第12話 2日目H:解脱(げだつ)


 彼女は言った。

「つまりはそーゆーワケだから“未来が助けてくれる”のよ。 私が何をしなくても人類は“未来に技術を手に入れる”。 ゆっくり牛歩であったとしても文明・文化は進んで行くの。 つまりは将来的に私はね“必要なくなる”ってーワケなのよ」

 ボクは尋ねた。

「カーニスさん、これは個人的な質問なんですが、どうして“御自身の能力”を主張しないんですか? 仮にもし、その“ガン患者に関する云々(うんぬん)”が“18年前の予想”であったとするならば、どうしてその時に世間に対して情報を提供しようとしなかったんです? 『若返りの秘術』に関しての“難病患者の件”でもそうですよ。 もしも当時に世間に対して情報を提供していた場合、もしかしたら今この瞬間には“難病患者の救済が出来ていた”のかも知れないでしょう?」

 ボクはこの時、少し感情的になっていた。

 すると彼女は静かにこう言って来た。

「確かにね……。 私も“その通りだな”って思ってる……。 私の主張が本当に“正しいのかどうか”は置いといて、私は“後悔”してるのよ……。 “情報を提供しておけば良かったな”~って、私は後悔してるのよ……」

「だったらどうして(今この時にでも情報を公開しないのです)……?」

 彼女は言う。

「けれどもね、“当時の私の主張”に対して“世間は誰も耳を傾け遣る事は無かった”のよね。 私が何かの主張をしても、皆(みな)して私の事を無視してた……。 こーゆー事は“昔からの事”であり、私はソレ(状況が変化する事)を諦めている……。 私が前もって“話”をしても、皆は『何言ってんだコイツ』と馬鹿にする……。 逆に私が“状況が終わった頃”に『こうなる事は分かっていた』と話をしても、『どうして前もって言わなかったんだ』と言われる始末……。 はははっ! ウケル! 私にいったい“どーしろ”って言うのよね? 全く意味が分からない……」

 彼女は言う。

「“彼ら”にとって『自分の知らない世界』というのは“SF事(えすえふごと)”であるのよね。 “彼ら”は“考える事が出来ない”からね。 だから私が“何か未来的な事”をクチにしても、それが“実現可能なもの”だとは、“未来にそれが行える”とは考えない。 “彼ら”はどういうワケだか他人に対して“自分の方が頭が良い”、“自分の方が学(がく)がある”と考えているフシがあり、また“自分よりも若い者”に対しては“自分よりも劣っている”と考えを持っている向きがある……。 全てが“そう”とは言わないけれど、“彼ら”は“自分の認めたいと思った事”しか認めない。 私がどれだけ“協力したい”と願っても彼らは私を無視してくれちゃっているのよね。 つまりは私に“打つ手”無し。 どうにもならない事なのよ♪」

 彼女は“呆れたポーズ”を取り遣った。

 ボクは言う。

「カーニスさん……、ボクはそれでも“主張をするべきだった”と思います。 いや、今からでも遅くはありません。 アナタは主張をするべきです。 他の誰もがアナタの事を“受け入れない”のだとしても尚、ボクならアナタを受け入れます。 アナタのお陰で“幸せになれる人”が増えるでしょう。 アナタのお陰で“救われる命”もあるでしょう」

 すると彼女はこう言った。

「私もね、本当は今でも“救いたい”って思ってる。 その人達の中にはね、この瞬間にも“ツライ”、“苦しい思い”をしているでしょう……。 “私の立場”からしてみると、私はその人達の事を“見殺しにしている”、“見捨てている”ようなものなのよ。 それ故私は願ってしまう。 愛する家族と一緒にね、その人達には一日でも長くそして幸せに、暮らして欲しいって願ってしまう……」

 彼女の言葉は“優しさ”に溢れていた。

 彼女は言う。

「以前にね、誰かが私に対してこう言った……。 『そんなにスゴイ技術なら特許を取ったらどうだ?』って。 アナタと同じような事を言って来た。 けれどもね、私はそーゆーモンじゃー無いんじゃないかって思うのよ。 私は『この国』に対してね“私の主張を買い取って欲しい”って思ってる。 そして“特許”なんてものを振り翳さず(かざさず)に、多くの人々の事をだね、“助けてあげて欲しいものだ”って思ってる……」

 彼女は悲しそうな顔をして俯き(うつむき)ながらにそう言った。

「私の主張ってワガママかしら?」

「いいえ、とっても素晴らしいものだと思います」

 ボクは彼女の背中を押す為に彼女に対してこう言った。

「カーニスさん、もう一度だけ“主張をしてみる”というのは如何(いかが)でしょう? ボクに出来る事であるのであれば協力する事を惜しみませんよ?」

 対して彼女はこう言った。

「残念な話だけれども、私は“アナタの要望”に応じる事など出来ないわ」

「何故です?」

 ボクは尋ねた。

「私は“自分が持っている情報”を『この国』に対して“提供し遣る意思”はある。 けれどもアナタは『この国』ではない……。 故に私はアナタに対してね、“情報を提供し遣る事”が出来ないの」

