第10話 2日目F:若返りの秘術


 “彼女の主張”は大体分かった。 しかしボクの目的は“彼女の願いを叶える事”ではない。 だからボクは彼女に対してアプローチをしてみせた。

「キミの主張は良く分かった。 けれども信じられない話だな……。 『若返りの秘術』が存在するとは……」

「ははっ! そうかもね。 “SFだ”って思ってる?」

「いや、そこまでだとは思ってないよ。 けれどもキミは“何かの実験”をしたワケでもないのに“ソレ”が分かってるんだろう? 疑うようで悪いケドいまいち信用出来ないよ」

「……う~ん、そうね、まず根本的な事を言っておくと“邪馬台国が何処にあったのか”って問題よりも“若返りの秘術を求める”なんかの方がだね、遥かに“簡単”であるのよね」

 ボクは「本当なのか?」と疑った。

「現代でもね、確か“クラゲの研究”か何かをやっている(学者)先生が『若返る(子供になる)クラゲを見つけたぞ~』みたいなカンジではしゃいでたって記憶がある……。 つまりはね、『若返りの秘術』ってー技術はね、“恐らく未来に得られる技術である”ってーワケなのよ。 他にも“若いネズミの血液”を“老いたネズミに輸血をした”ところ“老いたネズミが若返った”みたいな話がね、アメリカの方から聞こえて来たような気がしてる」

「フムフム……」

 クラゲの話はボクも聞いた覚えがある。 確か『ベニクラゲ』とか言うクラゲの事で、成体が“ポリプ(イソギンチャク状態)に戻る”とかで「不老不死クラゲ」と呼ばれているだとか。

 ボクは問う。

「カーニスさん、『若返りの技術』というのは“割と近い未来の技術”であったりするんですか?」

「どうかしら? 例えば“『地球温暖化問題』の解決”なんて“技術的な問題”と言うよりは“どうすれば良いのかに気付くかどうかの話”であって、そういう意味では“今スグにでも出来る事(技術)”であるのであって“未来の技術”などでは無い。 けれども現代社会の皆さんは“わざと気付いていないフリ”をしているだけなのかも知れないけれど、ただただ皆で集まって“大声を上げているだけ”でしょう?」

 ボクは言う。

「つまりは“気付けるかどうかが大事”であって、“未来に手に入れるかどうかは関係ない”って事ですか?」

「そうね、“手間が掛かる”のは間違い無いケド、“時間軸がどうのこうのの話じゃない”ってトコかしら?」

「なんだか哲学的なお話ですね」

「そうかしら?」

 彼女は言う。

「それじゃあ一つ、“嫌がらせ”とばかりにキミに対して『若返りの秘術』についてのヒントをあげよう♪」

「お願いします」

 ボクは即答した。

 彼女は言う。

「アナタ……、自分に正直なのね?」

「(アナタから)情報を聞き出す事が(ボクの)お仕事ですから♪」

ボクは彼女に笑顔を見せるが、彼女は“ゲンナリ顔”をしてみせていた。

 彼女は言う。

「“若返り”には色んな手段があるかもだけれど“私が齎し(もたらし)遣る方法”では……、その副次的な効果として“糖尿病と高血圧が改善される事”が分かっており、また“若返りの技術”を転用する事で今現在『難病』と呼ばれている少なくとも2種類以上の疾患に対しても“改善が見込めるものだ”と考えている」

「副次的効果……? それに2つ以上の『難病』ですか……」

「ええ、そうよ。 “若返りの処置”をするとだね、そのオマケ(副次的効果)として“糖尿病と高血圧が改善される”って事が分かってる。 もちろん“副作用”なんかも分かっているわ♪」

 疑わしいように思われた。

 彼女は言う。

「そして『難病』に関するお話だけれども……、『若返りの秘術』を行うと“直接的に解決をする”というものでは無い。 恐らくだけれど“次の段階へと進む為のワンステップ”くらいにはなるんじゃあないかしらって思ってる」

 この時ボクは『どこまで本当の話なんだろう……』と思っていた。 全てが“ハッタリ”であったりするのだろうか? けれども何の「根拠」も無ければ“副次的効果”やら“難病患者”であるやらの話は出て来ないのではなかろうか?

 ボクは少しの間、目を閉じた。 すると「ゴクッゴクッ」と飲み物を飲む音が聞こえて来ていた。 そしてボクは目を開けて後、彼女に対して尋ねてみせた。

「カーニスさん、いったいどうしたら“若返り”なんて出来るんですか? それを教えてはくれませんか?」

「いや、言うワケないでしょ? アナタが『自殺志願者処理施設』を造ってくれるって言うんなら言うケドさぁ……」

 彼女は“呆れたカンジ”でそう言った。

「けれどもまあ一つ……。 これは“言い訳”ってワケでも無いんだけれど、この“若返り”ってーのはあくまでも“科学による若返り”であるのであって、“魔法のような若返り”ってーワケじゃない。 例えば“小学生に戻りたい”や“赤ちゃんになりたい”なんかの願いをね叶える事は出来ないの。 それじゃあ『魔法』になっちゃうからね。 ……つまりはね、“若返れるのには限度がある”って事なのよ♪」

 彼女は固目を閉じてはそう言った。

「だったら“どの程度”まで“若返る事が出来る”んですか?」

「そうね……。 例えば“100歳を超えても現役バリバリで仕事が出来る”だとか、“60歳の女性でも妊娠・出産が出来る”って位じゃあないかしら?」

 成る程そいつは凄い話である。 しかしボクは“引っかかり”を覚えてみせて、彼女に対してこう言った。

「カーニスさん……、それってもしかして“若返り”と言うよりは“年を取らないに近い”んですか?」

「…………」

 直後彼女はクチを開け、少しだけその身体を強張らせて(こわばらせて)はみせていた。

 彼女は言う。

「OH……! 正しい指摘に困ってしまうぜ……! まあ……、“そーゆーものだ”と思ってくれて構わない♪」

 彼女は“嫌な所を突かれた”というような表情をした。

 けれども「笑顔」で切り替えて、こう言った。

「それでも“需要”は有るんじゃないかって思ってる♪」

「そうですね」

 ボクは彼女に同調をした。

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