第8話 2日目D:彼女が披露してみせた事
彼女は一度両目を閉じて、“歪んだ顔”を戻してみては、静かにこう言い出した。
「私はね、どうすれば“私の力が認められるのか”って考えた……。 確かに『若返りの秘術』であったり『次世代破壊兵器』の類(たぐい)はね“理論上は正しい”し、その“検証法も分かっている”とは言ってもね、“実際にそいつを行う”為には、“お金”であったり、“組織”であったり、“技術者”、“資材”の類であったりと何やかんやが必要になる……。 そりゃ~私みたいな“何処の馬の骨”とも分からない存在に“お金と時間を提供してくれる”って酔狂な人は居ないでしょう。 世界はそれほど優しく無い」
彼女は言う。
「そこで私は考えた。 どうすれば“馬の骨”である私にね、この国に住まう“1億分の1以下の存在”である私にね、“十把一絡げ(じっぱひとからげ)以下の存在”である私にね、“投資をしてくれるのかな”って、“融資をしてくれるのかな”って考えた……。 そして私は“結論”を出した……。 『若返りの秘術』や『次世代破壊兵器』なんかより、“よりより難しい事”をだね、“私の手の届く範囲の要素を使って”ね、“証明をしてやれば良い”って考えた。 “実現してみせれば良い”って考えた」
彼女は言う。
「そしてある日にインターネットを見ていた私は“とある一文”に目を留めた。 そこには“こう書いて”あったのよ。 『邪馬台国(やまたいこく)はタイムマシンでも無い限り何処にあったのかは分からない』ってね。 ……そこで私は思ったわ。 『こいつをテーマとする事で、“この不可能”を“可能としてみせ遣る”その事で、“私の能力の一端”の“根拠としてみせようかしら”』ってね♪」
彼女は「ニッ」と笑ってみせた。
そこでボクは“彼女の話を促してみせようかしら”と考えて、こう言った。
「邪馬台国って、あの女王『卑弥呼(ヒミコ)』の……?」
「ええ、そうよ♪」
女王「卑弥呼」とは西暦239年頃に“日本の何処かにあった”と言われている国、「邪馬台国」の女王だった人物である。 そして今現在、その国が“何処に存在していたのか”の結論は未だに出ていない事である。
ボクは尋ねた。
「“邪馬台国の場所をテーマにする”って、それって(その場所が判明する事が)とても難しい事なんですか?」
「“未来に頼る”よりは遥かにね♪(遥かに難しい事である)」
「未来に……頼る?」
ボクは尋ねた。
すると彼女は“手振り”を加えながらにこう言った。
「今現在……、地球上には“幾つかの問題”ってーのが存在してるんだけれどね、“それらの問題”の幾つかは“未来に解決されるものである”って考えている。 “今スグには無理”って事でもね、“10年後には可能になっている”のかも知れないでしょう? 私はね、こういった“未来に解決策を委ねる(ゆだねる)事”を“未来に頼る”と表現している」
彼女は言う。
「私はね、『人間の文明』が突如として“消滅”でもしない限りはね、人類はどんどんと“未来に向かって進んで行く”って考えている。 たとえ今は“難しい”と思えるような『若返りの秘術』であってもね、『次世代破壊兵器』であってもね、いつか必ず人類は“辿り着く事が出来る”って、そういう風に考えてるし、私はそれを“確信”している。 私は人類の皆様方の事をだね、尊敬しちゃっているのよね♪」
彼女は「ウインク」一つにそう言った。
彼女は言う。
「そしてこの“未来に頼る”って事よりも“過去の事を究明する事(過去の真実を明らかにする事)”の方がだね、遥かに難しいって事である。 “証拠が消失してしまっている可能性”が高かったりしているからね。 “精度の低さ(誤差が大きく発生する事)”も問題だ。 例えば“今から100年前の出来事”でさえも“正しい事”は分からなかったりするでしょう? それを私は今より約1800年前の出来事の“証明をしよう”と試みている。 『未来に関する出来事』の方が“いつか分かるようになる可能性が存在している”分だけでもね、簡単だってー話である」
ボクは尋ねた。
「けれども黒蛇姫、“未来の技術”に『タイムマシン』があったとしたらどうします? それなら過去へと飛ぶ事が出来ると思ってしまうのですが……」
「…………」
彼女は「じっ」とボクを見た。
「どうしました?」
「いや、何でもないわ……」
「?」
彼女は何か“物言いたげ”な顔をしていた。
彼女は言う。
「残念な話であるけどね、『タイムマシン』が出来たとしても、行ける世界は“未来”だけ。 “過去への移動”は有り得ない」
「そうなんですか?」
「ええ、そうよ」
彼女は言う。
「それにね、仮にもし誰かが“超常現象”か何かにあって“過去の世界へとタイムスリップ”をした場合、それだとしても“邪馬台国が何処に存在していたか”はね、“分からないんじゃーないかしら”って思ってる」
「それって、“この世界に戻って来るのが難しいから”って意味ですか?」
「違うわ。 今から少し“説明”をする……」
彼女はそう言うと人差し指を立ててみせてはボクへとこう言ってきた。
「世の中にはね、“考える事の出来遣る者”と“出来ない者”とが存在している。 そしてその前者である“考える事の出来遣る者”は恐らく全体の“2割”ほど。 どれだけ多くを見積もってもね、“3割”も存在していない。 仮にもし、とある『時空の旅人』が今現在『奈良』と呼ばれている場所に対して“タイムスリップ”をしたとする。 そしてそこの土地の人らに対して『この地は何処や?』と尋ねたとする。 するとそこの民らはね『この地はヤマトである』って答えるでしょう。 そしたら『時空の旅人』は『首都は何処や?』と問い掛ける。 そしたら土地の民達は『この国の首都はここである』って言うでしょう……」
