第7話 2日目C:彼女の願い2.


「『若返りの秘術』に『次世代破壊兵器』……それに『ガンの治療法』……」

 彼女はボクに対してそう言った。 本当の事なのかどうかは分からない。 どの程度“現実味があるか”は分かりはしないが、しかしそれらの情報は「魅力的」であるように思われた。

 彼女は言う。

「違うわ。 正確には『小児ガン患者を救い遣る術(すべ)』よ……。 全く意味が違うから間違わないで」

「ああ、スマン……」

 ボクは尋ねた。

「カーニスさん、それがアナタが持っているという『情報』なんですか?」

「ええそうよ。 まあこれらは“既に出来上がっている情報”ってあるだけで、例えば『次世代エネルギーの開発』だったり『有人操縦式の人型ロボットを造る事』であってもね、難しいものとは思っていない。 他にもね、『地球温暖化対策』だったり『エネルギー不足問題の解決』なんかは“割と簡単な話である”って思ってる。 まあ“直ぐ様(すぐさま)実現出来る”ってーワケでもないからね、多少の時間は必要だけれど♪」

「…………」

 ボクは話を聞いていて「冗談(ハッタリ)か?」と正直思った。 なんだか“ボクの事を馬鹿にしてる”ようにも思えたし、“ボクのリアクションを見たいが為の揺さぶり”だとも思われた。 しかし少なくとも「組織」の人間はボクに対して“お金を払っている事(お金を払ってまで情報を得たいと考えている事)”は事実であるし、彼女が飄々(ひょうひょう)とはしているものの“嘘を吐いている”ようにも見えないでいた。

 ボクは尋ねた。

「その情報はどのようにして知ったんだい? “インターネット上の掲示板”にでも書かれてあった事なのかい? それとももしくは“君が未来人である”だとか、そういう話であるのかい?」

 ボクは“挑発めいて”はそう言った。

「…………」

 するとボクの質問に対しては彼女は“お手上げポーズ”をとってみせ、暫し(しばし)両目を閉じ遣った。 そして後、彼女は両目を閉じたままに“手振り”をしてはボクに対してこう言った。

「まあ……それが正しいリアクション。 “世の中”ってーのはそーゆーモノであるのよね。 けれどもアレだ、そのアレだ……。 私の主張が“ウソである”のだと言うのなら、アナタはそもそも“私の前には居ない”ハズ。 そうでしょう? 結論を言うと、“私が嘘を吐いていようがいまいが”ね、“アナタは私の言葉を信じる意外に道は無い”って事なのよ。 そうでしょう?」

 彼女はボクへとそう言った。 ボクの足下(あしもと)を見た正論である。

ボクは言う。

「確かに。 ……それで結局の所、君は“その情報を”ボクに教えてくれるのかい? モチロン“詳しい中身”まで」

「ハハハ、無理よ。 アナタに伝える理由が無いもの。 私に“得(とく)”が無いからね♪」

 彼女はボクを小馬鹿にしながら身振りを加えてそう言った。

「だったらどうしたらボクにその“情報を教えてくれる”んだい? 君の口ぶりからしてみると“話すつもりはある”って風に聞こえるよ」

 ボクは彼女が“話したがっている”と考えた。

「フフフフフ……私には“目的”というものが存在している」

 彼女は目を閉ざしたままに食い付いた。

「もしもアナタが“それを叶えてくれる”と言うのであれば、私はアナタに協力をして進ぜ(しんぜ)よう……」

 彼女は右手を胸の前まで持って来ては“恭しい(うやうやしい)ポーズ”をしてみせた。

「君の……願い……?」

 ボクは尋ねた。

 彼女は言う。

「私は“この国”に“『自殺志願者処理施設』を欲しい”と思ってる。 もしもアナタが“その願いを叶えてくれる”と言うならば、私はアナタに協力しましょう……」

彼女は恭しくに礼をした。

「…………。 “また”かい?」

「ええ、“また”よ♪」

 彼女は“昨日と同じような事”を言って来た。 そしてボクへと笑顔を向けてみせていた。

 ボクは言う。

「残念な話であるけれど、それは“無理だ”とボクは思う」

「あら、どうして?」

「まず第一に“ボクはそんな力(権力)を持ってはいない”し、第二に“仮に国に呼び掛けをしたのだとしても協力してはくれないだろう”と思われる。 そもそもボクは“組織の依頼”でココへと来ている。 “国の依頼”じゃあ無いんだよ」

