ボクはとっても気怠(けだる)かった。 頭が痛く、なんだか睡眠薬でも飲まされてしまっては昏睡し、その薬の成分が未だに体内に残り続けている様な、そんな不快感を感じていた。

 それからボクはベッドから降りてはトイレに行き、うがいをしては洗面を終えた。 そして再びベッドの上へと戻っては、「ぼーっ」と遠くを眺めてた。

「…………」

 昨日、彼女を“不機嫌にさせてしまった”という記憶があるからか、ナースコールを押す事に躊躇い(ためらい)があった。 ボクと彼女との間には“信頼関係が出来ていた”とは思えはしないが、彼女との関係性が“出会う前より悪くなったであろう事”に幾らか気が滅入ってしまっていた。 いや……、もしかしたら彼女は“そこまで気にしない人”なのかも知れない。 けれども、それでもボクは“自分が失敗をした”という事に強い負い目を感じていた。

「はぁ……、こんな事で落ち込むなんてボクは完璧主義者だったのかな……。 いや、“当然の仕事が出来なかった事”に対する“当たり前の嫌悪感”だよ……」

 そしてボクは自分の事を「ハハッ」と笑ってみせていた。

 それからボクはTVを点けると、そのついでとしてナースコールを押していた。


「お早う御座いますタチバナ先生。 ご機嫌は如何ですか♪」

 暫くすると「いつものナース(助手君)」がやって来て、可愛い笑顔を向けて来た。

「ああ、おはよう……。 しかし君もモニターでボクの失態を見てただろう?」

「落ち込んでいるんですか?」

「多少はね……」

 すると助手君は人差し指を立てては“自分の下唇”へと当て遣って

「んー、だったら今晩美味しい食事を持ってきますので何かオーダーありますか?」

 と言って来た。

 ボクは言う。

「ん~~……、食事かぁ……。 時に“何かを食べたい”ってワケでも無いからなぁ……。 いや寧ろ、ココに(置いて)あるチャイナマーブルを“食べてるだけ”で“安定している感”がある」

 ボクはベッドの傍らに置いてある「チャイナマーブルの入れられたビン」を指差してみてはそう言った。

 助手君は言う。

「それだと栄養が偏っちゃいますよ? たまにはお肉とかも食べるべきです」

「たまにはお肉かぁ…………」

 ボクは「ぼ~っ」と上を見上げては、そのまま固まってみせてくれていた。

 と、助手君は言う。

「そうだ先生! 今日の昼から私と食事に出掛けませんかっ?」

「え? けれど君にも仕事があるだろう? それに“彼女”のカウンセリングの予定もあるし……」

 ボクがそう言うと、助手は動きを止めてみせていた。 そして“思い遣り”をもってはこう言った。

「彼女……、『本日はお休みにして下さい』との事です……。 なにせ“昨日の今日”ですから……」

「ヴッ……!」

 “痛い事”を言われてしまった。 やはり昨日のボクの失言が尾を引いてしまっている。

「だ、大丈夫ですっ! “明日はキチンと出る”そうなので、先生もお気になさらず“今日は休暇”と言う事で……!」

 助手はボクの事を励ますように言って来た。 “底の見えない娘”であるが“良い人そう”に見えていた。

 と、ここでボクは彼女に対し疑問をぶつける事にした。

「ところでキミの“昼休みの時間”はどれ位であるんだい? 短時(短時間)で良ければ(食事に)付き合うよ?」

 ボクは「ポロリ」と言っていた。 「食事に出掛けませんか?」というお誘いが助手からボクへの“リップサーブスである”等とは考え遣る事も無いままに。

 助手は言う。

「今日の私のお仕事は(午前)8時上がりであるんです。 なので、お昼から先生と二人で一緒に外出出来たらなぁ……と♪」

 この時の助手君は少しだけ“顔を赤らめて”みせており、彼女の“昼食へのお誘い”は、“デートのお誘い”の様に思われた。

 そしてボクは彼女の誘いに対しては、応じてみせる事にした。

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