彼女は言う。
「さてさてここで問題だ。 アナタはこの話、どういう風に解釈をする?」
「…………」
ボクは少しだけ時間を掛けて考えた。
そしてボクは彼女に対して“答え”を出した。
「古代の『奈良』は『ヤマト』と呼ばれた土地だった。 そして古代の『奈良』は“当時の国の首都だった”……ですか?」
「…………」
彼女は少し動かなかった。
そして言う。
「正解よ」
と。
彼女は言う。
「ちなみに“とある人物”ならばこう言うわ。 『古代の奈良が“ヤマト”であり“国の中心である”とするならば、“邪馬台国”は奈良にあり、“邪馬台国”はこの後に“大和朝廷へと成ったのだ”!』ってね」
「…………」
彼女は言う。
「“飛躍し過ぎ”であるのよね……。 最初から“邪馬台国は奈良にあった”という結論が……、“前提”が透けちゃって見えるのね……。 ははははは……、馬っ鹿(バッカ)じゃないの? 頭、くるくるパーの助かよ!? 知能の低さにゾッとする!!」
彼女は“顔芸しながら”そう言った。
「世の中にはね……、“考える事の出来ない者”が存在している……。 そいつらは“現実を自分の都合の良いように解釈をしてしまう”クセがある……。 “自分の求めている結論”に対して“現実を摺り寄せさせる”って向きがある……。 たとえ“現実を目の前にする事”があったとしても、“自分の頭で考える”ってー事が出来ないからね、“妄想を現実に当て嵌めよう(はめよう)”ってーするのよね……」
「…………」
彼女の話は難しかった。 と言うより、“脱線している”気がしてた。
ボクは彼女に「ボクは考える事が出来る人間ですか?」と尋ねてみようとおもったが、それよりも彼女に対して“話を続けるように”促した。
「なるほど……。 つまりはカーニスさんにとって『未来の知識』なんかより、『過去の真実を知る事』の方が“難しい”って事ですね?」
「ええ、そうよ」
ボクは続けた。
「それでカーニスさん、『邪馬台国』ってーのはいったい何処にあったんです? と言うかそもそも、どうやってそれを調べたんです?」
「あ~~~……(どうやって調べたかは置いといて)、そもそも『邪馬台国』ってー言うのはね“国の名前”と言うよりは“都市の名前”であるのよね」
「都市の名前?」
「ええ、そうよ。 日本の『東京』で言うと“品川”や“新宿”あたりが『邪馬台国』に該当し、『邪馬台国』は“国の名前”などでは決して無い!」
「そうなんですか?」
「そうなのよ~。 けれどもまぁ……便宜上、私も“分かりやすいように”を心掛けてね、女王『卑弥呼』の“治めた土地”を『邪馬台国』と表現している……」
彼女は少し“鼻息”吐くと、ボクに対して話を続けた。
「ん……で、中国の『魏志倭人伝(ぎしわじんでん)』ってーのによるとだね、“女王の都”のあった場所が『邪馬台(やまたい・やまと)国』という都市であり、女王『卑弥呼』を頂点とした“国々の事”を纏めて(まとめて)は『女王国』と呼んでいる。 ……つまりは『邪馬台国論争』の“本来のテーマ”は、“邪馬台国は何処にあったか”では無くってね、“女王国は何処にあったのか”ってゆーのがね、“正しい話(本来のテーマ)”であるのよね」
初めて聞いた話であった。
ボクは言う。
「なるほど……、女王『卑弥呼』が治めていたから『女王国』で、“首都の名前(地名)”が『邪馬台国』であるのだと?」
「そういう事よ」
ボクは尋ねた。
「ちなみにその“都のあった場所”というのは何処なんです?」
「……そいつは嘗て(かつて)“山の門(やまのもん)”と書いて『山門(ヤマト)』と呼んだ、現在の福岡県は筑後地方……、“『大川』や『柳川』辺り”であったと考えてるわ。 ちなみに“この場所”が“首都であった”のは“女王『卑弥呼』の死後”の頃の話であって、“『卑弥呼』が存命していた頃”にはね“首都は別の場所にあった”可能性が存在している」
“なんだか面倒臭い話だな”ってボクは思った。
「結論を言うと“『邪馬台国』は九州にあった”って事になり、またこの『邪馬台国(女王国)』こそが“九州にあっては大和朝廷に従わなかった存在”である『熊襲』であったと考えている」
「!?」
ボクは驚いた。 『邪馬台国(女王国)』が「熊襲」だって!? ならば女王『卑弥呼』は「熊襲の指導者」と言う事なのか!?
「ちょっと待って下さいカーニスさん! 今言って貰った話には“証拠”が存在してるんですか?」
ボクは口早に問うてみた。
「え? あ、あ~~……。 “証拠”ならちゃ~んと存在しているわ。 “私が間違っている”と言うのなら、逆に“根拠を持って否定して欲しい”って思ってる。 細かい説明は省くけど“間違えようが無い”のよね。 女王『卑弥呼』の治めていた『女王国(邪馬台国)』が“福岡県は筑後地方を中心とした一帯に存在をしてた”っていう事は、“疑いようの無い事”なのよね♪」
彼女の話は“妄想事”であるかも知れない。 けれどもそれらは“彼女の中”では“間違えようの無い事”だった(らしかった)。
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