……とは言うものの、ここの「組織」が実は「国の組織である」という可能性も有るのではないかと思いもするが。

 言われて彼女は両目を開けては体を揺らしながらにこう言った。

「だったらこの話は“これまで”である。 私の持ってる『特別な情報』のその全て、“ゴミ箱の中”へと入れ遣る事になるだけよ♪」

 彼女は言う。

「ねぇねぇねぇ……、もう一度考え直してみてはくれないかしら? 私にとってもアナタにとっても、どちらにとっても利益のある“旨い(うまい)話である”って思うのだけれど?」

 ボクは言う。

「君はその……“著作権”とかを取ってみようとは考えないのかい? (ボクは詳しいやり方は知らないけれど)その事は“君の利益になるんじゃないか”と思うのだけれど?」

 言われて彼女は体を揺らしながらにこう言った。

「あーー~~。 私ね、“お金を貰っても仕方が無い”ってー思ってる。 (金持ちになる事は)“悪くは無い”とは思うんだけれど“(人生を)早く終わらせたい”ってー方がだね、“欲望としては大きい”のよね」

「それでもやはり、君の願いは“無理だ”と思うよ」

「だったらこれにて“お開き”よ。 アナタの(私へのカウンセリングの)お勤め御苦労さん♪」

 彼女は「クスクスクス」と笑いながらに余裕を見せた。 彼女にとって「彼女の望み」は“どうでもよい事”であるかも知れない。 いや寧ろ(むしろ)「自分の望みすら既に諦めてしまっている」からこそ、“全てがどうでも良いと考えている”のかも知れなかった。

「…………」

「…………」

 少しの間、無言の時間が過ぎ去った。

 そしてボクは再び彼女に問い掛けた。

「君の……“本当の願い”は何なんだい?」

「やっぱり難しい“お話”なのかなぁ……」

「えっ……?」

 彼女はボクの“話の流れ”を断ち切り、言った。

「私ね、“世の中の役に立ちたい”って……、“誰かの事を救いたい”って考えてたの……。 けれどね、私は“失敗”しちゃったの。 私は“失敗作”であるのよね……。 それでもね、私は“どうにかこうにか”頑張って、“努力してきたつもり”でいたんだケドさ、それでもやっぱり無理だった……」

 彼女は言う。

「例えばね、『若返りの秘術』であったりね、『次世代破壊兵器』であったりね、人類の皆様方は“こういったものを求めてるんじゃーないのかな”って思ってね、だからね私は“それらの情報を提供してみせ遣るその事”で“私の願いを叶えてくれないかなぁ~”って思ったの」

「君はその、なんだ……」

「そこで私は閃いた!」

 彼女は両手の平を合わせては満面笑顔でこう言った。

「私の考え方は間違いじゃない! 唯々(ただただ)人類の皆様方が“私の能力を疑っているだけである”ってね! そう、私の主張に対するね“信頼が無いだけなんじゃないのかな”って! “信用の無い人物の大言(たいげん)”は“大法螺吹き(おおほらふき)と変わらない”ってね! うんうん、わかる! すっごく分かる!」

 頷いてみせては彼女は言う。

「だからね私は考えた。 “私の能力の一部”をね、“疑いようの無い力”をね、“絶対的なもの”を見せたらね、“信頼をしてくれるんじゃないかしら”って思ったの。 それ故に私は“力”を見せてくれていた……。 その“ほんの一部の力”をね、皆様方に“披露してみせた”って言うワケなのよ……♪」

 彼女は「ニマァ……」と笑っては、その目は垂れては薄く開き、クチは耳の辺りまで横広く“裂けている”様に見えていた。

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