 ボクは少し声を上げてはこう言った。

「ちょっと待ってください! アナタは“罪悪感を感じている”んでしょう!? アナタは“困っている人達の事”を放置するって言うんですかっ!?」

 すると彼女は口元を手で隠しながらに

「あはっ! ウケル!」

 と、笑顔でボクを馬鹿にした。

 ボクは言う。

「どうしてそこでフザケルんですかっ!? 真面目に話を聞いて下さいっ!!」

 すると彼女は両目を閉じて、静かにこう言って来た……。

「私は“罪の意識”を持っている……。 その事で悩み、“眠れない夜”もあったりしている……。 しかしソイツは“(私の)取引条件”には影響しない……。 あくまで“私が内心どう思っているか”の事であり、私は“私の要求レベルを引き下げるようなマネ”はしない……。 既に何度も言っているでしょう? 私が“どうしたら”その要求に応じるのかを……、アナタは既に知ってる……」

「だからと『国』に“造れ”と言うんです? 『自殺志願者処理施設』を……!?」

 ボクは「自殺」というフレーズをついついクチにしてしまっていた。

 彼女は言う。

「その通り。 これは私にとっての“ビジネス”なのよ。 私は皆の事を助けたい……。 そしてその“解決策”も持っている……。 私と同じ“心意気”があるのであれば、『国』は私との“取り引き”に応じれば良いだけのお話である……」

 ボクは言う。

「 (何度も言いますが)『国』はその要求には応じないものだと思います……。 それと話は少し逸れ(それ)ますが、アナタは“もったいない”とは思わないんですか? “誰かを救える手段”があるのにアナタはそれを行わない。 “自分の才能を活かせない”という現実に“不満の類(たぐい)”は無いんですか?」

「無いわ」

 即答だった。

 彼女は言う。

「私はまるで“気にならない”。 私には“考える事が出来遣る”けれど、所詮(しょせん)そいつは“今だから特別なだけ”である。 人類はいずれ“私に追い付く事が出来る”のよ。 言ってしまえば私はね、『未来からタイムスリップして来た者』であるのよね。 例えばアナタが“過去の世界にタイムスリップ”をした場合、アナタは“現代の知識”、過去から見て“未来の知識”を持っている。 けれども“その時代の人達”が“アナタの知識”を無視しても、別に“悔しい”とかは思わないでしょう? “残念だ”とは思うのだろうけど……」

 彼女は言う。

「私は人類の事を“スゴイものだ”と思ってる。 “素敵である”って思ってる。 HIV(エイズ)の件に関してもそうなんだけれど“人類の事”は侮れない(あなどれない)。 私は嘗て(かつて)“10年間”という歳月を掛けて“人類滅亡のシミュレーション”を行ってみた事があるのだけれど……。 その結果、“私の齎す手段”では全人類の10%位しか滅ぼし去る事が出来なかった……。 仮に私が“それ”を実行していても、恐らく“予想ほどは上手く”は行かなかった事だろう……。 必ず人類は“何らかの手立て”を見つけては困難を打破する事が出来ただろう……。 そう、私は人類の事を“非常に優秀な生き物である”と認識している……。 とても高くに評価をしている……。 “誇って良いんじゃないのかな”って私は思っているのだよ」

 彼女は言う。

「だからね私はそんな人類に対してね、“貢献したい”、“協力したい”と思ってる……。 けれどもこれは“私の心意気”のようなものであり、嫌がる人達に対してね“無理に協力しよう”とは思わない。 “私の持っている情報”は“人類を助けるもの”であるのであり、そいつはとっても“有用である”と考えている。 けれども“必ずしも私の事が必要である”というワケでもない。 私の代わり……、“私の同類”は他にも存在しているし、(私は)今まで出会った事も幾らかある……。 “どうしても”と言うのなら“私の同類”を探せば良い。 世間には“能力”を直陰し(ひたかくし)にしながらに生きている、“私の同類”が居るハズよ……」

 と、彼女は人差し指を立ててみせてはボクへと向けて、こう言った。

「最後にもう一つだけ加えるならば、私がアナタ達『組織』に“協力したがらない”そのワケは、アナタ達の目的が“人類の救済では無い”からよ。 アナタ達の目的は“他の人類よりも先んずる為のもの”であり“自分達の利益の為のもの”なのよ。 それが『国』と“組織”の決定的な違いであるわ。 けれども私は構いやしない。 私は“私の利益の為”ならば、その“目的”の為ならば、アナタ達に対しても“協力しよう”と考えてる。 そしてその条件は平等に『国』に対しても同じくに“『自殺志願者処理施設』を造る事”である。 私としてはどちらが“それ”を造ってくれても構わない。 “組織”が『国』に対してね圧力を掛けてくれても構わない。 つまり私は“組織”に対して“チャンスを与えている立場”であるのであって、上から目線で“提案をしているだけ”なのよ。 私にとって“私がどうなってしまおう”が構わない。 私は私に対してね“既に興味が無い”のよね。 だからね私は“私の事を終わらせよう”ってそう思う。 私は“私の終末”を強く望んでいるのよね。 だからね早く私の事を『自殺志願者処理施設』にて“処理して欲しい”と思ってる……」

 ボクは彼女に“情熱的な冷たいもの”を感じ取っていた。

 そしてこの時にボクは思った。 きっと“彼女の望み”は今後も変わる事は無いのだろう、妥協する事も無いのだろう、と。

 彼女が今まで“どの様な人生”を送って来たのかは分からない。 けれども彼女の主張は“真っ直ぐ”で「この世」にも「自分」にも“既に興味が無いのだろう”という事だけは想像出来た。

 ある意味で彼女は既に“解脱(げだつ)”をしており、“生死の境(世界)を超越している”かのような、その様な印象を受けていた。

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