第9話 2日目E:真実よりも飯の種


「さてと……」

 彼女は話を続けてみせていた。

「私はね、誰もが“不可能だと思っていた事”を『成し遂げ遣った者』である。 日本国の古代史を侮辱し続けている学者先生やら何かがね、“一生掛けても出来遣れない事”を『成し遂げやった者』である。 けれどもね、どういうワケだか“彼ら”は“それ”を認めない。 私には“その事”がどうしても理解出来ない(分からない)……。 何故だろう? 彼らは“真実を知りたかった”んじゃないのかしら? それとも“自分の説を主張して相手に対してマウントを取る事”が“その目的”であったと言うのかしらね?」

 ボクには彼女の言う“証拠”というものが“どれ程のもの”なのかは分からない。 しかし彼女の主張が“正しいものだ”としていても、学者先生達が率先して“自分の「人生」”とも言える「研究の成果(主張)」を否定してまで“他人の主張を認める事は無いであろう”と思われた。 人間はそれほど“御人好し(おひとよし)では無い”のである。 それが“飯の種”であるのであれば尚更だ。

 ボクは言う。

「カーニスさん……」

「ん?」

「“世界はそういう風に出来ている”とは思えないかい? “この世”は『不条理・理不尽・不平等』に溢れている。 君の主張が“本当に正しい”のだとしても、世界が“そう”であるならば、君の主張が“認められる事は無い”んじゃあないのかな?」

「…………」

 対して彼女はボクから視線を逸らしては、「ふぅ」と鼻息吐いて後、ボクを見遣ってこう言った。

「確かにアナタの言う通り“彼ら(学者先生ら)”にも“己の生活が掛かってる”ってーお話だから、“既存(きぞん)の全て”を破壊して“私の主張に従う”よりも“(皆して)私の事を無視する”方が彼らにとっちゃあ“お得である”ってー話である。 確かに“そいつ(その考え)”は分かってるんだーけれどもね、それでも私は思うのよ。 『アンタらの人生はそーゆーモンで良いのかな?』って。 アンタらは“真実を求める事”や“学問や文化の発展”なんかを目的として“学者をしてるんじゃーねーのかよ”っ……て。 “気に入らない意見”に対してね、皆して“無視を決め込んだり”ね、皆して“蓋を被せる(かぶせる)行為”は“学者の風上にも置けない”し、“学者の面汚しなんじゃーねーのかな”って思ってしまう」

 彼女は言う。

「私の主張には必ずね、“根拠”というものが存在している。 “思い付き”で自説を唱える“哀れな者ら”と違ってね、“モノが違う”ってーワケなのよ。 なんならディベート(討論)でも致しましょうか? アンタ方らの自称“素晴らしいアイディア”とやらが“ツマラン妄想である”って事を、私が教えて差し上げましょう。 “考える事”の出来遣らない愚かなクソザコナメクジに、“格の違い”というものを私が教えてあげちゃうわ♪」

 そう言うと彼女は「ウインク」一つしてみせた。

 そして「暗い顔」にてこう言った。

「……けれども連中は“私の誘い”に乗りはしまい。 何故かって? “私に負ける”って分かってて、“私に勝てない”って分かってて、わざわざ時間を使ってね“負けに行く奴”なんて居ないのよ。 仮に彼らが“ゴミクズ以下”であるならば“私に噛み付く事”もあるでしょう。 けれども彼らが“それなりの知能”を有していたなら、決して私に係わらない。 何故かって? そりゃあ“とんでもないバケモノだ”って思えるからよ。 “自分の手に負えない”ってね、“知っている者”なら分かるのよ……。 だから私は(彼らに)“相手にされる”事はない。 “係わり合い”にならなければね、“負ける事など無い”からよ。 彼らにとっての“大事な事”は“真理を求める”ってー事じゃあない。 彼らが求めている事は“学者という立場”を利用して“己の人生を有意義にする”ってー事なのよ。 そいつは別に“悪い事”ってーワケじゃあない。 “そーゆートコロ”は分かってる……。 だからね私も諦め(あきらめ)ちゃってーいるんだけれど、それでもやっぱりなんつーか、“気になる事”があったりしてね、未だに私はゾンビの様に生き続けているってーワケなのよ……」

「…………」

 彼女の長い「愚痴」だった。

 ボクは“話の本質”を見極めて、彼女に対して尋ねてみせた。

「君が“邪馬台国の場所が何処にあるのか”を求めてみたのは、君には“お金”も“コネ”も無いからで、それ故“お金の掛からない方法(図書館やインターネット等を利用しての情報収集?)”を利用して、“答えを出す必要があったから”……。 そういう事で良いんだね?」

「ええ、そうよ。 良い理解だわ♪」

 彼女はボクへと微笑んだ。

 ボクは言う。

「つまりは君はそうやって、“自分の力”を示し遣る事で、“自分の能力”を認めさせ、“それ(その能力)”を担保に『若返りの秘術』や『次世代破壊兵器』が“可能である”と誘いを掛けて、“君の望み”を叶える為の“取引材料にしたい”……、と言うワケなんだね?」

「正しいわ。 それが私の『プラン(計画)』であるわ。 アナタ、なかなか賢いわね♪」

 彼女は笑顔でそう言った。

 “彼女の望み”は「自殺志願者処理施設」を“この国”に対し造って貰い、そこで自身に対して“安楽死を齎し遣る事”であるのである。 けれども常識的に考えて、それは「無理な話」であるのである。 そこで彼女は『若返りの秘術』などの“取引材料”を用意した。 欲しがる者も多いだろう。 けれども“お金”も“実験施設”も無い状況では“それを行う事”が出来遣らない。 そこで彼女は「彼女の能力(頭脳)」を利用して『邪馬台国の場所』を示してみせた……。 これが一連の“流れ”である……。

ここでボクは「ふと」思った。 もしも彼女に“お金”や“実験施設”を提供したなら、彼女は「仕事(組織に対する協力)」をするのだろうか、と。

 ボクは尋ねた。

「カーニス君、もしもここの“組織”が君に対して全面的に協力をして、“お金”や“研究施設”の類を“提供する”と言ったなら、君は応じてみせるのかい?」

「…………」

 すると彼女は“退屈そうな顔”をした。

「前にも言った……かも知れないけれど……、“ここの組織”は『この国の代表』では無いでしょう? 私はね、『この国』に対して“用事がある”のよ。 例外的に“ここの組織”が『この国』に対して働き掛けて『自殺志願者処理施設』を造ってくれると言うんなら、話は違ってくるけれど?」

 ボクは少し“攻めすぎか”と思いはしたが彼女に対してこう言った。

「ならば例えば“ここの組織”が“君の願いを叶える”というのはどうだろう? もちろん君が“ここの組織”に協力してくれるのならばの話だけれど……」

 言葉を濁して(にごして)みたものの、言っている事は「犯罪」である。

 すると彼女は少し無言で目を閉じて、そして目を開いては、「やっぱりコイツは私の話を全然理解してないな~」といった顔をしながらに、ボクに対してこう言った。

「残念ながらそれは無理。 私はね『この国』に対して“私”への“責任を取って欲しい”って思ってる。 そしてその手段がね、“安楽死”であるだけなのよ」

 彼女は言う。

「もしも『この国』が“あの国”の様に国民の命を何とも思っていない国であるならば、私は『国』に対してね“安楽死を要求する事”も無いでしょう。 ……何故かって? 彼らなら私の事を喜んで“処分”して、私の知識を得る事に何の躊躇い(ためらい)も無いからよ。 けれどもそれでは私はちっとも面白くない。 私はね『この国』であるからこそ、自分のワガママを主張している。 私が“あの国”の住人であったのならば“別の要求”をしてると思うわ」

「……例えば?」

「そうね……、例えば“全ての国民に自由と平等と人権を与える事”が取引条件だったりするんじゃあないかしら?」

 ボクは彼女の話を聞きながら、単に彼女は「相手に無理難題を飲み込ませたいだけなんじゃないのだろうか」と思ってしまった。

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